魚雷(魚型水雷)とは、水中を進み着弾すると爆発を起こし船舶を破壊する兵器である。水雷の一種。
概要
爆発物を水中で爆発させることで艦船を破壊する「水雷」は、まず静止水雷、すなわち機雷として発達した。次に出現したのが「外装水雷」で、長い棒の先に火薬缶を取り付け、ボートで敵艦に近づいて喫水線下に突っ込んで爆発させたり、水雷艇の後方に爆薬を曳航して敵艦のわきをすり抜けつつ爆発させる、といった方法が取られたが対策が行われて19世紀末には廃れた。オーストリアのルピス少佐は別の海兵士官の無人外装水雷艇の構想図を見て興味を抱き、独自にボートを作って実験したが、採用には至らなかった。ルピスの相談を受けたホワイトヘッドはこれは無人潜航艇にすべきと考え、独自に魚雷を完成させた。その後改良を加えたものがオーストリア海軍によって試験され、1868年に採用された。[1]
魚雷の登場は20世紀の海戦に大きな影響を及ぼした。陸軍の歩兵連隊と海軍の戦艦は、それぞれ千数百名の兵員で構成される戦闘単位である。しかし歩兵小隊が歩兵連隊を一撃で全滅させる武器など考えられないのに対し、20世紀の戦艦には、潜水艦、水雷艇、飛行機が放つ、たった1発の魚雷で沈んでしまう可能性が生じたのである。[2]
初期はろくな安定か装置もなかったため射程や進路の安定性が悪くお世辞にも使い勝手のよい兵器ではなかったが、第一次世界大戦の頃になるとジャイロによる姿勢安定が可能になり進路の安定性がかなり改善された。しかし信管の不具合に起因する早爆や不発は第二次大戦の後期まで各国海軍で多発しており、信頼性のある兵器とは言えなかった(特にアメリカのMk.14魚雷は酷かった)。誘導は第二次世界大戦末期まで実用化せず、それまで魚雷は真っ直ぐ進むことしかできなかった。そのため扇状に複数本発射するのが普通だった。
第二次世界大戦後、レーダーとミサイルの発達により速度と射程に劣る魚雷は潜水艦の主兵装、そして水上艦艇の対潜兵器としての道を歩むようになった。
区分
魚雷はまず大きく分けて短魚雷と長魚雷にわかれる。ただしサイズは国や時代でまちまちである。
- 長魚雷
比較的長く大きくて長射程の、対艦用の魚雷である。第二次世界大戦頃までは水上艦艇の兵装として長魚雷も多く搭載されていたが、レーダーと対艦ミサイルの発展によりそれらは姿を消した。また航空機用の長魚雷も同じようにかつての主力だったが、航空魚雷は敵艦に対し一定の姿勢と高度を保ち、接近して投下する必要があるためこれもレーダーと対空兵装の進化によって姿を消した。その一方で潜水艦用の長魚雷は誘導装置を積んだ上で主兵装としての座を保ち続けている。 - 短魚雷
比較的短くて小さい短射程の、対潜用の魚雷である。短魚雷は誘導装置が実用化し潜水艦に対する有効な打撃力を得てから生まれた魚雷であるため長魚雷に比べ歴史が浅い。現在爆雷に代わって水上艦艇や航空機の対潜兵器として主力の座にある。水上艦艇からの場合ただ発射装置から海上に投げ出すだけではなく、射程を伸ばすためロケットの先に魚雷を積んだ対潜ロケット、VLSから発射するため対潜ロケットに誘導装置を付けた対潜ミサイル(アスロック)など発射方法に工夫がされることもある。 また変わり種としては、Mk.60 CAPTOR機雷がある。この機雷、実はMk.48に筒状のカバーをかぶせたようなシロモノで、目標がくると魚雷を発射する。という形となっている。
現在、考えられている交戦エリアが沿海域に近くなるだろうという点から、浅深度運用が可能な(それだけ高度なセンサー系が必要となる)短魚雷などが開発・運用が行われている。海上自衛隊の12式魚雷が代表例。
推進システム
初期は圧縮空気やアルコールと圧縮空気のセット、ヴァルター機関などが動力源として使われていたが、現在では蒸気タービン、ガスタービン、電池、化学反応によるクローズドサイクル機関などが動力源として使用されている。この中でも日本的に有名なのは第二次世界大戦中の燃料の酸化剤に純粋な酸素を利用する酸素魚雷であろう。推進機は現代ではスクリューだけにとどまらずウォータージェットも利用されている。
速度もまた高速化をたどっており、第二次世界大戦の酸素魚雷(93式酸素魚雷1型)で大体速度は36~48ktとされているが、現在の魚雷速度は軍事機密により中々明らかにされていないが、英国のスピアフィッシュ魚雷で80kt(150km)とされているが真偽のほどは定かではない。最近の魚雷の航続距離は種類、用途によって異なるが大体30kmオーバーとされている。
さらには泡で水の抗力を減らすスーパーキャビテーション現象を利用し、先端から発生させた泡で魚雷を覆い、ロケットで推進することにより200ノット(時速370km)以上で爆走するロシアのシクヴァルという魚雷もある。もっとも、こんな速度で運用するわけでまともな誘導は期待できず、核弾頭の搭載が検討されていた(つまり命中なんて度外視で核爆発…)。ついでに射程距離も12km相当とされており、かなり使い道が限定されるシロモノである。
誘導装置と対抗手段
魚雷の誘導方法は潜水艦などと同じく音響誘導であり、魚雷に内蔵されたアクティブ/パッシブソナーが誘導装置として利用されている。中には有線誘導可能な魚雷もあり、その場合は射程などとの引き換えに母艦の強力なソナーを誘導に利用できる、ダミーを母艦の操作要因が判別できる、離れた場所に対する母艦の目として利用できるなどの利点がある。
自律誘導の場合、高速航行のためソナーの探知範囲が前方にかなり制限される。そのため航空機用の短魚雷は探索のためその場をぐるぐる回る行動をとるなど、事前のプログラミングによるパターン行動が可能となる。変わり種としては水上艦艇が航行する際に発生する航跡(ウェーキ)で生じる気泡を追跡して艦を探す、ウェーキホーミングがある。
なお最も早く配備された誘導式魚雷は、ナチスドイツのパッシブホーミング魚雷G7esシリーズであり、アクティブホーミング魚雷や有線誘導も配備は間に合わなかったものの開発が行われていた。この魚雷が配備された際、連合軍はすでにスパイなどから情報を得ており海中で雑音を発生させるダミーでこれに対処した。しかしこれに対しナチスドイツはダミーを判別しかく乱されない改良型を配備するなどここだけなにやら次元の違う魚雷戦が行われている。ナチスの科学は世界一チイイイイ!!
最終的にドイツ以外で第二次世界大戦中に誘導魚雷を配備できたのはアメリカだけだった。
魚雷に対する対抗手段(カウンターメジャー)の代表例としてはデコイと呼ばれる音響を攪乱するノイズメーカー。マスカーと呼ばれる微小な泡で船体をつつみ音響反射を防ぐ、あるいは雑音を出さないといった方法のほかに、母艦同様の音響を発信する囮魚雷といった方法がある。また、敵の発射した魚雷に対し迎撃することを念頭に置いた魚雷(対魚雷魚雷…ATT)も近年は存在するのだが、高速小型の魚雷を追尾することの困難性はいうまでもない。ロシア系列の海軍ではいまだに対潜(対魚雷にも使えるとされる)ロケット弾が装備されているのだが、有効性はどうだろうか…。
破壊力
基本的に今も昔も一撃必殺級である。
魚雷は水中で爆発し、その爆発の際に発生するバブルパルスと衝撃で船体を破壊する。このとき喰らった艦艇は水中部分にぽっかりと大穴が開く上に、衝撃により船の背骨といえる竜骨にすら大きなダメージが及ぶことも多い。被弾して水が浸入しようものなら運良く沈まなくてもその運動性は大きく減じられる。おまけに最近は命中直前に深度を深めにとり、艦底爆発を行う魚雷まで主流になってきている。
対抗策としては船体部分を小さな部屋で区切って浸水を最小限に抑えるなどの方法があるが、これも限界がある。しかも水中という特殊環境ゆえに、対艦ミサイルと違って対抗手段が限られてくる。これが現在でも潜水艦が魚雷を主兵装とする理由の一つである。
弾頭は水中でバブルパルスを発生するのに適した炸薬となっている。現代では複殻化した潜水艦に対抗するためHEAT弾頭を積んだモデルもある。
なお余談だが、昔々のひんがしの国に一撃必殺級であるはずの魚雷を20本近く(他にも爆弾17発)喰らってようやく沈んだお船があるとかないとか。
その他
CAPTOR
Mk46魚雷をカプセルに入れて海底に設置できるようにしたもの。搭載した音響センサは水上艦艇と潜水艦を識別でき、潜水艦を探知すると魚雷が自動的に発射され、最大10kmまで追跡する。理論上は半径約10km以内の潜水艦を撃破できるので、戦争が起きた場合はソ連の潜水艦が通過する海峡や狭い水路に設置することで短時間に「機雷原」を敷設できる。艦船や潜水艦からも敷設できるが、B-52なら18発、P-3、A-6、A-7はそれぞれ6発搭載できる。[3]
関連動画
関連項目
脚注
- *「魚雷の発達史」世界の艦船 1976年11月号
- *「日本の海軍兵備再考」兵頭二十八/宗像和広 銀河出版 1995 p.112
- *「第8章 対戦略潜水艦作戦」オーエン・ウィルクス 世界週報 臨時増刊号 1979
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