キリル文字とは、ロシア語等で使用される音素文字(アルファベット)の1つ。ロシア文字とも呼ばれる。
概要
アルファベットに分類される文字体系であり、大文字と小文字が存在する。ギリシア正教の宣教師キュリロスとその兄メトディオスによって作られた文字とされ、キュリロスの名前に因んでキリル文字と呼ばれるようになった。ただし実際に彼らが作ったのはグラゴル文字であると言われる。
キリル文字に含まれる文字の多くはギリシア文字に基づいている。主にスラブ語派に属する言語であるロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、ブルガリア語、セルビア語、マケドニア語等で使用されている。これら以外にも旧ソビエト連邦に所属していた国、およびその周辺の国々の言語 (カザフ語、キルギス語、アブハズ語、モンゴル語等) でもキリル文字が使用されている。
以下、ロシア語とウクライナ語で使用されるキリル文字の一覧を示す。
ロシア語のキリル文字一覧
大文字 | 小文字 | 音価 | 名称 | 大文字 | 小文字 | 音価 | 名称 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
А | а | /a/ | アー | Р | р | /r/ | エル |
Б | б | /b/ | ベー | С | с | /s/ | エス |
В | в | /v/ | ヴェー | Т | т | /t/ | テー |
Г | г | /g/ | ゲー | У | у | /u/ | ウー |
Д | д | /d/ | デー | Ф | ф | /f/ | エフ |
Е | е | /je/ (注) | ィエー | Х | х | /x/ | ハー |
Ё | ё | /jo/ (注) | ィヨー | Ц | ц | /ts/ | ツェー |
Ж | ж | /ʐ/ | ジェー | Ч | ч | /t͡ɕ/ | チェー |
З | з | /z/ | ゼー | Ш | ш | /ʂ/ | シャー |
И | и | /i/ (注) | イー | Щ | щ | /ɕː/ | シシャー(ッシャー) |
Й | й | /j/ (注) | イー・クラトカヤ(短いイー) | (Ъ) | ъ | (注) | 硬音記号 |
К | к | /k/ | カー | Ы | ы | /ɨ/ (注) | ゥイ |
Л | л | /l/ | エル | (Ь) | ь | /ʲ/(注) | 軟音記号 |
М | м | /m/ | エム | Э | э | /e/ | エー |
Н | н | /n/ | エヌ | Ю | ю | /ju/ (注) | ユー |
О | о | /o/ | オー | Я | я | /ja/ (注) | ヤー |
П | п | /p/ | ペー |
注
- 音価はあくまで代表的な物であり、有声子音が語末で無声化する等、変化する場合もある。
- й は短いイーといい、主に母音の後ろに現れる音である。
- ь は軟音記号といい、直前の子音を「イ」の響きで発音する事を表す (гласность=グラースナスチ)。このように発音される子音を軟子音といい、それ以外の子音を硬子音という。
- е、ё、и、ю、яは軟母音といい、これらも直前の子音を軟子音にする(ただしж、ш、цは除く)。それ以外のэ、о、ы、у、аは硬母音という。
- ъ は硬音記号といい、子音と軟母音の間で使用して、直前の子音が軟子音にならずに硬子音で発音される事を示す。
- е、ё、и、ю、я(軟母音)の直前がж、ш、цの場合、それらは対応する硬母音字э、о、ы、у、аと同様に発音される(цは例外あり)。
- ы の表す音が独立した音素 /ɨ/ であるかは諸説ある。この音素を無いとする説では、主に硬子音の直後で異音となった /i/ として見なすことが多い(この場合 и と音韻上同音ということになる)。
- ロシア語やウクライナ語には特に長母音とされるものは無く、日本語表記で長音符になっている部分は、基本的にアクセントのある位置を表しているにすぎない。
- 名称は、MS-IMEでキリル文字に変換可能な表記について列挙している。なおйは「イー」、ъは「コウオン」、ьは「ナンオン」で変換可能 (Microsoft(R) IME (10.0.6000.0) で確認)。
ウクライナ語のキリル文字一覧
ウクライナ語で使用され、ロシア語で使用されない文字は背景に色を付けた。
大文字 | 小文字 | 名称の発音 | (日本語) | 大文字 | 小文字 | 名称の発音 | (日本語) |
А | а | /ɑ/ | アー | Н | н | /ɛn/ | エヌ |
Б | б | /bɛ/ | ベー | О | о | /ɔ/ | オー |
В | в | /wɛ/ | ヴェー | П | п | /pɛ/ | ペー |
Г | г | /ɦɛ/ | ヘー(注7) | Р | р | /ɛr/ | エル(注3) |
Ґ | ґ | /ɡɛ/ | ゲー | С | с | /ɛs/ | エス |
Д | д | /dɛ/ | デー | Т | т | /tɛ/ | テー |
Е | е | /ɛ/ | エー | У | у | /u/ | ウー(注4) |
Є | є | /jɛ/ | イェー(注1) | Ф | ф | /ɛf/ | エフ |
Ж | ж | /ʐɛ/ | ジェー | Х | х | /xɑ/ | ハー(注5) |
З | з | /zɛ/ | ゼー | Ц | ц | /t͡sɛ/ | ツェー |
И | и | /ɪ/ | ゥイー | Ч | ч | /t͡ʃɛ/ | チェー |
І | і | /i/ | イー | Ш | ш | /ʃɑ/ | シャー |
Ї | ї | /ji/ | イィー(注1) | Щ | щ | /ʃt͡ʃɑ/ | シュチャー(注6) |
Й | й | /jɔt/, /ɪj/ | ヨット(注2) | Ю | ю | /ju/ | ユー(注1) |
К | к | /kɑ/ | カー | Я | я | /jɑ/ | ヤー(注1) |
Л | л | /ɛl/ | エル | Ь | ь | /mjaˈkɪj znak/ | 軟音記号(注8) |
М | м | /ɛm/ | エム |
注
- それぞれй+е=Є、й+і=Ї、й+у=Ю、й+а+Яの発音を表す。Є はロシア語の Э とは逆なので注意。
- 名称は「ヨット」だが単語内で使用された時などはヤ行子音を示す。例:Його (ヨホー) - Він(彼)の単数所有格/対格
- 巻き舌(ならなくても問題ない)。
- 日本語のウと違い、口を前に突き出すようにして発音。
- 喉の奥(kと同じ場所)から出す音。
- シチャーと表記される事もある。
- 声を出しながら「ハ」と言う感じ。
- ウクライナ語で М'який знак(ムヤクィー ズナーク)という名前だが、記号であり単体での発音は存在しない。単語中で使用された場合は、その前の音を軟音化する働きを持つ。また、硬音記号としてはアポストロフィー(')を使用する。
日本でのキリル文字の使用
通常の日本語において、キリル文字はラテン文字(英字とも)やギリシア文字と異なり、キリル文字使用言語の単語・文章を引用する時に使用される程度である。
しかし、1978年に制定された文字コード (JIS C 6226) にロシア語のキリル文字33文字が含まれたため、古くからコンピューター上の日本語文書の中でキリル文字を使用する事が可能である。
インターネット上では、顔文字の一部としてキリル文字が使用される事がある (例: 「(゚д゚)」、「щ(゚Д゚щ)」、「ъ( ゚ー^)」等)。
ただし上述したとおりJIS漢字コードのおかげで古くから日本のインターネットで用いることができた反面、そのコードが全角であり、さらにその後Unicodeによって東アジアではキリル文字は文脈によって全角と半角を使い分けるという扱いとなったため、現在でもMS UI Gothicなど日本語フォントにおいては全角のままとなっている場合が多い。さらにIEやSafariなどではフォントが和欧それぞれで設定されているために起きえないが、フォントが一つしか選べないためデフォルトではキリル文字が全角でしか表示されないことが起きるブラウザがFirefoxやChromeなどまだ存在する。
日本語版Wikipediaで見られるようにHTMLやCSSでどんな条件でも半角になるように設定することもできるが、そのようなことをしていない、またはこのニコニコ大百科のようにlang属性が許可されていないためにできないサイトも多いので、もしキリル文字が全角で表示される方は、たとえばWindowsならキリル文字が半角で表示されるメイリオあたりか、もういっそ欧文フォントにブラウザのフォント設定を変えるか、それができないのであればブラウザを変えるかをして対応してほしい。
関連商品
関連項目
- 14
- 0pt