原子とは、元素の最小単位である。
概要
通常の化学的な方法ではこれ以上小さくはできない、化学的な性質を示す物質最小の単位である。
原子の概念は紀元前5世紀のギリシアの哲学者デモクリトスが提唱した「アトモス」である。これは「不可分な」という意味を持ち、物質の最小単位のことを意味する。コップに入った水を二つに分ける作業を続けていったとき、無限に分割が可能ではなくどこかで限界が来て最小の構成要素が現れるはずであるという発想が原点である。その後1808年にイギリスの化学者ドルトンが現在とほぼ同じ原子の形を提唱し、原子の発見に至った。
だが、1911年イギリスの物理者ラザフォードによるラザフォードの原子模型と1913年モーズリーによるモーズリーの法則により原子は原子核と電子を持つことが明らかになった。そのため、原子が物質の最小単位ではないと明らかになったが、名称を変えるわけにもいかず現在に至る。
現在は陽子、中性子を構成する、より基本的な素粒子(クォーク)というものの存在が確認されている。素粒子も基本的要素と言いながらかなり種類が多いため、素粒子を構成するさらに基礎的な要素が存在すると考えられている。しかし、小さすぎて未だ確認するには至っていない。→超ひも理論
構造
原子は原子核とその原子核を周りを飛び回っている電子により構成される。
原子核は陽子と中性子により構成される。陽子は+の電荷を持ち、電子は-の電荷を持つ。典型的な電気回路は金属線で構成されているため電子の移動により電流が発生する。ただし、電流の流れの向きと電子の移動方向は逆である。これは電流の流れが先に定義されたが、実は金属中を流れる物質が負電荷をもつ電子であると発覚した後も定義を変えなかったからである。
性質等をまとめると以下となる。
電子 | 中性子 | 陽子 | |
場所 | 原子核の周囲 | 原子核 | 原子核 |
質量[kg] | 9.11x10-31 | 1.67x10-27 | 1.67x10-27 |
電荷[C] | -1.60x10-19 | 0 | +1.60x10-19 |
素粒子 | 電子1個 | アップクォーク1個 ダウンクォーク2個 |
アップクォーク2個 ダウンクォーク1個 |
元素周期表
原子核に存在する陽子の数で電子の分布が決まり、電子の分布によって原子は化学的性質を変える。そこで、それぞれの原子に名前を付けたのが元素である。群論的要請から陽子の数によって電子の分布が規則的に変化するため、化学的・物理的性質が似た元素がある程度規則的に現れる。似た者同士を近くに配置して整理したのが元素周期表である。1段から3段までに来る元素の作る1~18のグループが典型的な元素の族である。
電子の数は陽子によって決まるが、電子が安定になる数は別の理由によって決まる。電子が原子の周りで安定に存在したがるため、他の原子を回っている電子とペアやグループを組みたがる。このグループを電子軌道といい、軌道を規則的に埋めようとする力が分子結合を作る。ヘリウムなど希ガスはそれ単体で電子が安定になる数であるため、他の原子と結合しない。希ガスの電子状態を閉核という。閉核になる電子数は電磁気的、量子論的、群論的要請により決まる。基本的にエネルギーの低い内側の軌道から埋まっていき、形状と入る電子数からs軌道、p軌道、d軌道、f、g、h、…と名前がついている。元素周期表は主に原子の外側の軌道によって決まる。
鉄などの一部元素が磁力を持つのは内側の軌道が埋まる前に外側の軌道が不規則に埋まるためである。
分子の場合は対称性や大きさ、構成元素などにより変化するが、安定な分子の電子数は希ガスと同じく電子が閉核な状態となることによる。基本的に一番外の軌道のみが結合に関与する(フロンティア軌道論)が、重金属による金属間化合物には内側の軌道が関与することもある。
同位体と同素体
原子核に存在する陽子と中性子の割合は1:1に近い割合になる傾向にある。ヘリウム原子であれば陽子が2個、中性子も2個あるものが最も安定である。
だが、中性子の数が安定核種と等しくない同位体というものがある。化学的性質は変わらないのだが、中性子のぶんだけ質量が異なる。有名なのは重水素であろう。普通の水素は中性子数がゼロ、中性子数が1のものは重水素、中性子数が2のものは三重水素と呼ばれる。いずれも化学的には水素と区別がつかず質量だけが異なる。
重い元素ほど陽子が多いので、陽子同士の電気的反発力が強くなる。そのため、重い原子は中性子を多く持った同位体が安定となりやすい。不安定なものはα崩壊、β崩壊、γ崩壊のいずれかを起こしてより安定な別の原子核になる。この現象を利用したものに放射性炭素年代測定法がある。
電磁気力は距離が近いほど強くなるため、陽子の塊である原子核には極めて強い電気的反発力が生まれるが、それより遥かに強力な力(核力)が原子核を繋ぎ止めている。
ある特定の陽子数の原子核が他の原子核に比べて特異的に安定になることがある。この数字を魔法数といい、その原子核の状態を閉核という。ヘリウムの電子と似たような理由で安定になるが、電子と異なる力が作用しているため元素周期表の陽子数と対応しない。
一方、良く似た言葉である同素体は分子を構成する原子の数が違う分子のことを指す。例えば酸素は基本的に2つの原子で構成されるが、3つの原子で構成されているもの(オゾン)も存在する。こちらは化学的性質が変わる。他に黒鉛とダイヤモンド、赤リンと黄リン、フェライトとマルテンサイトなどがある。
電子雲
子供向け図鑑にあるような原子のモデル図を見ると、土星のようにあたかも電子は原子核の周りを特定の軌道で飛び回っているように描かれている(古典的描像という)が、そうではない。電子が衛星のようにくるくる回っていると仮定するとある深刻な矛盾が起きてしまう。実は電子は原子核の周りに確率的に存在している。その確率を表現すると原子核が電子の存在確率による雲に包まれているように表現される。この電子雲を日本語では電子軌道というが、英語ではorbitalであり、軌道っぽいものという意味になる。
その確率を表すものが「自乗すると存在確率になるような複素数値関数」であり、関数自体には物理量を計算するためのもの以上の物理的意味合いがない。物理現象を表現するために複素関数が必要なのか?ただ計算に便利なだけで本質ではないのではないか?位置が確率的にしか決まらないのは数学的に正しくても物理的におかしいんじゃないか?などと議論を呼んだ。現在でも「数学的要請による」以上の明確な回答はないようであるが、確かに数式に従って確率的に位置が決まっているという確たる実験結果が得られている。世界を表現するために数学を使っていたが、数学で表現できるような世界しか存在できないという逆転が起こっていると見ることもできる。→シュレーディンガー方程式、シュレーディンガーの猫
これは粒子の位置と運動量が同時に決定できないことによる。これを不確定性原理という。
関連項目
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