省略された掛け算の順序問題とは、6÷2(1+2)に代表されるa÷bc=a÷cbの是非を巡る論争である。
なお、当記事における/は分数の代わりであって割り算ではない。理想を言えば分数をそのまま再現するべきだが、編集者にかかる負担が大きい為妥協している。
概要
a÷bcという一見何の変哲もない式であるが、これの解き方を巡ってはある論争が存在する。式中に存在するbc、この間に存在する掛け算をいつ計算するのかという問題である。
ある人はa÷b×c、(a/b)×c=(ac)/bと解釈し、また別の人はa÷(b×c)、a/(b×c)=a/(bc)と解釈し、また別の人はそれぞれの意見に分かれる事から回答不能とするように、掛け算をする順番が人によって異なるのだ。これらは単純な3つの説ではなく、大きく分けてPEMA説、省略された掛け算優先説、問題不成立説、使い分け説、部分的不成立説の5つに分類できるようである。
日本における諸説と争点
5つの説の解説に移る前にまず詳細な争点を把握しておこう。これを把握せずに的外れな批判を行う人が後を絶たないからだ。
なお、日本における便利さを考え、すべて執筆時点で判明している日本の事例を基にしている。そのため、今後発見される資料や今後の社会情勢の変化次第では大きく状況が変わる可能性があり、あくまでも暫定的な物に過ぎない。
数学に地域独自のルールは存在するのか?
義務教育における教育内容をどう解釈するかにおける争点の一つ。
数学にはいくつかの地域ルールがある
省略された掛け算優先説、使い分け説、部分的不成立説が属している。PEMA説と問題不成立説は含まれない。
数学は世界的に統一されたルールである
数学は世界的に統一されたルールがあり、日本の数学教育はこの習得を目的としているという説。
5説全てを内包するが、特に日本においてPEMA説と問題不成立説はすべてこれに属している。
義務教育における諸説
義務教育においてa÷bcの答えがどう定められているかに関する諸説。
a÷bc=a÷cb説
日本の教科書や義務教育を根拠とし、a÷bc=a/(bc)とする説。
地域ルールの見解を問わず、省略された掛け算優先説、使い分け説、部分的不成立説の全てが属する。
しかし、アマチュア愛好家にとって通年の教科書や義務教育の全数検査が実質不可能に近いため、当然ながら専門的な検証はされておらず全くの無根拠な説であるとして反論されている。
「数学は世界的に統一されたルールである」を前提とした場合、スタンフォード大教授の経歴を持つプレッシュ=タルウォーカー氏がa÷bc=a÷cbは古いルールであるとの異論を展開している。
a÷bc≠a÷cb説
「数学は世界的に統一されたルールである」という前提の元、a÷bc=(ac)/bとするプレッシュ=タルウォーカー氏を根拠に、義務教育はこの統一ルールを学ぶ為の過程であるとする説。PEMA説はすべてこれに該当する。
反証として日本の教科書が挙げられており、a÷bc=a/(bc)と定められていると指摘されている。このことから、日本には独自の異なるルールが存在していると反論されている。
問題不成立説
「数学は世界的に統一されたルールである」という前提の元、曖昧で不完全な表現であるから問題として成立していないとする説。
反証として日本の教科書が挙げられており、a÷bc=a/(bc)と定められていると指摘されている。このことから、日本では解釈の手順が定められていると反論されている。
2÷3(4)は文字式なのかという争点
a÷bc=a÷cb説では文字式に関して省略された掛け算の優先を用いることで一致しているが、文字式の範囲に関しては諸説に分かれている。6÷2(1+2)は概ねここから先に関する論争である。
文字式である説
文字式で使用する途中式や教科書の記載から類推すれば文字式に該当すると考え、2÷3(4)=2÷4(3)とする説。必然的にこれ以上の争点を失うので全員が省略された掛け算優先説となる。
しかし、例題をそのまま本物の式と同列視すべきではないという異論がある。
文字式ではない説
文字式と書くのだから実際にラテン文字を用いなければならないとする説。省略された掛け算優先説、使い分け説、部分的不成立説の全てが属している。
しかし、「ラテン文字を用いなければ文字式ではない」という説に出典がないと指摘されている。
どちらか分からない説
ラテン文字を使わない物は文字式であるかそうでないかが定まっていないとする説。省略された掛け算優先説、部分的不成立説が属する。
文字式ではない式、どちらか分からない式の計算順序に関する諸説
文字式ではない説とどちらか分からない説内でも省略された掛け算の優先を適応する範囲で諸説あり、それぞれが異なる見解を掲げている。
文字式ではなくても省略された掛け算優先説
原則として文字式からの類推によって省略された掛け算の優先を適応し、2÷3(4)=2÷4(3)とする説。そのため、文字式かどうかが問題にならない。省略された掛け算優先説に属する。
しかし、今のところ出典はないものの、「文字式では省略された掛け算を使う」と習うのであって、「文字式じゃなくても省略して良い」にはならないと指摘されている。
2÷3(4)は文字式ではない式なのでPEMA説
文字式ではない説を前提とし、省略された掛け算の優先を適応して良いのは文字式のみとする説。これにより2÷3(4)≠2÷4(3)となる。使い分け説がこれに該当する。
しかし、省略された掛け算の優先は文字式に限定されるという説に出典等の裏付けがないと指摘されている。
2÷3(4)は文字式ではない式だけど計算ルールが不十分説
文字式ではない説を前提とし、文字式ではない式の計算ルールでは省略された掛け算の計算ルールが整備されていないため、回答不能とする説。部分的不成立説の一つ。
2÷3(4)はどちらか分からない式なので計算不能説
分からない説を前提とし、文字式ではない式はPEMAで計算するにせよ、ルールが不完全で計算不能にせよ、そもそも文字式か分からないから計算不能とする説。部分的不成立説の一つ。
5つの説
様々な争点は最終的に5つの結論に至るが、それぞれの論点、争点は複雑な階層構造になっており、ここで一気に掲載すると混乱してしまうだろう。そこでここでは大枠の解説のみとし、個別の争点や批判は上の項目に掲載している。
PEMA説
a÷bcもa÷2bも6÷2(1+2)も2÷3(4)も、括弧内の項、冪乗・冪根、掛け算・割り算、足し算・引き算という順で計算する説。
「日本における諸説と争点」におけるa÷bc≠a÷cb説が該当しており、6÷2(1+2)において9派と呼ばれる勢力の一つとなっている。
PEMAとはこの計算順序の頭文字を取った物。他にPEMDAS、BEDMAS、BIDMAS、BODMASという呼び名も知られている。計算式の答えはそれぞれ(ac)/b、(ab)/2、9、8/3となる。
省略された掛け算優先説
a÷bcもa÷2bも6÷2(1+2)も2÷3(4)も、括弧内の項、冪乗・冪根、省略された掛け算、掛け算・割り算、足し算・引き算と言う順番で計算する説。
「日本における諸説と争点」における文字式である説、文字式ではなくても省略された掛け算優先説が該当しており、6÷2(1+2)において1派と呼ばれる勢力その物となっている。
計算式の答えはそれぞれa/(bc)、a/(2b)、1、1/6となる。
問題不成立説
a÷bcもa÷2bも6÷2(1+2)も2÷3(4)も、計算順序のルールが存在しないか、文字式かどうかわからないかのいずれかであり、計算式として成立していないとする説。
「日本における諸説と争点」における問題不成立説が該当し、6÷2(1+2)において不成立派と呼ばれる勢力の一つとなっている。
a÷bc以下4問は計算式として成立していないので、解無しもしくは計算不能となる。
使い分け説
a÷bc、a÷2bは括弧内の項、冪乗・冪根、省略された掛け算、掛け算・割り算、足し算・引き算という計算順序を使い、6÷2(1+2)と2÷3(4)は括弧内の項、冪乗・冪根、掛け算・割り算、足し算・引き算という順で計算する説。
「日本における諸説と争点」における2÷3(4)は文字式ではない式なのでPEMA説が該当し、6÷2(1+2)において9派と呼ばれる勢力の一つとなっている。
式の答えはそれぞれa/(bc)、a/(2b)、9、8/3となる。
部分的不成立説
a÷bc、a÷2bは括弧内の項、冪乗・冪根、省略された掛け算、掛け算・割り算、足し算・引き算という計算順序を使い、6÷2(1+2)と2÷3(4)に関しては、計算順序のルールが存在しないか、文字式かどうかわからないかのいずれかであり、計算式として成立していないとする説。
「日本における諸説と争点」における2÷3(4)はどちらか分からない式なので計算不能説が該当し、6÷2(1+2)において不成立派と呼ばれる勢力の一つとなっている。
a÷bc=a/(bc)、a÷2b=a/(2b)とし、残り2問は計算式として成立していないので解無しもしくは計算不能となる。文部科学省がこの説を採っているといわれる。
その他の争点
教科書検定における実態
文部科学省は6÷2(1+2)に答えはないと返答したといわれている。
仮にこの話が事実だとしても、建前がわかっただけで、実際にそう運用しているとは限らない。そのため、実際の教科書において本当に6÷2(1+2)を文字式ではないとしているのか、文字式とそれ以外でルールを分けているのかに関心を寄せる者もいる一方で、1派による論点ずらしであるとする批判もある。
義務教育検証の有効性
「国際的なルールこそが数学における絶対的な解である」という説の元、義務教育の検証を論点ずらしとする批判もある。
一方でプレッシュ=タルウォーカー氏は数学教育研究の観点から教育資料での扱いを調べていると述べており、数学史や数学教育史研究において重要という見方を暗に示している。
関連項目
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