むらさめ型護衛艦とは、海上自衛隊の保有する汎用護衛艦(DD)である。
1996年より配備が始まり、9隻が建造され、いずれも現役で主力の4個護衛隊群に配備されている。
現状における海自護衛艦隊のワークホースとして活躍している。
艦名は基本的には「あめ」に関係する名前がつけられ、「あめ型護衛艦」とも呼ばれる。
概要
むらさめ型の先代「あさぎり型護衛艦」は、「はつゆき型護衛艦」の改良型として建造されたが、
「はつゆき」型の延長線上の設計思想が強く、多くの構造上の問題点が指摘されていた。
(巨大なヘリ格納庫のせいで横風に煽られやすい・レーダーに映りやすいなど)
そこで、数多くの新機軸を盛り込み、新世代の汎用護衛艦として建造されたのが、このむらさめ型である。
船体はあさぎり型よりも約1,000トン大型化し、居住性と抗堪性が大きく向上した。
また余剰出力や艦内容積に優れた、大柄な船体による発達余裕を活用。
後に武装の強化や哨戒ヘリ運用能力を拡張した、準同型艦のたかなみ型護衛艦も5隻建造されている。
こういった準同型艦、派生型の開発は米海軍のスプルーアンス級駆逐艦に類似している。
(米駆逐艦。大柄な船体を生かし各種の武装を追加装備。またイージス艦などの派生型が建造された)
船体と上構造物はステルス性を考慮し、レーダー波をそらすために外板が若干傾斜している。
戦闘システムも「こんごう型護衛艦」の思想(すなわちイージスシステムの思想)を大きく取り入れ、
イージス艦のような大型ディスプレイ2面をCICに装備。ESM/ECM、ASWCもイージスシステム、あるいは米海軍の艦艇自衛用システム(SSDS-Mk2)に近い。部分的に分散処理も導入したものとなった。
艦対艦誘導弾を除く誘導武器も、ほとんどが垂直発射装置からの運用が可能となった。
このこともステルス性改善に相当に貢献している。
垂直発射アスロックは前甲板Mk41VLSに、シースパロー短SAMは中甲板Mk48VLSに装填された。
その優れた居住性もあって海外派遣に積極的に参加している他、日本近海での哨戒活動も遂行し、
性能・数のいずれをみても海上自衛隊の主力と言える護衛艦である。
性能諸元
全長 | 151.0メートル |
全幅 | 17.4メートル |
排水量 | 基準4550トン 満載6200トン |
乗員 | 165名 |
武装 | 62口径76mm単装速射砲 1基 高性能20mm機関砲(CIWS) 2基 MK41 VLS(垂直発射装置) 16セル (装填弾)アスロックSUM(VL-ASROC) MK48 VLS(垂直発射装置) 16セル (装填弾当初)シースパロー短SAM (装填弾現在)ESSM(発展型シースパローミサイル)短SAM 90式艦対艦誘導弾4連装発射筒 2基 3連装短魚雷発射管 2基 また、艦橋後部チャフ甲板両舷や格納庫上部両舷に12.7mm重機関銃を設置可能 |
レーダー | OPS-24B対空レーダー OPS-28D対水上レーダー OPS-20航海用レーダ ー |
ソナー | OQS-5バウソナー OQR-2曳航ソナー |
ECM/ESM | NOLQ-3電波探知妨害装置 及びMk36 SRBOC(チャフ発射機) |
速力 | 最大30kt |
主機 | COGAG方式 4基2軸 出力6万馬力 「スペイSM1C」13500馬力 2基 「LM2500」16500馬力 2基 |
搭載機 | 対潜ヘリコプター(SH-60JまたはSH-60K)1機(最大2機) |
特徴
- 武装の垂直発射化
- 従来のミサイルランチャーを直接敵に向けて発射する方式から、
船体に埋め込まれたミサイルランチャー(垂直発射装置:VLS)から発射する方式に変更された。
これは「いちいちランチャーに装填すんのメンドクセ 直接弾庫から飛んでけるよーにしよーぜ!」というもの。 - おかげで故障しやすいミサイルの再装填装置がいらなくなり、稼働部が少ないので故障しにくい。
また従来は装填してからでないと使えなかった予備弾がなくなり、全て即座に発射することができる。
対空戦闘においては、360度全周に即応できるようになったのも、大きな利点である。 - ハイテク化された戦闘システム
- むらさめ型の戦闘システムの中核を成す戦術情報処理装置「OYQ-9 CDS」は、
米国の「イージスシステム」の影響を大きく受けており同様の大型ディスプレイを2面持つほか、
計算機もイージス艦が搭載しているのと同じ「UYK-43」「UYK-44」である。
各武装やセンサー類は、OYQ-9とデジタル的に接続され、管制下に置かれている。 - また、対潜戦闘を一元的に管理する対潜情報処理装置「OYQ-103 ASWCS」が装備される。
これはOYQ-9に接続される一方、各ソナーや魚雷、アスロック、対潜ヘリのデータリンクと連接され、
対潜作戦全般を指揮するシステムである。
なお、NQLQ-3電波探知妨害装置はESM/ECMを完全統合したもので、優れた電子戦能力を有する。 - 大柄な船体による優れた居住性とステルス性
- あさぎり型より約1000トン近く大柄な上に省力化で55名ほど乗員が削減されているため、
スペースには随分とゆとりがあり、居住性は護衛艦の中では屈指の物を持つ。
ベッドは3段ベッドから2段ベッドに変更され、部屋は12名程度の小部屋となった。
また、船体及び上部構造物共に、レーダ反射面積減少を意識した。傾斜を有する構造となっている。
但しマストは従来通りのラティス(格子)型であり、これはステルス性より強度・安定性を重視したといわれる。 - 一方でこのマストには、随所に電波反射減少素材が適用され、外見ほどRCSは大きくないという意見もある。
たかなみ型護衛艦でステルスマストへの移行も検討されたが、排水量大幅増のデメリットから見送られている。
現在の状況
海賊対処では機関銃の増設や装甲版の搭載、さらには拘置室などの改装を行い派遣された他、近年の厳しい周辺環境に対応するため、搭載する対空ミサイルを「シースパロー短SAM」から、射程の延長や機動性強化・即応性の向上を果たした改良型の「ESSM」(発展型シースパローミサイル)短SAMに換装。射撃方位盤も対応改修を施された。
居住性の高さもあって、半年にも及ぶソマリア海賊対処などの海外派遣をもこなす一方、国内では尖閣諸島周辺での監視行動などの任務に従事し、2013年1月30日には3番艦「ゆうだち」が中国海軍フリゲートから射撃管制レーダーの照射を受けるなど、厳しくなりつつある安全保障環境の最前線で活躍している。
一番艦竣工から17年が経過しているが、昨今の護衛艦減勢の状況、そして基礎設計の完成度、実用性の高さから、今後も当分の間海上自衛隊水上部隊の主力として活躍し続けるものと思われる。
同型艦
艦名 | 艦番号 | 竣工日 | 配属 | 定係港 |
むらさめ | DD-101 | 1996年3月12日 | 第1護衛隊群第1護衛隊 | 横須賀 |
はるさめ | DD-102 | 1997年3月24日 | 第2護衛隊群第6護衛隊 | 横須賀 |
ゆうだち | DD-103 | 1999年3月4日 | 第3護衛隊群第7護衛隊 | 佐世保 |
きりさめ | DD-104 | 1999年3月18日 | 第4護衛隊群第8護衛隊 | 佐世保 |
いなづま | DD-105 | 2000年3月15日 | 第4護衛隊群第8護衛隊 | 呉 |
さみだれ | DD-106 | 2000年3月21日 | 第4護衛隊群第4護衛隊 | 呉 |
いかづち | DD-107 | 2001年3月14日 | 第1護衛隊群第1護衛隊 | 横須賀 |
あけぼの | DD-108 | 2002年3月19日 | 第1護衛隊群第5護衛隊 | 佐世保 |
ありあけ | DD-109 | 2002年3月6日 | 第3護衛隊群第7護衛隊 | 佐世保 |
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関連項目
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