第三者割当増資とは、企業の財務に関する言葉の1つであり、増資の形態の1つである。
概要
定義
第三者割当増資は、既存の株主であるかどうかを問わず、企業がある個人または法人を指名して株式を渡してその代償として出資を受け、出資金額の1/2以上を資本金として、それ以外の出資金額を資本準備金にするものである。
発生の例
企業は、商品を納入する取引先企業や資金を借り入れている金融機関といった縁故のある相手に対して第三者割当増資をすることがある。そうした場合は「縁故割当増資」と呼ばれることがある。
1980年代までの日本では株式持ち合い[1]が盛んに行われたが、そのときには第三者割当増資や株主割当増資が行われた。
「ハゲタカファンド」「企業買収ファンド」と呼ばれるような敵対的買収を繰り返す投資ファンドに議決権の過半数を握られそうな企業が第三者割当増資で対抗することもしばしば見られる。ちなみに、ハゲタカファンドの買収を阻止するための第三者割当増資に協力する個人・法人のことをホワイトナイト(白馬の騎士)という[2]。
長所
第三者割当増資と公募増資は、既存の株主以外の新しい人から資金の提供を受けられるので企業の資金調達の金額が大きくなりやすい。一方で株主割当増資は既存の株主からの資金提供に頼るので、企業の資金調達の金額が小さくなりやすい。
第三者割当増資は「新自由主義が席巻する国における公募増資」よりも資金調達の金額が小さくなりやすいが、株主割当増資よりも資金調達の金額が大きくなりやすい。
第三者割当増資と株主割当増資は公募増資よりも手続きが短くて済み、公募増資よりも早く資金を得ることができる。そして第三者割当増資は少数の出資者の意向を伺うだけで済むので、すべての株主の意向を伺わねばならない株主割当増資よりも早く資金を得る可能性が高い。第三者割当増資による手続きは最短で1日である。
第三者割当増資と株主割当増資は株式を引き受ける相手を株式会社が指名できるので、「どんな人が株主になるのだろう」という不安とは無縁であり、安心感がある。公募増資だと会社に敵対的な株主が株式を取得する可能性があり、やや不安なところがある。
第三者割当増資と株主割当増資は株式を引き受ける相手を株式会社が指名するものであり、市場を介さない資金調達である。このため間接金融と似たような性質がある。狭義の間接金融の定義は「銀行による証書貸付・手形貸付であり、銀行が市場を介さずに融資すること」というものであるが、そういう「狭義の間接金融」は、資金の出し手と資金の受け手の距離が近く、情報交換が盛んに行われ、企業に情報が届きやすく、企業の成長を促しやすいという長所がある。
短所その1 既存の株主が不利益を受けやすい
第三者割当増資は、「株式会社から指名されず第三者割当増資に参加できない既存の株主」の持ち株比率・議決権比率を低下させ、明らかな不利益を与える。
第三者割当増資は、「自己株式を除く発行株式総数」を増やしてEPS(1株あたり税引後当期純利益)を低下させて「株式の希薄化」を発生させつつ、「株式会社から指名されず第三者割当増資に参加できない既存の株主」が持つ株式の数を一定に維持するので、「株式会社から指名されず第三者割当増資に参加できない既存の株主」の受け取り配当金額を低下させ、明らかな不利益を与える。
EPSが低下することにより「配当が少なくなるので株式を売ってしまうべきだ」という判断が既存の株主の間に広まって株式が売られ、株価が急落することもある。
既存の株主による株式の売却を防ぐためには、第三者割当増資の前に株主総会を開いて「第三者割当増資によって一時的にEPSが低下するが、得られた資金を活用して事業を拡大して税引後当期純利益を増やすことができ、EPSを元の水準にまで引き上げることができる」と説明する必要があるが、そうすると資金を得る速さが失われてしまう。
短所その2 投資家にとって一定の議決権を得るための資金が大きくなりやすい
投資家が第三者割当増資だけで一定の議決権を得ることは、投資家が既存の株主から株式を購入して一定の議決権を得ることよりも高額の資金を必要とする。
株式会社Aがあり、1株1議決権ですでに100株を発行していて、1人1株ずつ100人に売却しているとする。その株価は市場価格1株100万円であるとする。
投資家Bがいて、その株式会社Aの議決権の51%を得たいと思っているとする。既存の株主51人に声をかけて1株100万円で売却してもらう方法なら、5100万円のお金を用意すれば良い。
しかし第三者割当増資で投資家Bが議決権51%を得るには、株式会社Aが105株を1株100万円で発行して投資家Bが買い取る必要があり、投資家Bは1億500万円のお金を用意しなければならない。
日本取引所グループにおける規制
東京証券取引所や大阪取引所を傘下にもつ日本取引所グループでは、そこに上場する企業向けに第三者割当増資の規制を掛けている。
「株式売却によって増える議決権」を「株式売却前の議決権総数」で割ってパーセントにしたものを希薄化率とする。例えば、1株1議決権の企業ですでに100株を発行する企業が新規に20株を発行して第三者割当増資をするのなら、希薄化率は20%になる。
希薄化率が25%以上の第三者割当増資を行う企業は、第三者委員会から同意を得るか、株主総会などで株主の意思を確認する手続きが要求される。また、希薄化率が300%を超える第三者割当増資を決定した企業は原則として上場廃止となる。
希薄化率が301%の第三者割当増資の例は、1株1議決権の企業が100株を発行して株主Aがその100株すべてを取得していたところに、株主Bに対して新規の301株を渡すということである。株主Aの議決権比率は100%から24.93%にまで急落してしまう。
必要な手続き
非公開会社[3]において第三者割当増資の発行株式数と1株あたり金額と増資金額を決定するには株主総会の特別決議を必要とする(会社法第199条第1項・第2項、第309条第2項第5号)。
公開会社[4]において第三者割当増資の発行株式数と1株あたり金額と増資金額を決定するには取締役会の決議のみを必要とする(会社法第199条第1項・第2項、第201条第1項)。
ただし、新株を発行して、市場で流通する時価よりも10%ほど低い金額という特に有利な条件で譲渡して第三者割当増資をするには、公開会社においても株主総会の特別会議を必要とする(会社法第199条第1項・第2項・第3項、第201条第1項、第309条第2項第5号)。
関連項目
脚注
- *株式持ち合いは2つ以上の企業が相互に相手の株を所有することである。
- *ちなみにホワイトナイトはアーサー王伝説に登場する存在である。
- *非公開会社とは、「全部の株式が譲渡制限株式であり、譲渡するときに株式会社の承認を必要とする株式である」と定款で定めている株式会社のことをいう(会社法第2条第5号)。
- *公開会社とは、「全部または一部の株式が非譲渡制限株式であり、譲渡するときに株式会社の承認を必要としない株式である」と定款で定めている株式会社のことをいう(会社法第2条第5号)。証券取引所に株式を上場している株式会社(上場会社)は、原則としてすべてが公開会社である。
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