コードネームとは、
本記事では2.について解説する。
音楽の三要素と言われる「メロディ・ハーモニー・リズム」の一つである和声(ハーモニー)。ルネサンス以降アカデミックな音楽で発展してきた和声法は、曲の調性を基準として相対的な音高で和音に名前を付けたため、音の構成が同じでも調によって別の名前で呼ばれることが当たり前にある。また、曲が楽譜に表される場合、作曲者は基本的に全ての音を記譜し、演奏者は作曲者が記した音を演奏すればいいので、譜面上に和音の表記がなくても演奏は成立する。例外的に和音を示す記号(数字)が書かれていた通奏低音もバロック期が終わると廃れてしまったため、和音を記号で示すということは長らく行われてこなかった。
20世紀に入りアメリカで西洋の音楽とアフリカの音楽が合わさりジャズが誕生すると、少人数のセッションなどで各人が曲の和音の進行に合わせた即興演奏をするということが行われるようになった。演奏するべき和音を把握するためにリードシートと呼ばれるメロディと和音のみが書かれた楽譜が使われ、和音を表す記号としてコードネームが誕生した。その後のポピュラー音楽でも、伴奏として和音を演奏する際などに便利なため広く使われるようになった。
コードネームの長所としてはひと目見て演奏するべき音がわかりやすいことや表記法が曲の調性に左右されないこと、短所としては和音の持つ機能を表すことができないことなどが挙げられる。
和音は基本的に三度の堆積で構成される。三度とは五線上で2つ離れた音程(度数では最初の音から1と数える)、堆積とは積み重ねのことである。いわゆる「ドミソ」の和音ではドから三度上のミ、ミから三度上のソで構成されているのが分かるだろう。このような3つの音で構成された和音を三和音と呼ぶ。また、さらにソから三度上のシを足すと「ドミソシ」の四和音となる。この三和音と四和音がコードの基本となる。
積み重ねの土台、基準になる音で、ルート(Root)とも呼ばれる。コードネームでは音名は英語で書かれるため、A〜Gまでのアルファベットと、シャープ、フラットが登場する。この根音を表すアルファベットに、積み重なる音の変化を追記していく形になる。
根音から三度上の音で、サード(3rd)とも呼ばれる。長三度(メジャーサード/Major 3rd)と短三度(マイナーサード/minor 3rd)の2種類があり、コードの性格を大きく左右する。
C | |
Cm |
根音から五度上の音で、フィフス(5th)とも呼ばれる。基本的に完全五度だが、増五度、減五度も使われる。
C+5 | |
Cm-5 |
根音から七度上の音で、セブンス(7th)とも呼ばれる。長七度(メジャーセブンス/Major 7th)と短七度(マイナーセブンス/minor 7th)の2種類がある。
単純に7と書いた場合は短七度の方を意味する。M7や△7と書いた場合は長七度のほうを意味するが、この場合のメジャーは第3音ではなく第7音にかかる。そのため、mM7(マイナーメジャーセブンス)などの組み合わせも生じうる。
CM7 | |
C7 | |
Cm7 | |
CmM7 | |
Cm7-5 |
ここまでの音はコードトーンと呼ばれ、コードの機能や性格を決定づける音である。
ここから先の音はオクターブを超え、テンションノートと呼ばれる。
根音から九度上の音で、ナインス(9th)とも呼ばれる。オクターブ違いで二度と同じ音になる。長九度(長二度)が基本のナインスとなり、短九度(短二度)がフラットナインス、増九度(増二度)がシャープナインスとなる。シャープナインスはフラットテンスと解釈・表記される場合もある。
CmM7(9) | |
C7(♭9) | |
C7(♯9) |
根音から十一度上の音で、イレブンス(11th)とも呼ばれる。オクターブ違いで四度と同じ音になる。完全十一度(完全四度)が基本のイレブンスとなり、増十一度(増四度)がシャープイレブンスとなる。減十一度(減四度)は異名同音で長三度となるため使用されない。
Cm7(11) | |
CM7(9,♯11) |
根音から十三度上の音で、サーティーンス(13th)とも呼ばれる。オクターブ違いで六度と同じ音になる。長十三度(長六度)が基本のサーティーンスとなり、短十三度(短六度)がフラットサーティーンスとなる。増十三度(増六度)は異名同音で短七度となるため使用されない。
CM7(9,♯11,13) | |
C7(9,♭13) |
テンションのうち、シャープやフラットが付かないものはナチュラルテンション、シャープやフラットが付くものをオルタードテンションと呼ぶ。
四和音の上にナチュラルテンションが間隔を開けずに乗っている場合、7の代わりに最も上のテンションの度数だけを書くことで他の音(度数)の表記を省略することができる。
とは言え、あまり音を足しすぎると当然濁った音になるため現実的には11あたりまでが使われ、13を見ることは稀(13度まで積み上がった場合、音階上の7つの全ての音を鳴らすことになる)。
C9 | |
CM9 | |
CM11 |
三和音の上にテンションが乗っている場合はこちらのアドコードを使う。アド(add)は英語で「加える、付け足す」の意。
Cadd9 | |
Cmadd9 | |
Cmadd11 |
セブンスの代わりに第6音のシックスス(6th)が使われている和音。セブンスと違いシックススは常に長六度である。またシックススの上にナインスが乗っているコードを特にシックスナインスと呼ぶことがある。
C6 | |
Cm6 | |
C69 | |
Cm69 |
サードの代わりに第4音のフォース(4th)が使われている和音。サス(sus)はsuspendedの略で「吊るされた」の意。ここから発展してサードの代わりに第2音のセカンド(2nd)を使った和音がサスツーと表現される場合もあるが、一種のスラングのようなものでかなり砕けた表現である。
Csus4 | |
C7sus4 | |
Csus2 |
オミット(omit)は「除外する、省く」の意。その名の通りサードの音を省いた和音である。三和音からサードを抜いた二和音は、特にギターで多用されるパワーコードにあたり、5と書くだけでパワーコードを表すフィフスコードと呼ばれる用法も近年誕生したが未だ普及には至っていないようである。
C(omit3) | |
CM7(omit3) | |
Cadd9(omit3) |
メジャーでもマイナーでもない特殊な和音。根音から長三度ずつ堆積された和音がオーグメント(aug)、短三度ずつ堆積された和音がディミニッシュ(dim)である。CaugはC+5と、CdimはCm-5とそれぞれ同じ和音となる。
またディミニッシュのヴァリエーションとして、更に上に短三度重ねたディミニッシュセブンス(dim7, o/この場合のみセブンスは減七度を表す。そのためdim7はm6-5と等価)、上に長三度を重ねたハーフディミニッシュ(ø, m7-5)がある。
しかしdim7をdimと書いたりすることもありややこしい。このあたりは「ディミニッシュ」の記事を参照。
Caug | |
Cdim | |
Cdim7 | |
Cm7-5 |
前述したように和音は三度の堆積で構成されるが、ピアノやオルガン等の鍵盤楽器ならいざ知らず、ギターのような楽器は構造上三度の堆積は演奏困難である。
ではギターで和音は演奏できないのかというと勿論そんなことはなく、根音が一番下にさえあれば各構成音をオクターブを変えてある程度自由に配置することができる。
また、鍵盤楽器であれば左手やペダル、バンド形態であればベースが基本的に根音を担当するため、鍵盤楽器の右手、或いはバンドのベース以外の楽器は根音を省略して演奏することも多い。
特にテンションの乗った和音では指や弦の数が足りなくなるため、根音のみならず根音に倍音として含まれ和音の性格をあまり左右しないフィフスすら省略されることもしばしば。このような左手、ベースが担当する音を特にベース音とも呼ぶ。
CM7のバリエーション(画像参照) |
俗に分数コードと呼ばれるコードは大きく分けて3種類存在する。
順番に説明する。
和音の構成音を根音を除いて自由に配置できるのは前述した通りだが、では根音は常に一番下に無ければいけないのかというとこちらも勿論そんなことはない。
根音以外の構成音を最低音に置くことを転回と呼び、転回された和音を転回形と呼ぶ。アカデミックな場面では第n転回形などと呼ばれるが、コードネームでは分数のようにスラッシュを使い、分子にコードネーム、分母に最低音(ベース音)を置いて表現する(ex. Cm7/G)。若しくは、コードネームon最低音の形で書かれる場合もある(ex. Cm7onG)。
C7→C7/E→C7/G→C7/B♭ (1つ目は和音自体を展開させた場合、2つ目は上部の和音を保持したままベース音だけを変えた場合) |
ベース音が和音の構成音に含まれない分数コード。ベースとコードを分離して考えることで、より自由な発想でコードを組み立てることができる。また、上部の和音を保持したままベース音だけ変わる等、杓子定規にコードネームを振るとかえって可読性が落ちる場合に用いられることもある。
例えば、AmのコードからベースがA→G→Fと下がっていく場合に、Am→Am7/G→F△7と書くより、Am→Am/G→Am/Fと書いたほうが(読む人間にもよるが)認識が容易。
しかしながら、可読性の為の安易なコードネーム選択によって和音自体の機能がわかりづらくなる場合も往々にして存在することにも留意したい。この辺りは譜面を書く人間のセンスも問われる所ではある。
F→F/G | |
Am→Am/G→Am/F (実際に鳴っているのはAm→Am7/G→FM7) |
これまでの分数コードとは違い和音の上に和音を乗せるもの。アッパーストラクチャー(upper structure)は「上部構造」を意味し、分子には三和音(トライアド)が使われることが多い為アッパーストラクチャートライアドとも呼ばれる。
複調を表す書き方のようにも見えるが(無論そういった使い方も可能だが)、実際の所はテンションがたくさん乗った和音を読みやすくした形であることが多い。
例えば、G7(9,♯11,13)というコードの場合、9thがA、♯11thがC♯、13thがEであるため、A/G7と書くことで弾くべき音がより直感的にわかりやすくなる。逆に、例えばD♭/G7は、上部のD♭(トライアド)の構成音D♭はG7の♯11th、Fは同じく7th、A♭は同じく♭9thであるため、G7(♭9,♯11)を書き換えたコードということである。
分母にもメジャートライアド(音名のみで表記される和音)が来る場合に分母が単音なのか和音なのか区別できなくなる為、分母が単音ならスラッシュ、和音なら水平な括線と書き分ける場合もある。
D/CM7 (= CM7(9,♯11,13)) |
コードネームは演奏には便利だが、前述したように和音の持つ機能を表すことができないことからアナリーゼ(楽曲分析)には若干不向きである。特に、コードネームの表記は絶対音高に依存する為、複数の楽曲を扱う場合曲同士の調が違うとお手上げ。
そこで登場するのがディグリーネームでの表記である。ディグリー(degree)は「度」の意味。調の主音からの度数をローマ数字で表す。例えばCメジャー上では、CM7はIM7、G7はV7、Am7はVIm7、B♭7は♭VII7といった具合になる(変化記号は度数の前に付く)。
和音記号とコードネームを直接変換することは難しくない。アナリーゼの際、古典的解釈をするには和音記号へ変換する必要があるが、結構複雑である。
コードネーム | 調と和音記号の組の例 |
---|---|
C | C durのI |
Cm | C mollのI |
C+5、Caug | F durのVの上方変位 |
Cm-5、Cdim | B mollのII |
CM7 | G durのIV7 |
C7 | F durのV7 |
Cm7 | F mollのIV7 |
CmM7 | F mollの本来のV7(通常はC7を使うが、III(A♭)へ進むなどでこれを使うことが) |
Cm7-5 | B mollのII7 |
C9 | F durのV9 |
Cadd9 | C durのIに根音上方転位音が付加されたもの |
C6 | G durのIV+6、もしくはII7(Gが続くなら前者、Dが続くなら後者) |
Csus4 | C durのIの第3音が上方転位したもの |
Csus2 | C durのIの第3音が下方転位したもの |
C(omit3) | C durのIの2声体 |
CM7(omit3) | C durのVの第5音が下方転位したもの |
Cadd9(omit3) | C durのIの第3音が下方転位したもの(Csus2と構成音が同じ) |
Cdim7 | Cis mollのV7根音省略形 |
C7/E | F durのV7第1転回形(/Gは第2転回形、/B♭は第3転回形) |
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最終更新:2024/10/11(金) 17:00
最終更新:2024/10/11(金) 17:00
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