マイディーヌ・メキシベナバ(Mahiedine Mekhissi-Benabbad)とは、フランスの陸上中距離走選手である。
フランス語での発音はマイェディーヌ・メキスィー=ベナバードに近く、普通ベナバードは略される。
アルジェリア系の慎ましやかなムスリム家庭の10人兄弟の一人として、1985年フランス北東部のシャンパーニュ=アルデンヌ県ランス(Reims)に生まれる。名前もアルジェリア・アラビア語由来であり、そちらではマハイェー・ッ=ディーン・メヒースィー・ベン・アーバド(Maḥyē 'd-Dīn Mekhīsī ben ‘Ābad محيي الدين مخيسي بن عابد)となる。
主に3000メートル障害と1500メートルで活躍中。2007年の欧州陸上U23大会・男子3000メートル障害の金メダルによって頭角を現し、以来欧州の多くの選手権大会で金メダルを獲得。世界大会では世界陸上で2度の銅メダル、オリンピックで2度の銀メダルに輝いている。
その一方、競技終了後(または直前)の荒々しい行動でしばしば物議を醸している。
2010年にスペインで開催されたバルセロナ欧州陸上。男子3000メートル障害を1位で走り終わった彼を出迎えたお地蔵さんのゆるキャラ大会マスコットのバルニ(Barni)がハグしようと両手を広げると、ハグし返したマイディーヌはそのままバルニを軽く持ち上げた。下ろした後に2人が二三言葉を交わす中でマイディーヌが地面を示して何かを指示すると、指示通り膝立ちになったバルニの肩をいきなり両手で突き飛ばした。コミカルにコロンと転がったバルニは一瞬茫然となるも、自分を指差し去っていく勝者を拍手で見送った。
2012年にフィンランドで開催されたヘルシンキ欧州陸上。男子3000メートル障害を1位で走り終わり、その勝利を讃えるために大会マスコットのニコニコテレビちゃんアッピ(Appy)が彼を出迎えた。しかしマイディーヌは控え目に差し出されたプレゼントのバッグ(アッピを模したゆるいデザイン)をはたき落とした上にアッピを両手で突き飛ばした。
幸いアッピは転倒を免れて怪我等も無かったが、中の人である当時14歳の少女が軽いショックを受けていたこともあり、大会運営本部がEAA(欧州陸上協会)に何らかの処分を下すよう要請するなど、各所から非難が挙がった。結局EAAからの処分は行われず、マイディーヌ自身も特に謝罪等はしていない。
2011年にモナコで開催されたヘラクレス(IAAFダイヤモンドリーグ)。男子1500メートル走の直後のトラックの片隅で、強豪ケニヤ勢に完敗したフランス勢のマイディーヌは、同じくフランス北東部はストラスブール出身のアルジェリア系チームメイト、メディー・バアラ(Mehdi Baala)との短い口論の末、彼を衆人環視の中で数回殴りつけ追いまわした。
ただし、一部始終を写していた当時の映像を観れば判るが、先に手を(正確には頭を)出したのはメディーの方で、190㎝の上背を誇るマイディーヌに返り討ちに遭った形であった。
すぐにコーチ陣が止めに入ったこともあり互いに大した怪我は無かったが、仏国陸上連盟は2人に10ヶ月の大会出場停止、1500ユーロの罰金、50時間の奉仕活動を課した。しかしながら2人は5ヶ月の執行猶予を利用してすぐ後に韓国で開催された大邱世界陸上には出場し、メディーは振るわなかったもののマイディーヌは3000メートル障害で銅メダルを獲得した。
2014年にスイスで開催のチューリヒ欧州陸上の男子3000メートル障害で、マイディーヌは最後のホームストレートに入る直前にシャツを脱ぎ、口に咥えて観客にアピールするような余裕を見せつけ、客席からの歓声とブーイングが渦巻く中、堂々と1位でゴールした。審判はこの競技を侮辱するような行為に対し即座にイエローカードによる警告を行った。競技後、マイディーヌは自身のフェイスブックでこうコメントした。
「俺はサッカー選手がやるように自分の勝利を祝いたかったんです。決して他の競技者や観客に対して天狗になってたわけじゃなく、ライヴァルたちへの尊敬の念や陸上競技への愛着が溢れるあまり、スポーツマンらしからぬ振る舞いをしてしまった。とは言え、俺は審判団の決定を尊重します。」
その後、チームの一人が4位に甘んじていたスペイン選手団からの「『ナンバーカード(ビブ)はいかなる方法でも見えなくしてはならない』というルールに抵触してるのではないか」という抗議を経て、審判団は最終的にマイディーヌの金メダル剥奪を決定した。結果として2位以下が繰り上げとなりチームメイトのヨアン・コヴァール(Yoann Kowal)が金メダル、ポーランドのクリスティアン・ザレフスキ(Krystian Zalewski)が銀メダル、スペインのアンヘル・ムリェーラ(Ángel Mullera)が晴れて銅メダルを獲得した。やや異例ともいえるこの重い処分には、これまでの数々の問題行動が積もり積もっての結果という見方もある。
もちろんマイディーヌとフランス選手団も、金メダル剥奪が通達された際に審判団に釈明を行ったが、恐らくその内容は上に掲げたものとそう大差は無いものと推測できる。しかしながら、例えばゴール直後に彼自身が「ワン・トゥー・スリー! ヴィヴァ・マイェディーヌ! ワン・トゥー・スリー! ヴィヴァ・マイェディーヌ!」とカメラに向かってマイディーヌ万歳コールを煽っているような場面もあり(上記テレグラフ紙のページの動画で確認できる)、そうした行為が無ければ、ひょっとしたら彼の釈明にも一分の説得力があったかもしれない。
処分の翌日、マイディーヌはこうコメントした。
「(自分がしたことに)別に後悔はありません。まさかこんなことで(金メダルが)剥奪されるなんて知らかったんです。どのスポーツでもシャツを脱いでもいいのに、陸上競技はダメだなんて。昨日の俺は大喜びから一転して悲しみのどん底でした。」
尤も、彼が重ねて引き合いに出しているサッカーを含む大抵のスポーツでも、競技後はともかくとして競技中に定められた衣服を脱ぐのはスポーツに悖る行為として同様に(退場をも含む)処分を受ける可能性があることは付言しておこう。
また処分決定後、フランス陸上競技連盟代表のベルナール・アムサレム(Bernard Amsalem)はこうコメントした(直接の関係は無いが、彼もアルジェリア出身である)。
「この(競技中にシャツを脱ぐ)行為は許されないものだ。競走の最中にシャツを脱ぎさえしなければ、この様なことは起こらない。だが同時に、彼がシャツを脱いだからといって誰も損害を被らなかった(のも事実だ)。彼が衝動に任せて身体が動いてしまう男だとはいえ、あの競技の場でこうした行為は慎むべきであった(としても)。だが運悪くスペイン選手団が抗議を提出してしまった。私の方から抗議を挙げるつもりは少しもなかったが、スペイン選手団の行為は宜しくなかった。」
参照:同上
つまりシャツを脱いだことは許されない(からイエローカードによる警告は順当である)が、金メダル剥奪は行き過ぎではないだろうか、ということである。
ともあれ、この競技の後に行われた1,500メートル決勝ではマイディーヌは銅メダルを獲得、現在フランス選手団の相談役の一人でケンカ友達のメディー・バアラが労ったという。

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最終更新:2025/12/23(火) 20:00
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