種牡馬(しゅぼば)とは、有益な形質を持つ子を産ませる為に飼われている馬である。
種馬(たねうま)ともいう。本項では競走馬の種牡馬について記述する。
繁殖牝馬に種付けを行い、妊娠させることを役割として繋養される馬を種牡馬という。日本ではジャパン・スタッドブック・インターナショナルが血統登録をしており、競走馬の血統は厳格に管理されているため、種牡馬となるためにはまずはここで種牡馬として登録しなければならない。
なお、競走馬として現役中に種付けを行うことは認められていないため、種牡馬は全て競走馬を引退した馬である。競走馬として出走経験のない馬でも、種牡馬として登録されているのに競走馬デビューということはできない。これは繁殖牝馬も同様。また、現役中に去勢された騸馬は当然種牡馬にはなれない。
種牡馬になる際は、繁殖登録をすることに加えて、種畜検査を受ける必要がある。わかりやすくいうと、
などを検査する。これに合格しなければ、種牡馬になることはできない。
種牡馬は、基本的に繁殖牝馬のいる生産牧場とは別の、種牡馬を管理する牧場(種牡馬繋養牧場、スタリオン)に繋養される。ダーレー・ジャパンやビッグレッドファームのように、生産牧場が自前で種牡馬を繋養する場合もある。
繁殖牝馬を管理する生産牧場は、繁殖シーズンを迎えて管理する牝馬が発情すると、種牡馬のいる牧場に牝馬を連れて行き、試情馬(当て馬)によってちゃんと発情しているかを確認したあと、目的の種牡馬と交配させる。無事に受胎すれば、約1年後に生産牧場にてその仔馬が誕生する。というわけで種牡馬は牝馬に種を蒔くだけであり、子育てには参加しない。
種牡馬が1回の種付けで受胎させられる確率は7割程度といわれる。繁殖牝馬を繋養する生産牧場はなるべく空胎(繁殖牝馬が妊娠しないまま1年を過ごすこと)は避けたいので、一度不受胎でも繁殖シーズンのうちに種付けをやり直すこともあるが、あまり種付けが遅くなると産駒の誕生も遅れてしまい、遅生まれの競走馬はそのぶん成長面で不利になるため敬遠されてしまう。
そんなわけで、受胎率の高さも種牡馬の資質としては非常に重要である。種付け上手で受胎率が高い種牡馬は、他の種牡馬で不受胎に終わった牝馬の駆け込み寺的に需要が集まることもある。
種牡馬の種付けにおいては、繁殖牝馬を所有する生産者は種牡馬の所有者に種付け料を支払う。種付け料は安くて数十万円(場合によっては無料もあったりする)、ある程度人気と実績のある種牡馬になると数百万円、ディープインパクト級の超人気種牡馬になると数千万円にもなる。
前述の通り種付けをしても受胎しなかったり、あるいは流産や死産といったリスクもあるため、種付け料の支払いには受胎が確認できたら支払いの「受胎条件」や、無事に生まれたら支払いの「出生条件」、無事に生まれなかった場合翌年同じ牝馬に無料で種付けさせてもらえる「フリーリターン」などの支払い条件が存在する。大抵の種牡馬の種付け料は「受胎条件」で、不受胎の場合は支払免除か返金になる。
種付けから出産まで1年、産駒の誕生からデビューまで2年かかるので、初年度産駒がデビューするのは種牡馬入りの3年後、前年に現役引退した場合は引退の4年後である。2021年限りで引退したコントレイルの場合、2022年から種付けを開始、2023年に初年度産駒が産まれ、2025年から産駒がデビューすることになる。
種付け料は産駒の活躍によって上下するが、初年度産駒の2歳戦の結果が反映されるのは種牡馬入り5年目のシーズンということになる。それまでは未知数ということもあり、初年度・2年目は人気を集めた種牡馬も、3年目・4年目は別の新しい種牡馬に人気を奪われて種付け数が減るのが普通で、種付け料が下がることも多い(あのディープインパクトですら3年目と4年目は種付け料が下がった)。そのため、3~4年目は産駒の谷間世代になりがちである。逆に産駒デビュー前から種付け料が上がったり種付け数が増えたりする場合は、それだけデビュー前の産駒の評判がいい、あるいは期待されているということになる。もちろん、実際に産駒がデビューして値上がりに見合った結果が出るかはまた別の話になる。
当然、高額な種付け料の人気種牡馬には実績のある良血の牝馬が回され、格安な種付け料の種牡馬には値段相応の牝馬しか集まらないので、なかなか格安種牡馬が大物を出すことは難しい。それでも種付け料30万円のスクリーンヒーローからモーリスが出て700万円まで上がったり、一時は種付け料50万円まで下がった*シニスターミニスターが産駒の大活躍でどんどん高騰したりもするのが競馬の面白いところである。
大レースで見掛けるような種牡馬でなくても、*サウスヴィグラスのように比較的格安の種付け料で安定して走る馬を出す種牡馬は、特に中小の生産者に重宝される。
なお、他の畜産では冷凍保存した精子による人工授精は普通に行われているが、競走馬の生産においては人工授精は禁止されている。伝統の維持や遺伝的悪影響など理由はいくつかあるが、最大の理由は血統の多様性保持である。優秀な種牡馬が死後も人工授精で産駒を作れるようになってしまえば、新たな種牡馬がそこに入り込む余地が少なくってしまう。そうすると繁殖馬がごく一部の優秀な種牡馬の仔ばかりになり、近親交配を避けることが難しくなる、いわゆる「血の閉塞」を起こしてしまうリスクも高まってしまう。そのため、競走馬の生産は必ず自然交配で行うよう、血統を管理する機構によって世界的に合意が為されている[1]。
サラブレッドは優秀な馬を交配させて優秀な血を残して行くということを第一としているため、種牡馬になるためにはまずその馬自身が優秀な成績を残す必要がある。基本的にはGⅠを勝利しているかどうかがひとつの目安。
能力は高かったが故障で大成できなかったり、人気種牡馬の近親で代替としての需要が見込めたり、血統的な希少価値が高かったりする場合は、自身の成績がそれほどでなくても種牡馬入りできる場合もある[2]。
その一方、同じ血統の優秀な種牡馬が既に多数いたり、血統的な需要や価値が低かったり、活躍した路線の種牡馬需要が低かったりするような場合、優秀な成績を残しても種牡馬になれないこともある[3]。
1年間に生産される牡馬の競走馬のうち、引退後に種牡馬入りできる馬は1%未満。つまりほとんどの競走馬は童貞のまま一生を終える。厳しい世界である。
また、無事に種牡馬となれてもその後の競争もまた厳しい。人気のある種牡馬であれば1年間に100頭以上、多ければ200頭以上に種付けするが、産駒の結果が出なければあっという間に需要は減少してしまう。中には種牡馬入りしても最初からほとんど牝馬が集まらず、そもそも産駒がデビューする前に種牡馬引退となってしまう種牡馬もいる。
活躍馬を何頭も出して種牡馬として成功を収めても、その子世代が種牡馬として結果を出せなければ、直系の血はすぐに途絶えてしまう。たとえば80年代から90年代にかけて日本で10度のリーディングサイアーに輝いた大種牡馬ノーザンテーストの直系は既に日本国内には残っていない。そうした淘汰を繰り返して競走馬の血は現代へと繋がっている。
なお、産駒の活躍馬が牡馬に偏るタイプ(日本ではシンボリクリスエスが典型)のことを「コルトサイアー」、逆に牝馬に偏るタイプ(日本ではクロフネが典型)を「フィリーサイアー」と言う。
日本では90年代ぐらいまでは基本的に輸入種牡馬が主流であり、内国産馬は現役中にどれだけ活躍しても種牡馬としては冷遇されがちで、成功を収めることは稀だった。シンザン、アローエクスプレス、トウショウボーイなどが種牡馬として活躍したが、1957年のクモハタを最後に、半世紀以上内国産種牡馬がリーディングサイアーを獲ることはなかった。
父が内国産種牡馬の馬は馬柱で○父(○の中に父、通称マル父)と表記され、内国産種牡馬を奨励するため、いくつかの重賞を含む父内国産馬限定競走があったり、下級条件でも父内国産馬には奨励賞が出たり、JRA賞にも最優秀父内国産馬の部門が存在した。
しかし90年半ばから日本競馬を席巻したサンデーサイレンスの産駒が続々と種牡馬として結果を残したため、父内国産馬の優遇措置は次第に必要なくなっていき、2007年限りで父内国産馬限定競走や奨励賞は完全に撤廃され、マル父の表記も消滅した。それを象徴するように、2008年にはアグネスタキオンが内国産馬として51年ぶりにリーディングサイアーを獲得している。このあたりについては「父内国産馬」の記事も参照。
2010年代になるとリーディング争いはサンデーサイレンス産駒のディープインパクトと、非サンデー系(キングマンボ系)のキングカメハメハの2強時代となり、国内で活躍した馬の仔がまた活躍する光景が当たり前となった。
その一方、特にサンデーサイレンスの血を持つ繁殖馬が多くなりすぎたこともあり、現在では近親交配を避けるために、こうした日本の主流血統を持たない種牡馬が海外から輸入されるようになっている(競馬ファンの間では「薄め液」と呼ばれたりする)。
ディープインパクトとキングカメハメハは2019年に揃って死亡。現在はその後継争いとなり、2020年代の種牡馬リーディングは戦国時代に突入している。
有力な種牡馬は、種牡馬入りに際してシンジケートというものが組まれる。
これは種牡馬の種付け権を最大60口の株として発行し、その購入者で種牡馬を共同所有するという仕組み。出資者は年1回の無料種付け権を得るのに加えて、出資者以外からの種付け料が配当として入って来ることになる。
たとえばディープインパクトの場合、総額51億円(1口8500万円×60口)のシンジケートが組まれた。初年度は種付け料1200万円で215頭に種付け(不受胎時全額返還)、生まれた産駒は152頭。受胎率7割なのでシンジケート60口のうち42頭が生まれたとして、残る110頭×1200万円=13億2000万円、単純計算で1口あたり2200万円の配当となる。最終的にディープの種付け料は4000万円に達したわけで、種牡馬ビジネスというものがいかに大きなものかがわかる。
高額で導入された種牡馬が大失敗に終わってしまった場合(例:ラムタラ)のリスク分散にもなるシステムである。というか本来の目的はそっちなのだが。
テイエムオペラオーのようにシンジケートを敢えて組まなかった例もあるが、成功したとは言い難く、現代では有力種牡馬はシンジケートを組むのが普通。ただしシンジケートの総額などは基本的に公表されない。
無敗の三冠馬であるディープインパクトやコントレイル、世界最強馬になったイクイノックスが4歳でさっさと引退してしまったのも、このクラスの馬になると種牡馬として種付けをした方が、レースでの賞金より遥かに確実に巨額を稼げるからである。外野のファンとしては強い馬が走る姿を長く見続けたいのは人情であるが、レースでは万一の事故が起こるリスクもあるため、競走馬が経済動物である以上は当然の判断である。強い馬が早めに引退することで競馬界全体の新陳代謝を促していると見ることもできる。
とはいえ日本は全体的にレース賞金が高額なため、中途半端な種付け料で種牡馬入りするよりは現役で走った方が賞金で稼げる見込みがある場合も多く、トップホースでも基本的に5歳までは走るのが当たり前になっている。一方、欧米ではクラシックを勝った馬は3歳でさっさと引退も珍しくないが、その代わり欧米のトップホースは3歳時に世界各国のGIレースに数多く出走して使い詰める傾向があり、3歳時に比較的ゆったりしたローテーションを組んで走る日本のトップホースとは異なる事情も見られる。
シンジケートについてさらに詳しいことはシンジケート(競馬)の記事を参照。
一般的に種牡馬は種付け料を公表して広く繁殖牝馬を募るが、種付け料を公表しない種牡馬もいる。そうした種牡馬は「プライベート種牡馬」と称され、種付け料を公表している牧場に繋養されている場合、種付け料の欄には「Private」と記載される。
プライベート種牡馬になると所有者が相手次第で自由に種付け料を設定できるわけだが、基本的にプライベート種牡馬は、種牡馬としての需要が少なく、所有者が種牡馬としての登録を残しながら、半ば功労馬として繋養している場合が多い。
また、人気種牡馬が高齢となって受胎率が低下したり、体力的に種付け数を抑えたい場合もプライベート扱いとなることがある。2025年現在では、ブラックタイド(24歳)、*ハービンジャー(19歳)などがプライベート扱いになっている。
北半球である日本や欧州、北米での馬の繁殖期間は春だが、南半球では季節が逆になるので、秋が繁殖シーズンとなる。
牡馬は繁殖シーズン外でも種付けが可能なため、秋になると南半球の馬産地(主にオーストラリア)に移動し、そちらでも種付けを行うことがある。こうした種牡馬をシャトル種牡馬という。
日本の種牡馬ではかつてフジキセキやグラスワンダー、現役種牡馬ではモーリスやパンサラッサなどがシャトル種牡馬として供用されており、オーストラリア生まれのフジキセキ産駒キンシャサノキセキが外国産馬として日本で活躍した、なんて例もある。
繋養牧場によって輸入されてその地で永続的に供用されるのではなく、リース(貸し出し)という形で期間限定で供用される種牡馬のこと。輸入のはずが結果的にリース契約になった例もある。
海外から日本にリース契約で供用された種牡馬には、*デインヒルや*ラストタイクーンなどがいる。
公式サイトで繋養馬と種付け料を公開している牧場を記載する。繋養種牡馬・種付け料は2025年時点のもの。NEW!!は2025年の新種牡馬(日本での供用初年度となる輸入種牡馬を含む)、DEBUT!!は2025年に初年度産駒がデビューする種牡馬。種付け料に特記のないものは受胎条件。
名前に*がついているのは輸入種牡馬。血統表では日本調教の外国産馬も*をつけるが、本項では海外調教馬、もしくは日本調教だが海外で種牡馬入りしたあと再輸入された馬のみにつけることにする。
ここに挙げられている以外にも、白馬牧場(ワイドファラオ、アスカクリチャンなど)、Yogiboヴェルサイユリゾートファーム(オジュウチョウサン、エタリオウ、ナランフレグ、ロジユニヴァースなど)、エスティファーム(*ハイランドリール、トーセンラー、トーセンホマレボシなど)など、種牡馬を繋養している牧場はいろいろある。
社台グループが運営する牧場。ノーザンテースト、サンデーサイレンス、トニービン、キングカメハメハ、ディープインパクトなど日本競馬を代表する種牡馬を抱えてきた、日本最大の種牡馬繋養牧場である。
他の種牡馬繋養牧場とはちょっと格が違い、主流の種牡馬はだいたいここにいる。そのため「社台SSで種牡馬入り」は、種牡馬としての高い価値を認められたという意味になる。
もちろん種付け料も相応で、他の牧場ならトップクラスの高額になる200万~300万円台がここでは標準。トップクラスの種牡馬になると1000万円を超える。そのぶん競争も激しく、ここで種牡馬入りを果たしても結果が出なければ数年で他の繋養牧場へと出されてしまうことも珍しくない。
一口馬主クラブ「ヒダカ・ブリーダーズ・ユニオン」の親会社・ジェイエスが運営する牧場。
かつてダービー馬ハクチカラなどを輩出した名門ヤシマ牧場の跡地に、1993年に出来た種牡馬繋養牧場。農事組合法人イーストスタッドが運営する。
ドバイの王族マクトゥーム家の世界的な競走馬管理団体「ダーレーグループ(ゴドルフィン)」の日本現地法人「ダーレー・ジャパン」の種牡馬繋養牧場。
輸入種牡馬が中心だが、ダーレー・ジャパン・ファーム産の内国産種牡馬もいる。
※種付け料は全て出生条件。
内閣府所管の公益社団法人。略称は「JBBA」。競走馬の馬名審査や、競馬のデータベースサイト「JBIS」の運営をしているのもここ。
自前でも種牡馬繋養牧場を持っており、北海道だけでなく青森と鹿児島にも種牡馬を置いている。
特記のない馬は静内種馬場繋養。
一口馬主クラブ「サラブレッドクラブ・ラフィアン」の岡田総帥の妻が代表を務める生産牧場。法人馬主としても登録されているオーナーブリーダーである。
日高の有力牧場が集まって1981年に設立された牧場。社台SSに次ぐぐらいの種牡馬が集まる。
1989年設立。オグリキャップを種牡馬として導入したのがここ。そのため、隣にはオグリキャップの功績を称える優駿メモリアルパークと優駿記念館がある。
生産牧場の岡田スタッド代表で、一口馬主クラブ「ノルマンディーサラブレッドレーシング」の代表の父でもある岡田牧雄が代表を務める牧場。
掲示板
65 ななしのよっしん
2024/12/29(日) 07:55:49 ID: isi1x+9hSV
ドウデュースとシャフリヤールの社台SS入りでいよいよポストディープ時代の役者が全員揃ったな。
キズナ
エピファネイア
キタサンブラック
スワーヴリチャード
サートゥルナーリア
コントレイル
エフフォーリア
シャフリヤール
イクイノックス
ドウデュース
(省略しています。全て読むにはこのリンクをクリック!)
66 ななしのよっしん
2025/01/30(木) 23:17:28 ID: jdg8XthhIP
早熟種牡馬は色々言われやすいが競走馬を完全な経済動物として見なすなら早熟であればあるほどいいんだよな
さっさと賞金稼いでその金で次の馬買ってあとはさっさと引退させて運が良けりゃ早々に繁殖入りもできるから
ただの重賞馬までならともかくG1レベルの馬だと基本賞金の稼ぎより種牡馬の稼ぎのほうが遥かにでかいからな
67 ななしのよっしん
2025/02/15(土) 00:22:57 ID: EWUs6XegbK
そもそも白馬牧場は他牧場やオーナーが付ける想定をしてない種牡馬を置いてるところ
ゴールデンバローズは例外中の例外
急上昇ワード改
最終更新:2025/02/16(日) 21:00
最終更新:2025/02/16(日) 20:00
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