その街に行かなくてはならない。
なにがあろうと
街とその不確かな壁とは、村上春樹による第15の長編小説である。
もしこの世界に完全なものが存在するとすれば、それはこの概要だ
2020年代/令和で最初の村上春樹による長編である。春樹はすでにこの時点で70代を迎えていた。
春樹の代表作に一つにして日本の読者でも特に人気が高い『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と強い関連がある作品である。『世界の終り〜』でも出てきた人間の「影」が存在しない高い壁に囲まれた不思議な世界「世界の終り」が本作には登場する。本作では過去作では書き切ることができなかった「世界の終り」の詳細を随所に見ることができる。
その一方「ハードボイルド・ワンダーランド」の方は登場せず、その代わりに初恋が忘れられない平凡な中年男性の半生およびモノローグが代入されている(ちなみにこの部分はちょっと新海誠のアニメを連想させるところがあるが、そもそも新海は春樹の影響下にあるクリエイターである)。冒険活劇やSFといった要素を兼ね備えていた「ハードボイルド-」が抜けたことによって、作品世界全体が物静かなものになっている。
この街にはあらすじというものがもともと存在しないのかもしれない
10代の頃、「ぼく」は「きみ」に惹かれていた。両者の間には友達以上恋人未満の状態が続いていたが、突然きみが不可解なメッセージを残してぼくのもとを去ってしまった。このことにぼくは強烈なショックを受ける。一方、世界のどこかにある高い壁に囲まれた街で暮らす「私」は街の閉塞感に息苦しさを感じていた。脱出の手口を探るもどこにも出口などないように思える。ぼくの世界と私の世界にはとある共通点があるだが……
街は高い壁に周囲をかこまれていて、エピソードを持たない
- 超高級装丁と直筆サインが付随した非常にゴージャスかつお値段もダイナミックな愛蔵版なるものも発売された。
- 発売とほぼ同じ頃、春樹と何かと縁のある村上龍も新作を発表している(「W村上」としてセットで語られることが多い)。
- かつて駆け出し小説家の頃、『街と、その不確かな壁』というほぼ同じ題名の中編を春樹は手がけたことがある。しかし彼にとってこれは失敗作だったらしく、こちらは単行本化されず現在では入手が困難な代物になっている。
それは、つまりその我々の関連項目は、いつまで続くのだろう?
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子記事
- なし
兄弟記事
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- 国境の南、太陽の西
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