間接金融とは、政府・企業が資金を調達する方法を分類する言葉である。反対語は直接金融である。
概要
定義
広義の間接金融とは、政府・企業が銀行[1]から資金を調達することをいう。
狭義の間接金融とは、政府・企業が証書貸付や手形貸付や第三者割当増資や公募増資の形式で銀行から市場を介さずに資金を調達することをいう。
銀行が企業に貸し付けをするときは、企業が発行した債券(社債、CP)を市場で購入するという形態を取ることもあるが、多くの場合は証書貸付や手形貸付という市場を介さない形態を取る[2]。また銀行が企業に出資するときは、公募増資に参加して株式を市場で購入することもあるが、多くの場合は第三者割当増資や株主割当増資という市場を介さない形態の出資をする。このため間接金融といえば上記の「狭義の間接金融」を連想する人が多い。
語源
又貸し説に基づくと、銀行が政府・企業に投資することは、「銀行以外の投資家」が銀行を仲介して間接的に投資することと同じである。
又貸し説に基づき、銀行が政府・企業に投資することを間接金融と呼ぶようになった。
日本における実態
日本の政府や地方公共団体は、公債(国債や地方債)を市場で販売するという形式で資金の借り入れを行っている。銀行が公債を購入する場合は、広義の間接金融に該当するが、狭義の間接金融に該当しない。
第二次世界大戦の後において、日本の企業は間接金融で資金を調達することが多かった。しかし1980年代以降に新自由主義・株主資本主義が広がり、それに伴って日本の企業が直接金融(社債や株式の市場での販売)で資金を調達することが多くなっていった。
性質・長所・短所
性質 貸し手と借り手の心理的・物理的な距離が近い
間接金融では、融資担当の銀行員が企業の応接室にやってくることが日常的な光景になり、融資担当の銀行員と企業の社長の間の心理的・物理的な距離が近くなる。
その心理的・物理的な距離の近さが、長所と短所を生むことになる。
長所その1 情報が豊富に供給される
間接金融の長所を1つ挙げると、貸し手の銀行と借り手の企業の間で地域経済や周辺産業や為替レートや外国事情に関する情報の交換が濃密に行われ、企業の情報コストが安くなり、企業が情報を安価に入手できる点である[3]。
企業が間接金融でお金を調達するときは、まず、融資担当の銀行員に来社してもらい、社長がその銀行員と話し合う。そのときに銀行員から企業の社長へ情報が渡される。企業の社長にとって銀行員の持つ情報は新鮮なものがあり、まったく知らない業界から仕入れた情報なども含まれており、なかなかの刺激になる。
間接金融だと、企業が銀行から資金と情報の両方を調達する状態になるので、企業の成長を促す環境が整備されやすい。
長所その2 銀行が企業に対して親切になりやすい
間接金融だと証書貸付や手形貸付という形態で融資が行われることがほとんどである。金銭消費貸借契約書や手形は売買しやすいような形式になっていないので、銀行は「経営が不振になった企業に対する債権」を市場に出して他の誰かに売り飛ばすことが難しい。
銀行は借り手の企業に対して「一蓮托生」「運命共同体」「切っても切れない腐れ縁」といった感覚になりやすく、企業に対して親切にする傾向がある。経営が不振になった企業に対して銀行員を派遣して、経営に関する忠告をしたり情報を提供したりして、経営の立て直しの助力をすることが多い。
長所その3 企業が長期的な展望をするようになる
先述のように間接金融だと銀行が「経営が不振になった企業に対する債権」を市場に出して他の誰かに売り飛ばすことを容易に行えない。
このため企業は「少し業績が悪くなったとしても銀行が我が社に対する債権を売りに出すことはない」と安心するようになり、「今期の損益計算書において税引後当期純利益を出せなくなったとしても何とかなる」と考えるようになり、短期的に利益が出るような企業行動をとる必要性が薄れ、「短期的に損失が出るが長期的に利益が出ることを見込めるような企業行動」ができるようになる。
間接金融に頼る企業は「損して得取れ」「長期を見据えて一時的に損失を出す」という思考をすることができるようになり、長期的な展望をとることができる。
間接金融に頼る企業は「新人を雇って長期にわたって教育をして人材育成をしよう。短期的には人件費を損するが長期的には利益を稼げる」と考えるようになり、「転職仲介企業を頼って同業他社から即戦力の人材を引き抜こう」と考えなくなる。つまり間接金融が発達した国では、転職市場が縮小して若者への教育が充実していく。
短所 不必要な利子支払いという費用を負担させられることがある
間接金融の短所の1つは、企業にとって借り入れが不要なときに、銀行員に対する恩義などを理由として、お付き合いで借り入れする羽目になる可能性があるところである。
融資担当の銀行員にも上司からノルマが課せられている。「業績が好調で返済が確実な優良企業に貸し付けて、利子収入を得てこい」と上司にノルマを課せられた融資担当の銀行員は、普段から仲良くしている企業の社長のところに行って「なんとか借り入れてくれませんか」とお願いすることになる。
企業の社長は、そういう銀行員をみて「不況の時にこの銀行に融資してもらって助けてもらった恩義があるし、普段から豊富に情報を提供してもらっている恩義もあるから、しかたない、借りてやるか」といった心理になりやすく、必要も無いのにお金を借りることになりやすく、利子支払いという費用を負担することになりやすい。
銀行の融資は「銀行は晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」といわれる[4]。このなかの「晴れの日に傘を貸す」とは、業績が好調で借り入れが不要なときに銀行員が「なんとか借り入れてくれませんか」と泣きついてくることを意味している。
間接金融は、銀行員と心理的な距離が近いので、新鮮な情報を豊富に得られるという長所があるが、「今は借り入れが必要ない、帰ってくれ」とドライに突き放すことができず利払いという費用を負担するという短所がある。
関連リンク
関連項目
脚注
- *ここでいう銀行は預貯金取扱金融機関のことである。預貯金取扱金融機関とは銀行法第2条によって定められた存在で、預金を受け入れつつ融資をする団体のことをいう。最も代表的な存在は普通銀行だが、信用金庫・労働金庫・信用協同組合(信用組合)・JAバンク(農協の金融事業団体)・JFマリンバンク(漁協の金融事業団体)、農林中央金庫も含む。
- *証書貸付は貸し手と借り手が金銭消費貸借契約書を連名で作成してお金を貸し付ける。手形貸付は借り手が振り出した手形を貸し手が購入するという形態でお金を貸し付ける。金銭消費貸借契約書や手形は売買しやすいような形式になっておらず市場に出回りにくい。
- *真説 経済・金融の仕組み(日本評論社)横山昭雄 92ページ
- *この「銀行は晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」という言葉はドラマ『半沢直樹』の第1話でも出てきた。
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