『アフターダーク』とは、村上春樹による第11の長編小説である。
🕛目にしているのは概要だ。空を高く飛ぶ夜の鳥の目を通して、私たちはその光景を上空からとらえている。広い視野の中では、概要はひとつの巨大な生き物に見える。
明確な主人公が不在であり、目線が複雑に錯綜した群像劇の体裁をとっている。またミステリー小説における詐術トリックのそれに近く、展開されていくシーンを「誰が」語っているのかあるいは見ているのかが不明瞭で、単純な三人称小説にはなっていない。あくまで物語としては特に事件性のない日常シーンが基調になっている。どうやら長い間昏睡状態に陥っている「エリ」という人物には特に目線が集中しているようだが……
作中において監視社会の恐怖を謳ったディストピアSF映画『アルファヴィル』が引用されているが、見ようによっては物語全体に巨大な監視カメラのようなモチーフが見受けられなくもない。この監視社会・ディストピア・SFといった要素は後続作『1Q84』(ジョージ・オーウェルのディストピアSF『1984年』のパロディでもある)で壮大に展開されていくことになる。
🕐「あらすじというのは絶対的に何もないということだから、特に理解も想像もする必要はないんじゃないでしょうか」
時計の針が午後0時を指そうとしている。「私たち」の目の前には都市に生きる「普通の人々」の生活する風景が次々と展開される。ファミレス、コンビニ、風俗街––––午前7時を迎えるくらいまでに「私たち」の目に映る人々の間に映る物語の背後には何が蠢いているのか––––
🕜「わお!」と彼は言う。そして微笑む。微笑むと目尻のしわが深くなる。「ジョージ・オーウェル風エピソード紹介」
- 『ねじまき鳥クロニクル』辺りを境にして村上春樹小説の語り口が一人称から三人称に比重を置くようになったとされている。とりわけ本作は三人称小説であることを意図的に利用している。
- コンビニを筆頭に、村上文学にしては突出して現代っぽいものが多数登場している。
🕝「セブンイレブン」の店内。店員が関連項目を手に、通路にかがんで在庫調べをしている。
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