ファリス(競走馬)とは (ファリスとは) [単語記事]

キャリア僅か3戦ながら現代でもフランス屈指の名馬として名高く、種牡馬としても大活躍を収めた。
戦時中に種牡馬生活を送り、数奇な馬生を送った。
名前は父ファロス、祖父ファラリスからの連想で、トロイア戦争を引き起こした英雄パリスから。

生い立ち・競走馬として

父は4カ国のダービー馬を輩出した大種牡馬で、更に世界的な活躍を収めた種牡馬であるネアルコを送り出した。母はフランスの重賞勝ち馬。母父は英2000ギニーや英チャンピオンSを優勝、種牡馬としてよりも母父として本馬の他ドナテッロやブラントームなど欧州の名馬を送り出している。

生産者はフランスの実業家にして名馬産家、マルセル・ブサックであり、本馬はトウルビヨンに並ぶ傑作とも言える。

ファリスは体格の大きさを持て余して仕上がりが遅れ、3歳春までは1戦も出来なかった。ようやくのデビュー戦は仏ダービーに当たるジョッケクルブ賞のトライアル・ノアイユ賞に出走。いきなりダービートライアルへの出走とは恐れ入った。このレースでは出遅れながらも直線でごぼう抜きし快勝。続くジョッケクルブ賞では出遅れの上直線で進路妨害を受けたものの、咄嗟に進路を切り替えて2馬身半差をつけて快勝。
次に当時の欧州最高峰のレースであったパリ大賞典へ出走。今度は鞍上が他馬と接触してあやうく落馬しそうになるも、体勢を立て直すと驚異的な瞬発力で抜け出し、そのまま2馬身半差で勝利。この勝利を受けてフランス国内では19世紀の名馬グラディアトゥールの再来と讃えられた。

同年の英国二冠馬であるブルーピーターとセントレジャーで直接対決の話が持ち上がり、実際陣営は乗り気で渡英したのだが、時は1939年。ナチスドイツがポーランドへ侵攻した事により第二次世界大戦の火蓋が一気に切られ、セントレジャーは中止。ファリスの競走馬キャリアも、ブルーピーターの三冠の夢も一気に消え失せてしまった。

彼の競走馬としてのキャリアは僅か3戦。しかしその全てが不利を受けつつもそれを覆しての快勝劇というものであり、1999年に発表された、20世紀の平地競走馬フリーハンデ表には141ポンドの値が与えられ、12位という屈指の評価が与えられた。願わくば映像で見たいものだが、1939年のレース故致し方なし。因みに同じ141ポンドの馬はミルリーフ、スペクタキュラービッド、バヤルド、シアトルスルーがおり、フランス産馬では全体1位のシーバードに次ぐ。

1940年からフランスの故郷で種牡馬入りするが、種付けシーズンが終わった頃にドイツ軍がアルデンヌの森を一気に突破してきた事によりフランスは降伏。その「戦時賠償」としてフランスの種牡馬などはドイツ本国へと連行されたが、その中にはファリスも含まれていた。

実はヒトラーは競馬ファンであり、自らオーナーブリーダーとして軽種馬の改良にいそしんでいた。トラケーネンファームという一つの街と形容される程の牧場を作り、そこにファリスは繋養された。

種牡馬としても本馬は大活躍を収め、初年度産駒である1941年生まれの馬からジョッケクルブ賞や凱旋門賞などフランスの大競走を席巻したアルダンを送り出し、1944年の仏リーディングサイアーになる。ドイツではあまり活躍馬はいなかったが、戦後に独ダービー・オークスを制覇したアステルブルーテを輩出。因みに彼女はアーバンシーの5代母である。逆算するとドイツ降伏直前に種付けしたんだなあ。

フランスに帰国した以後も種牡馬として快調で、文献や計算方法によって異なるが、あと3回リーディングサイアーを獲得したとも言われている。
1957年に21歳で死亡。戦争によって波乱に巻き込まれた馬生を終えた。第二次世界大戦が無ければ、競走馬や種牡馬としての活躍はもっと見込めた筈だ。

ファリスの系統は後継種牡馬であるアルダンやパーダルがヨーロッパを中心に活躍。1960年代までファリス自身も含めて活躍していたが、次第に子孫が南半球や日本へ輸出されるケースが多くなり、その結果現代ではファリス系はほぼ断絶している。同父であるネアルコの子孫が爆発的に流行したのに対し、ファリスの名前は現代では母系に見られる程度になっている。

母父として、1970～1980年代に活躍した名種牡馬*パーソロンを輩出している。