ジョージ・A・ロメロ(George Andrew Romero, 1940年2月4日 - 2017年7月16日)とは、アメリカの映画監督である。
ホラー映画の巨匠にして、ゾンビという存在を広く世に知らしめた鬼才である。
概要
幼少時から映画を好み、ホラーの古典である『魔人ドラキュラ』『フランケンシュタイン』に影響を受ける。
中学生の時に8ミリカメラで自主制作を始め、高校卒業前の1959年、巨匠・ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』にて業界入り。ただし身分は「ゴーファー」と呼ばれる雑用係、要するにパシリだった。ここで映画製作の基礎を学び、大学卒業後に友人と共に映画製作会社を起業。
当時はCMや工業用フィルムの撮影を手掛けていたが「自身の映画を作りたい」という夢を諦めきれず、余暇を使い、コツコツと資金をやり繰りして映画を撮影。
リチャード・マシスンの『地球最後の男』に影響を受けたその作品こそが、1968年の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』だった。
なお誤解が多いが、同作は「世界初のゾンビ映画」ではなく、1932年の『恐怖城』が最初である。ただし同作では元ネタであるブードゥー教のゾンビで、人を襲う事も食べる事もない。現行の「知性を失い、人間を襲い、感染拡大していく生ける屍」たるゾンビの、世界初の映画である。
公開当初は酷評を受けたが、その後ドライブインシアターや深夜放送で繰り返し放送。カルト的な人気を博し、結果としてロングランの大ヒットとなった。なお同作は後世の文化への影響により、ニューヨーク近代美術館所蔵、アメリカ国立フィルム登録簿に永久保存という栄誉に輝いている。
1977年、『マーティン』を製作。睡眠薬入りの注射器と剃刀で女性を襲う現代の吸血鬼を描き、何処か哀愁ある内容となっている。一方で主人公は「自分を吸血鬼と思い込んでいる人間」で、彼を吸血鬼だとして追いかける老人もまた狂っているという解釈も可能で、物語はやがて悲劇的なラストへと至る。
クライマックスの心臓への杭打ちの特撮は、トム・サヴィーニが担当。その後もロメロの作品にサヴィーニは多く参加し、見る人の度肝を抜くSFXを手掛けていく事となる。
また本作はカンヌ国際映画祭に出品されて好評を博し、これを見たダリオ・アルジェントがロメロに興味を持つに至った。
そんなアルジェントのプロデュースを受け、ロメロは1978年、ゾンビ映画の金字塔である『ゾンビ(原題:Dawn of the Dead)』を発表。
150万ドルで製作されたこの作品は世界的なヒットとなり、当時無名だったロメロの、そして「ゾンビ」に対する知名度は爆発的に高まった。
ゾンビによって崩壊してゆく社会、物質主義への反発など、単なるモンスターパニックに留まらない独自の世界観を持つ傑作として、今も評価が高い。またゲーム『デッドライジング』ではゾンビが溢れ返るショッピングモールが舞台となっており、まさしく本作が元ネタと言える。
当然ながら柳の下の二匹目のドジョウを狙ったフォロワーを多く輩出し、一つのジャンルとして「ゾンビ映画」が世に多く解き放たれていったが、その辺りは割愛。
1982年、スティーブン・キングの書き下ろした脚本を元に『クリープショー』を製作。
アメリカン・コミックスの形式を借りた全5話のオムニバス作品で、後年の『フロム・ザ・ダークサイド』へとその系譜は受け継がれている。なお5話は正真正銘の虫注意作品なので、視聴の際にはお覚悟を。
ちなみにキング本人も第2話で主役を演じている他、キングの息子、ジョー・ヒルが冒頭と終盤に子役で出演。SFXを担当したサヴィーニもラストのゴミ清掃員役でちょっとだけ顔を出している。
1985年、『死霊のえじき(原題:Day of the Dead)』を発表。『ナイト~』から本作までの3作品をもって「ゾンビ3部作」として広く認知されている。
世界中がゾンビで溢れる地獄にあって極限状態に置かれた人間模様、かつてないゴア描写、知性を持つゾンビ「バブ」と彼を研究するローガン博士の儚い絆が描かれた。
ちなみに同作の撮影の裏側は映像として残っており、
- 自分の生首のロボットをイタズラで母親に見せ、一週間口をきいてもらえなかった
- 親しい友人なので死亡シーンは派手に首を引きちぎる事にした
- はらわたを引きずり出して食べるシーンで使っていた豚の臓物が手違いで腐敗してしまったが、スケジュールの都合でそれを使わざるを得なかった
など、色々と面白い裏話が伝わっている。
1998年、サバイバルホラーゲーム「バイオハザード2」のテレビCMを手掛け、当時大いに話題を呼んだ。
その後実写版の監督にも起用される予定だったが、内容について製作側と衝突し、残念ながら降板となった。
新3部作とも言うべきこれらの新作はホラーファンを再び喜ばせ、興行的には今ひとつだったものの、老境に入っても未だその手腕が健在であることを見せ付けた。
また1991年『羊たちの沈黙』では監督の熱烈なオファーを受けてFBI捜査官役として出演。2010年『Call of Duty: Black Ops』のゾンビモード「Call of the Dead」ではゾンビ役として顔を見せている。
2017年7月16日、肺がんにより死去。享年77歳。
「ロード・オブ・ザ・デッド(Road of the Dead)」が遺作となった。
スティーブン・キングを始めとした業界関係者からは多くの哀悼の声が寄せられ、感謝を込めたオールナイト上映が開催されるなど、死後もその大きな存在を印象づける事となった。
余話
「魔界都市ブルース」シリーズの作者・菊池秀行は、魔界と人間界の暗闘を描いた長編小説『妖獣都市』において
「魔界側の危険分子が人間の死体に憑依して墓から這い出してきたのを始末する際、民間人に見られて大騒ぎになり、不始末を咎められた関係者全員が減給を食らった」
というエピソードを描いている。
この時目撃者となった民間人こと「ジョージ某」は後に『動く死体』を題材に映画を製作、一山当てて一躍有名監督の仲間入りをしたという。ホラー映画マニアの菊池氏ならではの、ちょっとしたお遊びと言える。
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関連項目
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