音程(英:interval)とは、2つの音の高さの距離・間隔のことである。基本的に楽音(楽器の出す音楽的な音)に対して使われる。単位は度。
西洋で初めて音程について研究をしたのは古代ギリシアの数学者ピタゴラスとされる。彼は2音を鳴らすそれぞれの弦の長さに着目し、弦同士の長さの比が1:2や2:3、3:4といった簡単な数で表せる時に協和した音が鳴ることを発見した。弦の長さの比は鳴る音の周波数比の逆比であり、2:3の時の音程に基づく音律を「ピタゴラス音律」と呼ぶ。また、周波数比が整数比となる音程を「純正音程」と言い、純正音程だけからなる音律を「純正律」と呼ぶ。
2音間の音程を表す際には、数字を使い「n度」と表現する。数字が同じであっても変化記号(シャープやフラット)の有無で間隔は増減するため、そのうちの1つに特定するために「完全」「長」「短」「増」「減」などの接頭辞が使われ、「長3度」「短3度」などと区別される。逆に、事実上同じ音程であっても表現上別の名前を持つ場合も多くある(増4度と減5度など)。
音程に言及される場面は大きく分けて2つある。1つは和声・和音において同時に鳴らされる音に対して使われる場合で、これを「和声的音程」と呼ぶ。和音は基本的に3度の音程の積み重ねで出来ているし、メロディにハモりを付ける場合の「3度上でハモる」もこれ。もう1つはメロディなどにおいて順番に鳴らされる音に対して使われる場合で、これを「旋律的音程」と呼ぶ。メロディ中にある音と次の音との音程が大きく離れている時に「9度の跳躍」などと言い、また曲中転調する時の「3度上に転調」なども、「調の主音が移り変わっている」と捉えればこちらの旋律的音程と解釈できる。
冒頭で述べたとおり「音程」という言葉は2音間の関係性を表すものだが、1つの音の高さに対して「音程」とする用法も俗に浸透している。本来単音の高低を表す言葉は「音高」=「ピッチ(英:pitch)」であり「音程」とは別の概念である。この「音高(ピッチ)」を指して「音程」と呼ぶのは音楽学・楽典的には誤用と言えるが、世間一般のみならず時にプロの音楽家の間でさえ呼び習わされているのが現状である。
音程の数え方は、ピアノの鍵盤を思い浮かべるとわかりやすいだろう。2つの音名の間にある、両端も含めた白鍵の数がその度数となる。例えばドとミの間は「ド・レ・ミ」で3度、ソとミの間は「ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ」で6度という具合。この際シャープやフラットは無視するため、例えばファ♯からシは「ファ・ソ・ラ・シ」で4度だが、ファ♯と異名同音関係にあるソ♭からシでは「ソ・ラ・シ」で3度、ファ♯からシと異名同音関係にあるド♭では「ファ・ソ・ラ・シ・ド」で5度と、同じ音程でも表され方で度数が変わってくる。
1オクターブ(8度)を超える音程も同様に数えることが出来るが(ドから1オクターブ上のドの先のミまでは「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ」で10度)、「mオクターブとn度」と表現することもあり(10度=1オクターブと3度)、場面によって使い分けられる。基本的に、1オクターブ以内の音程は「単音程」、それを超える音程は「複音程」と呼ばれる。
ちなみに、ピアノの白鍵の音のみで構成されるような音階を「全音階」、黒鍵も含めた(全ての音が半音で隣り合う)音階を「半音階」と呼ぶ。全音階の中に見いだせる音程は「全音階的音程」、それ以外は「半音階的音程」と呼ばれる。
「完全」が付けられる単音程は、1度、4度、5度、8度の4種類である。また、完全音程はすべて全音階的音程である。英語では「perfect(パーフェクト)」で、完全5度を表すperfect 5thを「P5」と略記することもしばしば。
完全1度は、同一の音同士の音程である。周波数比は1:1。英語ではユニゾン(unison)。距離0なため0度にも思えるかもしれないが、「両端も数える」という度数の性質上1度となる。
完全4度は、半音5つぶんの4度の音程である。純正音程の周波数比は3:4。「全音3つ、半音1つからなる4度音程」とも言え、全音階の中では「ド・ファ」「レ・ソ」「ミ・ラ」「ソ・ド」「ラ・レ」「シ・ミ」が該当する。
完全5度は、半音7つぶんの5度の音程である。純正音程の周波数比は2:3。「全音4つ、半音1からなる5度音程」とも言え、全音階の中では「ド・ソ」「レ・ラ」「ミ・シ」「ファ・ド」「ソ・レ」「ラ・ミ」が該当する。
完全8度は、半音12こぶんの8度の音程である。いわゆる1オクターブ。周波数比は1:2。
「長」「短」が付けられる単音程は、2度、3度、6度、7度の4種類である。また、長音程、短音程ともにすべて全音階的音程である。度数が同じで長短が違う場合、短より長のほうが半音1つぶんだけ広い。英語では「長」は「major(メジャー)」、「短」は「minor(マイナー)」。それぞれ「長7度」「短7度」を表す「M7」「m7」はコードネームの表記でもおなじみ。
長2度は半音2つぶんの2度の音程である。全音そのものと言っていいだろう。全音階の中では「ド・レ」「レ・ミ」「ファ・ソ」「ソ・ラ」「ラ・シ」が該当する。
短2度は半音1つぶんの2度の音程である。半音そのものと言っていいだろう。全音階の中では「ミ・ファ」「シ・ド」が該当する。
長3度は半音4つぶんの3度の音程である。「全音2つからなる3度音程」とも言え、全音階の中では「ド・ミ」「ファ・ラ」「ソ・シ」が該当する。
短3度は半音3つぶんの3度の音程である。「全音1つ、半音1つからなる3度音程」とも言え、全音階の中では「レ・ファ」「ミ・ソ」「ラ・ド」「シ・レ」が該当する。
長6度は半音9つぶんの6度の音程である。「全音4つ、半音1つからなる6度音程」とも言え、全音階の中では「ファ・レ」「ソ・ミ」「ド・ラ」「レ・シ」が該当する。
短6度は半音8つぶんの6度の音程である。「全音3つ、半音2つからなる6度音程」とも言え、全音階の中では「ミ・ド」「ラ・ファ」「シ・ソ」が該当する。
長7度は半音11こぶんの7度の音程である。「全音5つ、半音1つからなる7度音程」とも言え、全音階の中では「ド・シ」「ファ・ミ」が該当する。
短7度は半音10こぶんの7度の音程である。「全音4つ、半音2つからなる7度音程」とも言え、全音階の中では「レ・ド」「ミ・レ」「ソ・ファ」「ラ・ソ」「シ・ラ」が該当する。
「増」が付けられる音程は全ての音程、「減」が付けられる音程は1度を除く全ての音程である。「完全」「長」より半音広い音程が「増」、「完全」「短」より半音狭い音程が「減」となる。増・減音程のうち、単音程では増4度と減5度が全音階的音程、それ以外は半音階的音程である。英語では「増」は「augmented(オーグメンティド)」、「減」は「diminished(ディミニッシュト)」。
増1度は完全1度より半音広い音程である。短2度と同じ広さを持つ(半音1つぶん)。
増2度は長2度より半音広い音程である。短3度と同じ広さを持つ(半音3つぶん)。
減2度は短2度より半音狭い音程である。完全1度と同じ広さを持つ(半音0こぶん)。
増3度は長3度より半音広い音程である。完全4度と同じ広さを持つ(半音5つぶん)。
減3度は短3度より半音狭い音程である。長2度と同じ広さを持つ(半音2つぶん)。
増4度は完全4度より半音広い音程である。減5度と同じ広さを持つ(半音6つぶん)。「全音3つからなる4度音程」とも言え、全音階の中では「ファ・シ」が該当する。全音3つぶんを言い換えた「三全音」(英語では「トライトーン(tritone)」)とも呼ばれる。
減4度は完全4度より半音狭い音程である。長3度と同じ広さを持つ(半音4つぶん)。
増5度は完全5度より半音広い音程である。短6度と同じ広さを持つ(半音8つぶん)。
減5度は完全5度より半音狭い音程である。増4度と同じ広さを持つ(半音6つぶん)。「全音2つ、半音2つからなる5度音程」とも言え、全音階の中では「シ・ファ」が該当する。こちらも全音3つぶんの「三全音」である。
増6度は長6度より半音広い音程である。短7度と同じ広さを持つ(半音10こぶん)。
減6度は短6度より半音狭い音程である。完全5度と同じ広さを持つ(半音7つぶん)。
増7度は長7度より半音広い音程である。完全8度と同じ広さを持つ(半音12こぶん)。
減7度は短7度より半音狭い音程である。長6度と同じ広さを持つ(半音9つぶん)。
増8度は完全8度より半音広い音程である。1オクターブを超えるため(半音13こぶん)、複音程として扱われる。同じ広さを持つ音程は強いて挙げれば短9度。
減8度は完全8度より半音狭い音程である。長7度と同じ広さを持つ(半音11こぶん)。
「重増」が付けられる音程は全ての音程、「重減」が付けられる音程は1度を除く全ての音程である。「増」より半音広い音程が「重増」、「減」より半音狭い音程が「重減」となる。重増・重減音程はすべて半音階的音程である。英語では「重増」は「doubly augmented(ダブリー・オーグメンティド)」、「重減」は「doubly diminished(ダブリー・ディミニッシュト)」。
重増1度は増1度より半音広い音程である。長2度、減3度と同じ広さを持つ(半音2つぶん)。
減1度は無いので、重減1度も存在しない。
重増2度は増2度より半音広い音程である。長3度、減4度と同じ広さを持つ(半音4つぶん)。
重減2度は減2度より半音狭い音程である。譜面上と実際の音の上下関係が逆転した状態で、“半音マイナス1つぶん”とでも呼べる奇妙な音程であるため、「理論上重減2度は存在しない」とする流派もある。
重増3度は増3度より半音広い音程である。増4度、減5度と同じ広さを持つ(半音6つぶん)。
重減3度は減3度より半音狭い音程である。増1度、短2度と同じ広さを持つ(半音1つぶん)。
重増4度は増4度より半音広い音程である。完全5度、減6度と同じ広さを持つ(半音7つぶん)。
重減4度は減4度より半音狭い音程である。増2度、短3度と同じ広さを持つ(半音3つぶん)。
重増5度は増5度より半音広い音程である。短6度、減7度と同じ広さを持つ(半音9つぶん)。
重減5度は減5度より半音狭い音程である。増3度、完全4度と同じ広さを持つ(半音5つぶん)。
重増6度は増6度より半音広い音程である。長7度、減8度と同じ広さを持つ(半音11こぶん)。
重減6度は減6度より半音狭い音程である。増4度、減5度と同じ広さを持つ(半音6つぶん)。
重増7度は増7度より半音広い音程である。増8度と同じ広さを持ち(半音13こぶん)1オクターブを超えるが、単音程として扱われる。前述の重減2度と同様に、複音程として扱う流派も存在する。
重減7度は減7度より半音狭い音程である。増5度、短6度と同じ広さを持つ(半音8つぶん)。
重増8度は増8度より半音広い音程である。1オクターブを超えるため(半音14こぶん)、複音程として扱われる。同じ広さを持つ音程は強いて挙げれば長9度、減10度。
重減8度は減8度より半音狭い音程である。増6度、短7度と同じ広さを持つ(半音10こぶん)。
重増(重減)音程にもなると、実際の楽曲中に現れることはそう多くない。理論上はさらに広い(狭い)音程も考えられるが、重増(重減)音程以上に登場機会が少ないためか、理論書などでは扱われないことも多い。日本語での呼び方も定まっておらず、「重」を重ねて「重々増(重々減)」とするのが優勢だが、英語の「triply augmented(triply diminished)」を訳した「三重増(三重減)」とする例も見られる。
9度以上の複音程は、先述したように「mオクターブとn度」と簡潔に表すことができる。(完全)8度が1オクターブで、これを「1オクターブと1度」と考えれば、9度=1オクターブと2度、10度=1オクターブと3度……というように変換できる。同様に(完全)15度が2オクターブであるため、16度=2オクターブと2度、17度=2オクターブと3度……となる。一般化すると、「k度」を「mオクターブとn度」と表す時、それぞれの値は「k=7m+n」の関係になる。なお、この時度数に付く接頭辞は変化しない。
単音程を構成する2つの音のうちの片方だけを1オクターブ移し(低い方の音を1オクターブ上げる、あるいは高い方の音を1オクターブ下げる)、2音の上下関係を逆転させる操作を転回と呼ぶ。転回すると当然音程も変わる。実際に転回させて音程を数えても良いが、転回後どんな音程になるかは規則性があるため譜面上の操作をせずに導き出すこともできる。
複音程は1オクターブの移動では上下関係が変わらないため、転回することはできない。広さでは1オクターブを超える重増7度を単音程として扱うのは、転回が可能なためである(転回すると重減2度になる)。
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最終更新:2024/11/08(金) 01:00
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