はつゆき型護衛艦とは、海上自衛隊が保有していた汎用護衛艦(DD)である。艦名は最後に「ゆき」がつくため、「ゆき型護衛艦」とも呼ばれる。
概要
1970年代、拡大を続けるソ連原潜の脅威に対抗すべく、海上自衛隊は8隻の護衛艦と8機の対潜ヘリコプターを中核とする「8艦8機体制」通称「88艦隊」の整備を決定する。その中核の一つとして建造されたのが、このはつゆき型護衛艦である。
対潜ヘリコプター&アスロック&短魚雷の三段構えの強力な対潜火力と、自衛用のシースパロー対空ミサイルとファランクスCIWS、対艦火力としてのハープーン。そして多用途に使用できる主砲という構成は、最新鋭艦あきづき型護衛艦にも引き継がれており、海上自衛隊の汎用護衛艦の基礎を打ち立てた、極めてエポックメイキングな艦である。
外見的な兵装だけではなく、未だにマニュアルオペレートが多かったものの、UYK-20デジタルコンピュータを中核としたCDSにより、従来艦に比較して大きくシステム化されたことも特徴である。
建造に当たっては予算上の都合から排水量の制限(基準3,000トン以下)が厳しく課されたため、小規模船体に多数の武装と電子装備が密集しているような、かなり戦闘的な外見をしている。なお、中途までは重量軽減のため上構造物は軽合金だったが、途中より主に火災対策として鋼製に改められた。
1982年より配備が始まり、12隻が建造された。
2023年12月に、練習艦になっていた最終艦の「しまゆき」(2021年除籍)が解体業者に引き渡され、はつゆき型護衛艦はすべて解体となった。[1]
性能諸元
| 全長 | 130.0m |
| 全幅 | 13.6m |
| 排水量 | 基準2950トン(8番艦「やまゆき」以降3050トン) 満載4000トン(8番艦「やまゆき」以降4200トン) |
| 乗員 | 200名 |
| 武装 | 62口径76mm単装速射砲 1基 高性能20mm機関砲(CIWS) 2基 シースパロー短SAM8連装発射機 1基 アスロックSUM8連装発射機 1基 ハープーンSSM4連装発射筒 2基 3連装短魚雷発射管 2基 また、艦橋両舷に12.7mm重機関銃を設置可能 |
| レーダー | OPS-14対空レーダー OPS-18対水上レーダー |
| ソナー | OQS-4ハルソナー OQR-1曳航ソナー |
| ECM | NOLR-6C電波探知装置 |
| ESM | OLT-3電波妨害装置 Mk36 SRBOC(チャフ発射機) |
| 速力 | 最大30kt |
| 主機 | COGOG方式 2機2軸 巡航用「タインRM1C」4620馬力 2台 高速用「オリンパスTM3B」2万2500馬力 2台 |
| 搭載機 | 対潜ヘリコプター1機(当初「HSS-2B」後に「SH-60J」) |
特徴
- 大型対潜ヘリコプター「HSS-2B」(現在では「SH-60J」)1機の搭載
- それまで大型艦にしか搭載されなかった、大型の対潜ヘリコプター1機を搭載した。
これにより、艦隊のヘリを大型ヘリ1機種にまとめることが出来、整備・補給が簡単なほか、小型対潜ヘリでは不可能だった強力なセンサーと武装を積むことができた。
なお、搭載ヘリとは専用データリンクが構築され、「艦のセンサーの一部」として扱われる。 - バランスの良い武装と強力な対潜火力
- 対空では「シースパロー対空ミサイル」「76mm砲」「CIWS」
対艦では「ハープーン対艦ミサイル」「76mm砲」
対潜では「対潜ヘリコプター」「アスロック」「短魚雷」
など、様々な敵に対応できるバランスの良い武装を搭載した万能艦として完成した。
特に対潜火力は、3段構えの武装は世界的に珍しく、強力な物である。 - DD初の「システム艦」
- 武装やセンサーを汎用護衛艦としては初めてコンピュータと接続し制御するシステム艦である。
戦術情報処理装置「OYQ-5 TDS」を中核とした物で、計算機は米国製だがプログラムは国産である。
ただし、スペースの関係上、主計算機である「UYK-20」が1台しか搭載できなかったため、演算能力の不足の結果、データリンク装置はテレタイプ受信専用の「リンク11」で受信し、それを手でOYQ-5に入力する変則的で不完全な物になってしまった。
この解決は後の「あさぎり型護衛艦」の登場を待つ必要がある。 - オール・ガスタービン推進方式の採用
- 海上自衛隊初のオール・ガスタービン推進方式を採用している。
ガスタービンエンジンは、簡潔に言えば航空機のジェットエンジンの排気でタービンを回す物で、燃費こそ悪い物の、小型軽量大出力で起動が速く、出力の応答性に優れ、騒音対策が簡単。また遠隔操縦が簡単で、エンジン本体はほとんど整備する必要性がない(*)と多くのメリットがある。
(*本体は外して工場に送って整備する。乗員は潤滑油ポンプなどの補機整備などでよい)
はつゆき型では、巡航用と高速用のエンジンを別に持ち、必要に応じて切り替える
「COGOG方式」(Combined Gas turbine or Gas turbine)を採用している。
巡航用が燃費の良い「タインRM1C」(4620馬力)
高速用が超音速旅客機コンコルドのエンジンの改造品「オリンパスTM3B」(2万2500馬力)
それぞれ2台が1台ずつ左右軸に接続されている。なお、エンジンの構造上逆回転はできない。
そのため、スクリューの羽のピッチを可変させる「可変ピッチプロペラ」を採用し、回転方向は常時同じでも、ピッチをマイナスにすることで後進できるようになっている。
同型艦
| 艦名 | 艦番号 | 竣工日 | 配属 | 定係港 |
| はつゆき | DD-122 | 1982年3月23日 | 第1護衛隊群 | 横須賀 |
| しらゆき | DD-123 | 1983年2月8日 | 第1護衛隊群第41護衛隊 | 横須賀 |
| みねゆき | DD-124 | 1984年1月26日 | 第2護衛隊群第42護衛隊 | 佐世保 |
| さわゆき | DD-125 | 1984年2月15日 | 第1護衛隊群第41護衛隊 | 横須賀 |
| はまゆき | DD-126 | 1983年11月18日 | 第2護衛隊群第42護衛隊 | 佐世保 |
| いそゆき | DD-127 | 1985年1月23日 | 第1護衛隊群第43護衛隊 | 横須賀 |
| はるゆき | DD-128 | 1985年3月14日 | 第1護衛隊群第43護衛隊 | 横須賀 |
| やまゆき | DD-129 | 1985年12月3日 | 第2護衛隊群 | 呉 |
| まつゆき | DD-130 | 1986年3月19日 | 第2護衛隊群第44護衛隊 | 呉 |
| せとゆき | DD-131 | 1986年12月11日 | 第2護衛隊群第42護衛隊 | 佐世保 |
| あさゆき | DD-132 | 1987年2月20日 | 第3護衛隊群第45護衛隊 | 佐世保 |
| しまゆき | DD-133 | 1987年2月17日 | 第3護衛隊群第45護衛隊 | 佐世保 |
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関連項目
脚注
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