時間反転とは、動画を逆再生するかのように、時間を逆回しする事である。
概要
主に物理学において用いられる言葉。
と言っても、宇宙船で光速を超えて過去にタイムスリップしようとかそう言う話ではなく、素粒子の反応や物体の運動と時間の流れの向きの関係についての話である。
物体が運動を始める、または止める時は、必ず外部より何らかの「力」を加えられる。
例えばあなたが前に歩く/走る時は足の裏によって地面に斜め下後ろに向かってまず力を加える。そうすると作用反作用の法則によって、地面から同じだけの強さで斜め前上に向かって力を受ける。そして真下に引っ張る重力の力とのベクトル合成の結果、あなたは前に進む。
ここで言う「力」とは位置の座標系において時間で2回微分したものであるため、時間の流れの向きを逆にしても力の強さや向きは変化しない。
具体的にはどういう事かと言うと、例えば「坂道を転がり落ちるボール」を想定する。
通常の時間の流れでは坂の上に置いてあるボールを手で押すと転がり始め、下りきったところでやがて空気抵抗や地面との摩擦によって止まる。時間を巻き戻すと、坂の下にあるボールが動き始め、坂を上るにつれ減速し、上りきったところで手に受け止められて止まる。
ではこの時ボールは外部からどのような力を受けていたのだろうか?
通常の時間の流れでは、まず手によって進行方向=坂の下の方向に力を受ける。その後転がっていき、地面の摩擦や空気抵抗によって坂の上の方向に向かって力を受ける。
これを逆回しの時間の中に当てはめてみると、「坂の上方向に向かって空気や地面から力を受けた」ので坂を上り始め、「手によって反対向きに力を加えられた」ので止まる。
もっと言うと、通常の時間の流れではボールは手で押され転がり始めた直後から空気抵抗と地面の摩擦の影響を受けている。これは即ち、逆回しの時間の流れの中ではボールは手で押さえられて止まるその時まで、後ろから空気や地面の摩擦に押されて前進しているという事である。
にも関わらず手に押さえられる前に減速するのはなぜかと言うと、重力が下向きにボールを引っ張っているからである。つまり、重力さえも、時間を逆戻ししても力の向きは変わらないという事。
概要総括
総括すると、(現実として時間の流れが突然逆向きになる事は無いが)力学における物理法則は、時間の流れの向きに影響されず常に一定であるという事。
もし仮にあなた以外の世界の全ての時間が逆向きに流れ出したとしても、あなたが投げたボールは一定距離すっ飛んだ後地面に落ちるし、バイクで走れば空気抵抗を受ける。時間が正常に流れているときと全く変わらないのである。
時間の向きを逆にしても全く同じ法則が成り立つ事を、時間反転対称性を持つと言う。
言い換えれば、時間反転対称性を持つ物理法則に従った運動によっては、時間の流れが正常であるか逆であるかは判断できない。
熱力学では
1つ1つの粒子や物体同士の働き合いに関する力学では上記の通り、あらゆる法則において時間反転対象性がある。
しかし非常に多くの粒子について考える熱力学についてはこれが成り立たない。
例えば正常な時間の流れの中で、コーヒーにコーヒーミルクを入れたとする。そうするとミルクは放っておけば自然とコーヒーと混ざっていく。時間反転させるとこれの逆になるので、ミルク入りコーヒーを放っておくと自然とブラックコーヒーとミルクが分離されるという事になる。
しかし、現実の物理法則ではいくら待ってもこのような現象は絶対に起こらない。時間の流れを逆にしても物理法則が変わらないのなら、コーヒーとミルクが勝手に分離されることもまたあり得ないはずであり、動画を逆再生した結果と矛盾してしまう。
つまり、熱力学におけるエントロピーの増大は時間反転対称性を持っていない。
熱力学の「熱」とはつまるところ分子・原子等の粒子の運動であるため、熱力学は粒子の物理法則の上に成り立っているはずであるが、何故時間反転対象性を持つ物理法則から時間反転対象性を持たない法則が生まれるのかと言う矛盾点は、現在の物理学・熱力学においての大きな謎となっている。
関連項目
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