引き算とは、以下の事を指す。
- 足し算の逆の計算。加減乗除の減だが、加法と違いあまり減法とは言わず減算と言うことが多い。
- なにかからある要素を省くこと。いい要素であってもなんでもかんでも盛ればよいというわけではないことのたとえ。
- 村下考蔵の楽曲「引き算」。
1について解説する。
概要
ここでは自然数に0を含めることとする。
引き算は足し算の逆の演算であるが、ペアノによると以下のように定義されている。
「a,bに対しあるxが存在し、x+a=bを満たす」ようなxを求める演算を引き算b-aとする。
具体的な例題を考えるとわかりやすい。
2に何を足したら5になりますか?
2+□=5
□=5-2
我々は2に3を足したら5になると経験的に知っている。3=5-2という答えを得る。5を引かれる数、2を引く数という。■
「引き算は逆元を足す演算である」と説明されることもあるが、足し算を定義できる集合であっても必ずしも逆元が存在するとは限らない。
自然数に自然数を足せば必ず自然数になるが、自然数から自然数を引いたら自然数にならないことがある。
上記例で言えば、自然数に限定したとき、2の逆元である-2は自然数に含まれないので、引き算するかわりに逆元を足すことはできない。逆元の存在に陽に触れることなく引き算を定義するなら上記のような回りくどい表現にならざるを得ない。
かつて負の数という概念がが存在しなかった時代は、3-5の答えは「存在しない」、「0」、「計算不能」などバラバラであったという。自然数に限定すれば存在しない、計算不能は正しい理解である。また、あえて「負の数になるような場合は全て0とする」とした場合でもそれはそれで面白い性質を持つ代数となる。
やや難しい話
一方で、以下の法則は満たす。
- 右単位元の存在。 全てのaに対し、a-0=aとなる数0がある。左単位元は存在しない。
- 分配法則。 a×(b-c)=a×b-a×c
足し算はその演算だけを考えると可換半群であるが、実数においては掛け算も可換半群であるため、可換半群をあえて足し算、加法と呼ぶときは暗に掛け算、乗法の存在を想定していると考えてよい。
足し算(と掛け算)を定義した集合は半環と呼ばれる。全ての元に対して必ず引き算ができる半環を環と呼ぶ。
引き算にまつわる諸性質
- 逆元の存在
引き算が必ずできる代数は全ての元が逆元を必ず持つ。0とaとの差を取ることができ、0-a=-aなのでaの逆元が存在する。単位元など、特定の部分に絞れば逆元を持つことがあるので、逆元を持つ元が存在するからといって必ず引き算ができるとは限らない。
必ず引き算ができることを自由な引き算ができると呼ぶことにする。
- ゼロ和自由
「s+t=0ならばs=0かつt=0」という性質をゼロ和自由という。自由な引き算が可能であれば逆元が存在するので、t=-s≠0とおくことでs+t=0かつs≠0かつt≠0とすることができる。
したがって、自由な引き算ができる代数は自明な群や自明な環{0}を除きゼロ和自由にならない。逆に、ゼロ和自由な代数は自由な引き算ができない。
- 総和可能性
結合法則と交換法則を複数の要素に拡張した概念を総和可能性と呼ぶことにする。Σi∈IXiを添え字集合I∋iによる総和とする。
Iの部分集合Km、Kn(m,nは添え字集合Jの元)について、
∐m∈JKm=Iであり、かつm≠nならばKm⋂Kn=Φ。(結合法則。KmはIの分割であり、かっこの付け方によらず答えが一致する。)
iの並べ替えσ(i)∈Jについて、Σi∈IXi=Σσ(i)∈JXσ(i)(交換法則。足し算は足す順序によらず結果が一致する。)
Iが有限ならば通常の総和となる。Iが可算無限のとき、ω総和可能と呼ぶ。ω総和可能なら、無限個の項に対して足し算の順番を入れ替えたりかっこの位置を入れ替えたりできる。
以下の事例から、ω総和可能であるとわかっていないときに無限和のカッコの順番や足し算の順番を勝手に入れ替えてはいけないとわかる。無限和のうち有限個のカッコや足し算に限定して入れ替えることは可能だが、残りの無限個の項に同じ入れ替えを安易に適用することは誤った推論を生む原因となる。
0=0+0+0+… (0に0を無限回足しても0。)
0=(s+t)+(s+t)+(s+t)+… (0=s+tと置く。)
0=s+(t+s)+(t+s)+(t+s)+… (ω総和可能性。無限和の結合法則。)
0=s+0+0+0+0+…
s=0
s=0なのでt=0となった。s+t=0なので、ω総和可能であればゼロ和自由となる。
逆に、ω総和可能ではない場合は3行目の式変形をすることができない。ω総和可能性を無視すると、例えばs=1とおくことで0=1という誤った結果を導いてしまうことができる。
以上より、ω総和可能⇒ゼロ和自由⇒自由な引き算ができない、ということが分かった。
よくある反論として「3行目のカッコの入れ替えで最後に残るtを意図的に足していないだけ」というものがあるが誤りである。最後のtなどというものが存在しないから無限和なのだということを理解しておかなければならない。
どのような代数でも0を無限回足す(あるいはそれに類似する計算をする)ような操作を考える事ができるが、ゼロ和自由でない限り0の無限和から任意の数をひねり出すことができてしまうため、安易に0の無限和を足すことはできない。無限回の足し算を行えるような代数は自由な引き算ができず、自由な引き算ができるような代数は無限回の足し算を行ってはいけないのである。
このような無限和をどうしても通常の演算の範囲で扱いたい場合は超フィルターという概念を持ち出す必要がある。
- ベキ等
s+s=sとなる性質をベキ等という。両辺からsを引くことでs=0となる。引き算ができる代数はベキ等元は単位元に限られることになる。ベキ等な元を含むような代数は自由な引き算ができない。
a*b=(a,bの大きい方)と置くことで二項演算*は加法(可換モノイド)となる。単位元(より正確には中立元)は最小の元である。このとき、*はベキ等であり、逆元を考えることができない。
例えば非負整数の場合、3*3=3であるが、3*□=0となるような□は存在しないので3の逆元は存在しない。3*□=3のとき、□には0,1,2,3が入るので□を唯一に決めることができず、したがって*の引き算を考える事ができない。
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