首都圏治安警察機構とは (シュトケンチアンケイサツキコウとは) [単語記事]

首都圏治安警察機構とは、押井守原作の作品群「ケルベロス・サーガ」に登場する架空の警察組織である。略称は首都警。

概要

ドイツとの戦争に敗れ、ワイマール体制下で占領統治を受ける日本は、占領軍の政策で警察組織の大幅な変更を行う。それは戦前の内務省の監督を受ける国家警察体制から、人口5000人以上の地方自治体に設置される自治体警察と、それ以外の町村部を管轄とする国家地方警察の体制へと移行するもの。中央集権的な警察組織を分散させ、民主的に運営する狙いがあった。しかし、諸派に分裂した政治闘争組織(セクト)の増加や暴力事案の激化により、治安は悪化。これが自治体警察の対応力を超えていたことから、新たなる治安政策が求められていた。

政府は自衛隊の治安出動を回避しつつ、国家警察再編を目論む自治警をけん制するために、新たな警察組織の設置によって治安の改善を試みた。この警察組織が首都警である。首都警は首都圏を管轄とし、ドイツ軍払い下げの重火器で武装し、強力な実力行使をもってセクトや暴力団を制圧していった。

組織

総務部
- 会計、装備、警務など、機構の維持管理を行う部署。
警備部
- 首都警の執行隊「特機隊」を擁する。首都警の実働部隊である。
公安部
- 公安事案の初動捜査を行う公安特科隊や、捜査部門の公安課を擁する。
首都警養成学校
- 特機隊の訓練を行う学校。

特機隊

首都警にあって、実際に警備を実施する執行隊。正式名称は作品によって異なり「特殊武装機動警備大隊」、「特殊機甲大隊」とも。いずれにしても大隊編成の強力な機動隊という性質を持つ。

特徴はその装備と警備方針にある。特機隊は抗弾性能の高い強化装甲服やMG42などの強力な火器を装備し、その高い戦闘力を行使することを前提にした警備を行う。実力行使に偏重しており、故に世論の指弾を受けることになった。

公安部

公安部は公安事案の捜査を行う部署で、その目的は自治警のそれと基本的には同じである。捜査や情報収集を軸にセクトを取り締まろうとしており、同じ首都警とは言え、実力行使に偏重した特機隊とは異なる立場を取る。

首都警の重要人物

安仁屋勲
- 警備部長。実質的な首都警の統率者。政官界に強いパイプを持っており、吉田茂内閣で法務大臣や行管庁長官を歴任したタカ派の政治家である木村篤太郎と知己である。
室戸文明
- 公安部長。内務省警保局出身で、警察行政に明るい。公安活動によってセクトを抑えようと思っており、特機隊の実力行使偏重を苦々しく思っている。ケルベロスの乱に際し、特機隊の犯行と見せかけて東京都公安委員を殺害を指示した疑いがある。
巽志朗
- 特機大隊長。首都警きっての武闘派。特機隊の戦闘力によってのみ、治安を維持できると信じている。旧内務官僚の後藤田正晴や、木村篤太郎とも知り合いであり、首都警創設に関して何らかの政治的画策があったとする見方もある。昭和42年、後述するケルベロス騒乱を指導し、特機隊によるクーデターを起こす。その際、特機隊を鎮圧するために治安出動した陸上自衛隊の攻撃を受け、死亡した。
半田元
- 特機隊副長であり、理念の面でも巽の腹心である。占領軍のG2(情報部)で対敵防諜を行った経歴を持つ。首都警内部においても、特機隊保全の為の非公式の防諜組織「人狼」を組織していると言われている。ケルベロス騒乱時に行方不明になり、以後は生死不明。

首都警が関わった重要な公安事案

四谷暴動
- デモが騒擾に発展し、セクトと特機隊が激しい戦闘を行った事件。これ以後、特機隊に対する世論は厳しいものとなった。
ルフトハンザ機ハイジャック事件
- この前に起こったドイツ大使館占拠事件と密接な関係を持つハイジャック事件。主流から外れた武闘派のセクト「日本人民革命党」は、囮部隊がドイツ大使館を占拠して特機隊を引き付ける一方で、本隊が羽田空港に駐機していたルフトハンザ機を乗っ取った。セクトメンバーは出場した特機隊によって制圧された。
パルク事件
- ドイツのパルク外交特使をデモ隊が取り囲み、特使の目の前で特機隊とセクトが交戦した事件。当初は警視庁の機動隊が警備を実施していたものの、デモ隊は機動隊の防御線を突破し特使の車を取り囲んでしまう。後方で警視庁機動隊を支援するために待機していた特機隊は、状況を見て直ちに介入。これにセクトが応戦したために、激しい市街戦へと発展する。セクト制圧には成功したものの、過剰警備を以前から批判されていた首都警にとって致命的となり、首都警の廃止が決定される

ケルベロス騒乱

昭和42年 2月26日に発生した、特機隊によるクーデター事件。別名、226事件。首都警解散に反発した巽志朗以下特機隊が蜂起し、自治警と交戦を繰り返しながら警視庁まで到達、占拠した。これに対し政府は、自衛隊の治安出動を決定。陸上自衛隊に新たに編成された、強化服装備の普通科部隊が出動した。部隊は特機隊に対して危害射撃を実施し、巽志朗以下特機隊員を射殺。首都警訓練学校に篭城していた部隊も警視庁が制圧し、特機隊は多数の死者を出して壊滅し、その歴史を終える事となった。但し半田元ら数名の特機隊員は行方不明となり、その消息は把握できていない。

尚、この事件において東京都公安委員数名が特機隊の銃で射殺されているが、実は自己の目論見に不都合な委員を粛清するために、室戸文明が配下の公安部員を使って殺害したのではないかと言われている。

首都警以外の「特機隊」

警視庁
- 第6機動隊と第9機動隊に、強化装甲服と突撃銃を装備した特殊突入部隊・通称SSG(Spezial St urm Gruppe)を編成した。昭和52年に発生したダッカ日航機ハイジャック事件では、第9機動隊内に設置されていたSSG9が強行突入を実施し、犯人を制圧し人質を無事に解放した。
陸上自衛隊
- 市街戦を想定し、強化装甲服やPzB39対戦車ライフルを装備した部隊が編成された。

史実との比較

史実では首都警なる組織は勿論存在しない。だがそれ以外の部分では設定と史実に類似した点もある。比較の参考として以下に述べる。

自治体警察

先の大戦でアメリカとの戦争に敗北した大日本帝国は、米英の占領統治を受ける。その際、GHQは警察民主化政策として、既存の警察に置き換えて国家地方警察と自治体警察を創設させた。これはアメリカの州警察と郡保安官及び市警察の関係を、ほぼそのまま日本に輸入したものである。

自治体警察は人口5000人以上の市町村に設置するとされ、2つ以上の警察署がある場合は警察本部を設置すると定められた。自治体警察の長は警察長と呼ばれ、警察署長と兼任することができた。司法警察職員として警察吏員を擁し、彼らが警察官に相当する。また複数の市町村で警察事務組合を編成し、共同で警察事業を行うこともあった。平たく言えば、消防のような方法で警察を設置したようなものである。

国家地方警察は、自治体警察を設置しない自治体で警察活動を行うための国家警察である。警察官は全員が一般職の国家公務員である。国内を6の管区にわけ、その管区内に国家地方警察都道府県本部を置き、所轄署に相当する地区警察署を設置した。この都道府県本部のうち北海道本部は後に廃止され、札幌、函館、旭川、釧路、北見の五方面本部が都府県本部と同格とされた。国警は自治警と同格とされ、互いに指導・監督という立場ではない。国警が自治警支援の為に警察官を派遣した場合でも、警察官は自治警の指揮下に入るとされた。

民主的な戦後警察として始まったものの、自治体予算の圧迫、腐敗の横行、後述する治安情勢の悪化などを受け警察法が改正され、今日に至る警察庁と都道府県警察の体制に移行した。これは言わば、国家警察と自治体警察の折衷案的と言えるだろう。

元警察官僚の佐々淳行によると、現在の制度への移行に強く反対した中には、東京警視庁や大阪市警視庁など大都市の市警察もあったという。よって作品のように、警視庁が国家警察への昇格を目論んでいたわけではないようだ。

治安の悪化

史実においても、昭和20年代～30年代初頭にかけて治安は悪化した。戦後の混乱期であるが故に、愚連隊や暴力団の犯罪が横行。また朝鮮総連や共産党が火炎瓶闘争をしていた頃でもある。一般犯罪や公安事案の激化に対するに、自治体警察の能力は低かった。中には神戸市警察のように、山口組三代目の田岡一雄に支援を依頼し、見返りに神戸市水上警察署の一日署長をやらせたような事例もある。