CIWS(Close In Weapon System、シウス/シーウス[1])とは、対艦ミサイルが主軸となる現代水上艦艇における最終的な個艦防御システムの総称である。
ここではCIWSの説明と共に代表的なCIWSについても簡単にふれる。
概要
水上艦が対艦ミサイルによる攻撃を受けた場合、ハードキル(ミサイルや艦砲で迎撃)とソフトキル(ECM(電子妨害)・チャフ・フレア・煙幕などを駆使して敵ミサイルが目標に到達しないようにする)を駆使して防御を行う(勿論脅威下においては発射母機・母艦を攻撃前に無力化するのが最善)が、これらの対抗処置でもダメな場合に、最終手段としてCIWSで迎撃が行われる。
CIWSの基本コンセプトは20mm~30mmクラスの機関砲による弾幕で接近するミサイルを物理的に無力化するというのものなので、有効射程は数km程度とごく短距離になっており、これが動き出したとすれば個艦防御の最終局面で、ミサイルはもう直前(着弾まで数秒)まで迫っている危険な状態であるといえる。
CIWSは上記のような緊急時に使うため、基本的に捜索・追尾・照準用のレーダーや電子光学機器等を含めた(完結した)ユニットとなっている。これは艦の防空システムから独立して対空防御を行えるようにしているためでもある。通常のフリゲートクラスでは艦の前後、大型艦では舷側に二基など、全周をまかなえる配置となっているので艦船の映像や写真など見る機会があれば見てみるといいだろう。
…ただし昨今の対艦ミサイルは大型化・高速化しているため、20mmや30mmではミサイル弾頭を破壊し完全に無力化するまでに至らない、あるいはそもそも命中しないのではないか? とその有効性が若干疑問視されているのも事実ではあるが、あまり規模を大きくすると通常装備などが乗せづらいなど様々な問題が生じるため(後述するゴールキーパーはあまりにシステムが大きすぎて搭載されている艦が少ない)、RAM対空ミサイルシステムを搭載する艦艇もふえてきている。
なおフランスやドイツ、イタリアの艦艇はオートメララの76mm砲でCIWSの領域まで防御させる。76mm砲なら近接信管による榴弾の破片と爆発でも対艦ミサイルの迎撃に効果が期待されるからである(20mmや30mmの榴弾ではさすがに効果が期待できない)。
要するにどういうこと?
難しい事を一切抜きで説明すると
- 自艦に対して高速で飛翔するミサイルを
- ガトリングガンの強烈な弾幕(一部ミサイルの場合もあり)で
- 強制的に叩き落とす最後の防衛手段
…である。これに失敗すると被弾と大損害は免れない。
ただしシステム自体が物理的に大きいため、小型船舶や一般車両への搭載は困難。
代表的なCIWS
Mk.15 ファランクス
アメリカ・レイセオン社が開発したCIWS。もっぱらCIWSといえばこちらを想像する人が多いだろう。バルカン・ファランクスとも。
1969年に開発を開始、1980年に実用化された。捜索用アンテナと追尾用アンテナを同軸に上下配置したレーダー、20ミリ6連ガトリング機銃、ドラム型給弾機構を電動油圧3軸架台に装着、下部に電子機器、レーダー送信部、海水循環式冷却装置を備えた独立システムとして上甲板に艤装する。block0はシースキマー型の対艦ミサイルを対象に開発されたが、スカイ・ダイビング型の対艦ミサイルが出現したため、天頂捜索能力を備えたブロック1が開発され1980年代末期より運用されている。block1では発射速度も3000発/分から4500発/分に増加している。[2]
その後も対艦ミサイルの命中直前の高G運動への対処能力を高めたブロック1A、FLIR(赤外線前方監視装置)を追加して低高度を飛ぶ対艦ミサイルおよび水上目標への射撃性能を強化したブロック1Bが開発され、海自も導入している。[3]
弾丸は直径12.75ミリのペネトレーターの外側を、発射後飛散するサボ(ナイロン製)とプッシャー(アルミ製)で覆った構造になっており、ペネトレーターは当初劣化ウランを使っていたが、1988年以降はタングステンに変更、海自は当初から後者を使用している。[4]
1996年に行われたリムパックにおいて、海上自衛隊のゆうぎりが標的を曳航していたA-6をファランクスで撃墜してしまう事故が発生、当初は機械的な故障とされていたが後にヒューマンエラーであることが判明し、これ以降ファランクスには味方撃ちを避ける対策として赤外線カメラと電子光学カメラが追加されている。[5]
Mk.15のメリットはそのコンパクトさで艦にあまり影響を及ぼさない作りになっているのだが、いかんせん20mmでは有効射程が短いこと、高速化する傾向にある対艦ミサイルに対して弾頭破壊まで至らないのではないか(破壊しても艦に近ければ損害も発生する)というわけで、ファランクスでは防御力が足りないのではないかという懸念が付きまとっている。
ただ、20mmというちょうど手ごろな攻撃力もあってか、最新のBlock1Bでは手動制御も可能にして水上小型目標(自爆艇など)やUAVなどの小型目標も追尾、破壊できるようになった。これは駆逐艦コールに対する小型艇自爆テロなどの教訓から海上におけるチープキル(安価な小型艇や小型航空機、無人機などによる非対称攻撃)対策や、海賊など非軍事目標への対処能力の向上が進められていることが背景にある。
陸上型(車載型)
ファランクスはC-RAM(Counter Artillery, Rocket and Mortar:敵のロケット弾や砲弾、迫撃砲弾への対処)にも応用されており、大型トラックにファランクスを載せたMLPWS(Mobile Land-Based Phalanx Weapon System)「センチュリオン」が、既に実用化されている。[6]
ゴールキーパー
オランダ・シグナール社(現フランス・タレスグループ)が開発したCIWSで、A-10攻撃機にも搭載されているGAU-8アヴェンジャー・30mmガトリング砲を搭載。破壊力もあるがいかんせん高価でシステム規模も大きく、最初から搭載を考えた設計にしないと艦重心位置などに影響を及ぼすためか、搭載している艦艇はあまり多くない。
RIM-116 RAM(Rolling Airframe Missile)
バルカン・ファランクスの問題点(近距離で破壊されたミサイルの残骸が艦内に飛び込む恐れ、有効射程が短いので目標に対処する時間が2秒程度しかない、弾数は多くないので迎撃できるミサイルの数はせいぜい2基で、再装填にも時間がかかる)を解決するために、1974年からアメリカ海軍が開発に着手した小型ミサイル。しかし開発が難航したため、配備が始まったのは1992年になってからである。[7]
ミサイルは、艦載レーダー等によって得られた目標データを入力して発射し、発射後は目標から放射されるレーダー波を感知して飛行方向を決め、ミサイルの赤外線シーカーが目標を補足すると赤外線ホーミングに切り替わる。ブロック2ではシーカーを赤外線画像誘導方式に変更、全行程を赤外線誘導にできる。[8]
ミサイルはサイドワインダーの弾体とスティンガーの赤外線シーカー(追尾装置)を転用してコストを抑えている。ミサイル弾体を飛行中に回転させることで飛行制御とシーカーによる捜索を行う構造になっており、これがローリング・エアフレームの名称の由来である。
射程距離も9~10kmと、ファランクス(同約1.5km)の6倍以上とされており、より遠距離での迎撃が可能となった。これによって敵ミサイルの撃墜時、高速で飛散した破片により艦のレーダー・センサーなどが損傷するリスクを抑える事が出来るとしている。
製造元であるレイセオン社によるテストでは、これまで300回以上の発射で95%の成功率を叩き出しているらしい。
ただし、RAMは終端誘導を赤外線シーカーによって行う関係上、連続発射すると先に発射したミサイルの発射炎がフレアのように作用してシーカーを妨害してしまい、命中精度が低下するのではないかと言う懸念が一部にある。また、機関砲CIWSのように対地・対水上攻撃に転用しづらいというデメリットもあったが、HASモードの導入で一部の型式では対水上目標にも対応出来るようになった。
上記デメリットを克服すべく、赤外線画像追尾方式や新型誘導電波(ERF)レシーバー、強化型ロケットモーターを導入、機動性・射程距離などの各性能を大幅に向上させたBlock2が開発された。 米海軍においは2014年内から、共同開発国のドイツ海軍でも間もなく初期運用が開始される予定となっている。
SeaRAM
ファランクスのFCSにRAMのランチャーを組み合わせたもので、外部から目標情報を入力する必要がない。
このシステムは海上自衛隊では、「ひゅうが型」に続く「いずも型護衛艦」(19500トン型DDH)において初めて搭載された。 いずも型護衛艦も最新型のBlock2を搭載しているものと思われる(「あぶくま型護衛艦」にも装備される計画があり、主砲と艦橋の間に必要なスペースが確保してあったりする・・・)。
AK-630
旧ソビエトで開発された30ミリ機関砲を使用するCIWSで、ファランクスに比肩される旧東側におけるデ・ファクトスタンダード。射撃指揮レーダーと砲座そのものを分離して配置する方式になっており、1基の射撃指揮レーダーで2基の砲座を管制する。
人民解放海軍では独自のステルス性を考慮したシールドつきのタイプを使用している。
730型
中国人民解放海軍のオリジナルCIWS。7銃身30㎜ガトリングガン。砲台にレーダーと光学センサーを積んでいるがスタンドアロンというわけではなく搭載艦のレーダーの支援が必要とのこと。
広州級駆逐艦など大型艦の標準装備であるが問題はお値段で、上記AK-630の2倍弱なんだとか。
1130型
上記730型の改良型……、なのだが11銃身30㎜ガトリングガン、ばら撒ける弾は分間10000発を豪語する化け物。空母『遼寧』に初めて搭載されたが、ガトリングガンの発射限界は分間6000発という説があり性能については疑問視されていた。しかし1130型は次期主力駆逐艦である055型駆逐艦や昆明級駆逐艦の後期型に搭載されることが決定しており問題はないようである。
HQ‐10
ざっくり言えば中国版RAM。面白いのはミサイルランチャーの種類で、24発入り(蘭州級駆逐艦で採用)18発(遼寧で採用)8発(056型コルベットで採用)4発(現在採用艦はなし)と四種類もあり艦艇によって使い分けている。基本的にはファランクスとRAM の関係と同じく730型&1130型とコンビで運用するが、056型のようにHQ-10のみ搭載するケースもある。
CADS-N-1
ロシア製CIWS。30mm機関砲を連装で搭載し、それぞれの上部に4基ずつのSA-N-11対空ミサイルを装備したガン/ミサイル複合式の大型CIWS。システム名称はコールチク、輸出名称カシュタン。ソビエト/ロシア陸軍で運用されているツングースカ自走対空砲と似た構成をとっている。
ミサイルと機関砲を両方装備することで対処能力の向上を図っているが、システム自体が大型で高コストなものとなってしまっている。
ミレニアム
某笑顔の絶えない職場ではない。スイス・エリコン社製CIWS。35㎜リボルバーキャノンを採用。重いことがネタにされるゴールキーパーよりさらに重く、デンマークのアプサロン級とアイバー・ヒュイトフェルト級のほかはベネズエラ海軍の警備船の主砲に使われているぐらいである。ちなみにレーダーとかはなく索敵・追尾は搭載艦のレーダーに頼る。
メロカ
スペイン・国営イサル造船製CIWS。エリコンKA20㎜機関砲[9]を横六列縦二段、計12門を束ねて順番に発射させるという珍兵器。しかし機関部が壊れたらそこまでというガトリングガンと違い、1門ジャムっても残り11門が撃てるので馬鹿にできたものではない。
関連動画
関連静画
MMDモデル
関連リンク
関連項目
脚注
- *CIWSのCloseは「クローズ」ではなく「クロース」と発音する。クローズだと「閉じる」という意味の動詞だが、クロースと発音すると「近い、接近した」といった意味の形容詞になるためで、近接防御火器システムなどとも訳されるCIWSでは「クロース」と発音する方が正しいのである。
- *「各国のCIWSラインアップ」木下郁也 世界の艦船1991年11月号
- *「国産護衛艦建造の歩み 第24回」 香田洋二 世界の艦船2014年12月号
- *「国産護衛艦建造の歩み 第24回」
- *The Last Time A Japanese Warship Shot Down A U.S. Navy Plane Was Actually Not So Long Ago 2021.6.4
- *ミサイル防衛に関する最近の話題(16)C-RAM 2021.3.20
- *「最強!第7艦隊最新図鑑」坂本明 コスミック出版 2018 p.96
- *「最強!第7艦隊最新図鑑」pp.96-97
- *零戦に積まれていた20㎜機関銃と共通のご先祖様(エリコンFF20㎜機関砲)を持つ。
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