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ミクロコスモス(将棋)とは、世界最長手数の詰将棋である。その手数はなんと1,525手詰(発表当初は1,519手詰)。
その他の用法については、「ミクロコスモス」の記事を参照のこと。
概要
詰将棋作家・橋本孝治(当時22歳)が、雑誌『詰将棋パラダイス 1986年6月号』で発表した詰将棋。この時点は特に命名されていなかったため、編集長により『フェアリーの世界』という仮見出しがつけられたが、のちに橋本によって『ミクロコスモス』という正式タイトルがつけられた。これはバルトーク・ベーラの同名の楽曲から命名されており、クラシック音楽鑑賞を趣味に持つ橋本ならではの趣向といえる。
本作は雑誌の特別懸賞として掲載されたが、解答者全29名のうち21名(約7割)が正解しており、正解者5名に電卓、5名にステレオミニフォンが贈呈された。のちに詰将棋作家・桔梗が親友の添川公司とともに本作を検討した結果が、雑誌『詰将棋パラダイス 1986年10月号』にて掲載されている。
構想期間は約8ヶ月。本格的な着手からは2週間で完成したものの、その後の検証作業で約3ヶ月もの月日を費やしたという。当時は詰将棋ソフトも発達しておらず、手作業での検証を強いられたことが主な要因である。詰将棋ソフトで初めて『ミクロコスモス』を解けたのが本作発表の10年後(詰将棋ソフト『脊尾詰』によるもの)というのが、その時代背景を裏付ける。
発表当初は1,519手だったが、発表から9年経った1995年、書籍『詰将棋探検隊 妙技すべてみせます』にて橋本自らによる改良が施され、1,525手まで伸びた(記事冒頭図参照)。いずれにしろそれまでの最長手数が山本昭一作の『メタ新世界』(1982年発表、941手詰)だったため、本作が詰将棋初の1,000手超え、かつ旧記録を600手弱も更新した金字塔となった。
この記録更新は棋界だけでなく世間・マスコミでも大きな話題となり、作者のもとには取材依頼が殺到したという。作品としての完成度の高さもさることながら、このような話題性も相まって、1986年度の詰将棋看寿賞長編賞に選考委員全員一致で選ばれている。
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『ミクロコスモス』(「小宇宙」の意)というタイトルだけあって、9×9の盤面をフルに活用し、なおかつ自玉を除いたすべての駒が初期から盤上に配置されている。また開始時は居玉(玉が初期配置の5一にいること)であるのに対し、最終盤は相手玉が端っこの1九にいる、いわゆる雪隠詰めであり、きれいな対比表現となっている。さらに竜王や竜馬などの大駒を犠牲にしながらも、「金はとどめに残せ」の格言どおり▲2九金打で詰めとなっており、解後感は清々しい(第1図)。
2021年現在、1,000手超えの詰将棋は『ミクロコスモス』と詰将棋作家・添川公司が考案した『新桃花源』(2006年発表、1,205手詰)の2作品しかなく、本作は約30年以上にわたって最長手数記録を保持している。作者本人も自身の運営するサイトにおいて「私よりもこの作品の方が長生きするだろう。 」というコメントを残している。たとえ最長手数記録が更新される日が来ようとも、本作の独創性は人々の記憶に残り続けるだろう。
長手数になる要因
忙しい人用
ちゃんと読みたい人用
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- 知恵の輪(と金送り)
- 相手玉を任意の位置に誘導する趣向。本作では相手玉に1二~6二の間を行ったり来たりさせる。ちなみに相手玉がこの知恵の輪から解放されるのは約1500手目となっており、それまで延々と自陣を逃げ回り続けることになる。
- 例: ▲6一と→△5二玉→▲5一と右→△4二玉→▲4一と右→…
- 持駒変換
- 合駒を取ることで持駒を変える趣向。本作では歩兵あるいは香車を桂馬に変換している。
- 例: ▲6三歩打→△7二玉→▲8三と→△6三玉→▲8四と→△8三桂打→▲7四と→△6二玉→▲6一とと、攻方の持駒だった歩兵と玉方の持駒だった桂馬が入れ替わっている。以下知恵の輪・駒位置変換に続く。
- 駒位置変換
- 攻方がある駒Xを取る→攻方がXを打って相手玉に取らせる→玉方が合駒にXを打つ→攻方がXを取る…といった繰り返しにより、駒Xを通常なら動けない位置に移動させる。
- 本作では1四~3四に竜王を行き来させたり桂馬を打ったりすることにより、香車が1三~3三の間を行き来しているように見える。
- ちなみにこの駒位置変換は、作者の橋本により考案されたものである。
- 馬鋸(うまのこ)
- 竜馬をのこぎりの刃のように移動させる手法。本作では▲9九馬を6六に移動させるのに1,300手以上かけている。6六に馬を移動させたあと、約200手以上にわたって上記3つの手法を駆使し、相手玉を入玉にまで追い詰める。
- 例: ▲9九馬→…→▲8九馬→…→▲8八馬→…→▲7八馬→…
作者の橋本は、『ミクロコスモス』が長手数になった要因を以下のように表現している。
単独の趣向で長手数にするのは難しいので、複数の趣向を組み合わせることにより長手数を可能にしている。たし算は複数の趣向を取り入れること、かけ算はある趣向を利用して別の趣向の繰り返し回数を増やすことを意味する。「(と金送り+持駒変換)×香の位置変換」は、橋本の別の作品『イオニゼーション』(1985年発表、789手詰)でも見られたが、これに「馬鋸」をかけ合わせることにより、このような最長手数の詰将棋ができあがった。
終わりに
「世界最長手数」という言葉に気圧されがちだが、詰将棋においては手数が長い=難しいというわけではない。本作においても、全1,525手のうちのほとんどが同じパターンの繰り返しによるものであり、一度トリックを把握してしまえ自然と手数が伸びていく。
雑誌『将棋世界 2006年2月号』付録にて、作者の橋本は『ミクロコスモス』の息抜きとして以下の詰将棋を出題している。17手詰と比較的短いが、このような単純な繰り返し手順が長編詰将棋の第一歩となるという。長編詰将棋に興味が湧いた方は、腕試しに解いてみてはいかがだろうか。
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関連動画
関連項目
外部リンク
- 橋本孝治作「ミクロコスモス」 - 詰将棋パラダイス公式サイト
- 橋本孝治 普通詰将棋作品集 第18番(棋譜を再生できる)
- いまだ破られぬ詰将棋の手数最長記録(1525手詰) 作者に聞く「盤上の『ミクロコスモス』はいかにして生まれたか」 - ねとらぼ
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