コンコルド効果(Concorde effect)とは、心理現象の1つである。
概要
元は超音速旅客機コンコルドの商業的失敗にまつわる話から由来する言葉。
簡単に言えば、「今まで投資したもの(金銭、時間、努力・苦労、etc)が無駄になるからと、そのまま続けても損失にしかならないのが解っているのにやめたくてもやめられない状態」を指す。
「コンコルド錯誤」「コンコルドの誤り」(Concorde fallacy)とも呼ばれ、書籍『超クソゲー2』でシェンムーの事を紹介された際にこの言葉が「コンコルド錯誤」として用いられたため、同書籍を読んでこの現象を知った人の場合はこちらの呼称が定着していることかもしれないが。
また経済学の世界では、「サンクコスト効果」「サンクコストの錯覚」などとも呼ばれている。
『埋没費用』の記事も詳しいため、合わせて参照されたい。
コンコルドは世界初の超音速旅客機として、未来性を感じさせる造形や高性能ぶりから人気を呼び、1960年代の開発当時は世界各国から注文が相次いだほどであった。しかし、
- あまりにも高過ぎる開発費や維持費
- 恐ろしく値段が高い上に燃費が著しく悪い(更にオイルショックがこれに拍車をかける)
- とても長い滑走路が必要
- 凄まじい騒音や衝撃波が出るため、住民批判が出た結果限られた航路(海上など)しか航行できない
- 運賃も高い上に100人程度しか搭乗できない
- 開発途中、旅客機の飛行が大衆化し航空業界はボーイング747のような低コスト・大量輸送・遷音速飛行(マッハ0.8〜0.9程度の巡行速度)が可能な機体へとニーズが移って行く
などの様々な問題点から受注キャンセルも相次いでしまい、このまま開発を続けても利益はもはや回収が望めないところまで難航した。
そして「このままプロジェクトを進めたら完了までには一体どれほどの金額がかかるのか?」を試算してみたところ、『今すぐにプロジェクトを中止して、旅客機会社に対して違約金と賠償金を支払った方が遥かに安く済む』くらいの大赤字が出てしまうという結果が出てしまった。
しかしここで開発を中止したら今まで投入した予算が惜しいこと、費やした時間や手間隙が全て水泡に帰してしまうことに加え、計画中止の責任は誰が取るんだという責任問題(既に個人の責任で何とかなる範囲を超えていた程の、途方もない赤字額が出たとされたため、全員が責任を取る事を恐れた)から、「今手を引けばこれ以上赤字が拡大せずに済む」とプロジェクトに関わる全員がわかっていながら目を背け、プロジェクトは行き着くところまで進んでしまった、とされている。
これらの結果から、超音速旅客機コンコルドは250機で採算が取れるとされたところを僅か16機しか製作されず、大赤字で終わってしまった。
コンコルドに限らず、日常生活や仕事の場でも度々見かける現象であると思われる。わかっていてもやめられない現象だけに厄介なもので、一人の問題ならばこれまで投資した全てのものをスッパリ切り捨てて未練も執着も断ち切る事で脱却できるだろう。
ただしこれが集団で進める仕事やプロジェクトである場合は、今まで投資した金銭や時間のみならず責任問題にも発展する事になるため、取り返しのつかない大損害を被るまでやめるにやめられない、という状態に陥る事もありうる。
ちなみに、元々は動物行動学(さらには行動生態学、社会生物学)の分野で広まった用語である。Triversという学者は経済学の概念を取り入れて動物の行動を捉え、1970年代前半にParental Investment(略してPI。和訳すると「親の投資」)という用語を確立した。このPIの考え方においてTriversは、親が子供を守り育てるという一連の行動は、子孫(遺伝子)を繁栄させるという「利益」を得るための「投資」として説明できるとしたのである。
だがTriversのこのPIの考え方に対して一石を投じるような論文「Parental investment, mate desertion and a fallacy」がDawkinsとCarlisleの2名の学者によって著され、高名な科学雑誌「Nature」に1976年に掲載された。この論文の中でDawkinsらは、動物の子育てすなわち「親の投資」においては、「将来の利益」よりも「過去の投資」を重視しているかのような行動が観察されると指摘した。これを上記のようなコンコルドの建造計画に喩えて「Concorde fallacy(コンコルドの誤謬、コンコルドの錯誤)」と表現したのである。
その後Dawkins、つまりあのリチャード・ドーキンスは同じ1976年に上梓した一般向け科学解説書籍「利己的な遺伝子」で超有名人になり、学者としても活発に活動する。その過程において、この「Concorde fallacy」(あるいはConcorde effect、すなわちコンコルド効果とも表現された)という言葉も広まっていった。
主なコンコルド効果の一例
- 今まで費やした課金額を無駄にしたくなくて、ネトゲやソシャゲがやめようにもやめられない
- コンプリートガチャが、5つのうち4つまでアイテムが揃ったのに最後の1つが揃えられず、何としてもゲットしたくなる
- 見に行った映画が思いのほかつまらないけど、支払ったお金が勿体無くて結局最後まで見る
- 大学入試で2浪3浪しているが、これまでに費やした勉強時間が無駄になるからと、偏差値的に合格が困難だとわかっていても「無駄にしてたまるか」と意地になって後に退けなくなり、志望校のレベルも下げられなくなる
- ある公共事業で数億円かけてリゾート地を開発し始めたが、途中に近場で違うリゾート地がオープンしてしまい見込まれる収入が大きく減少したにも関わらず、ここでやめたら今までの開発費が無駄になる・・・とプロジェクトを続行
- 今降伏すればこれ以上戦火が拡大せずに済むけど、戦争に費やした費用や補給物資が惜しくなる、散っていった戦死者に顔向けできない、敗戦の責任は誰が取るんだ、と戦争を続行せざるを得なくなる
- パチンコやギャンブルで負けが嵩んでいるにも関わらず、「元が取れなければ」「今までの負け分だけでも取り返さないと」と意地になってゲームを続行する
- 商売を続けていても利益が上がらないと解っているのに、投資したお金や時間が勿体無くて閉店の決断を下せない
- 恋人と別れたいが、「もう数年付き合ってるしここで別れたら今までの時間が無駄になる」と、本心では別れたいのに付き合いをやめられない
- キャバクラやホストクラブに通い続けるのをやめたいが、今まで費やしたお金や時間がもったいない上に「次はいつ来てくれる?」と連絡が来るとどれだけお金がかかっても店に通いたい欲を断ち切ることができない
- 何年も着ていない衣服や上着を処分してクローゼットを整理したいが、高いお金を払って買ったブランド服や限定品が出てくると「着てなかっただけで捨てるほどではない」「いつかまた着るかも」とクローゼットに戻してしまい、捨てる判断が下せない
- 「初回のみ無料」と紹介された商品やサービスを、無料期間が終了した後も費やした時間がもったいなくて結局有料で契約したままにしてしまう
結局、コンコルド効果の状態に陥ったらどうすればいい?
ケースにもよるかもしれないが、一番は埋没費用(今まで費やしたお金、時間、手間など)を一切考えずに最善の結果を判断することであろう。後ろ髪を引かれるだけに決断を躊躇われるが、一度脱却してしまえば楽になる。
逆に「もったいないから」とやめずに継続し続けると、どうしようもないほどの大損害を被るまで脱却できなくなる事が殆どだと思われる。
こちらについてもやはり『埋没費用』の記事が詳しい。
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