数学における群(ぐん, 英: group)とは、演算が定義され、その演算に関して結合法則が成り立ち、単位元を持ち、すべての元が逆元を持つ集合である。
ある集合と別の集合との構造を抽象化して比較することが目的。一見すると全く違うようでも群を通すことで実は同一の構造を持つことが分かったりする。例えば3次元空間における回転操作は群の構造を持ち、3次正方行列の特殊な部分群として表現することができる。あるいはあみだくじの組み合わせを対称群を用いて説明することができる。n次方程式の解にはガロア群と呼ばれる構造が付随し、ガロア群が単純群か否かにより代数的な解の公式が存在するかどうかが変化する。
以下では自然数(0は含まない)全体の集合をN、整数全体の集合をZ、有理数全体の集合をQ、実数全体の集合をR、複素数全体の集合をCと表すことにする。後に述べるようにこれらは(Nを除いて)群になる。
また、aが集合Aの元(=要素)であることを a∈A と書くことにする。例えば、2∈N, -3∈Z, π∈R, √2+i ∈ C などが成り立つ。
定義
集合Gが群であるとは, Gにおける二項演算が定義され、次の1〜4が成り立つことである.
- 任意のa,b∈Gに対し, ab∈G.
- 任意のa,b,c∈Gに対し, (ab)c=a(bc).
- あるe∈Gが存在し, 任意のa∈Gに対し, ae=ea=a.
- 任意のa∈Gに対し, あるb∈Gが存在し, ab=ba=e.
また, 1, 2を満たすものを半群, 1, 2, 3を満たすものをモノイドという.
…と言われてもほとんどの人にとっては何がなにやらわからないと思うので、以下で詳細に解説する。
演算
Gを集合とする。Gの元の対 (a,b) に対し、あるGの元 f(a,b) を返す対応 f を、G における二項演算(binary operation)、または単に演算という。
例えばG=N(自然数全体の集合)のとき、足し算 f(a,b)=a+b や掛け算 f(a,b)=ab はNにおける演算である。具体例で言うと自然数2と自然数3を足し算すると自然数5になり、掛け算すると自然数6になる。
しかし、引き算 f(a,b)=a-b はNにおける演算ではない。例えば a=1, b=2に対し、f(a,b)=a-b=1-2=-1 ∉ N となり自然数ではなくなるからである。範囲を自然数から整数に拡大すると引き算も演算になる。
つまり、Gの元の対 (a,b) に対して、f(a,b) は常にGの元になっていなければならない。このことを演算がGに対して「閉じている」という。足し算(加法)と掛け算(乗法)は自然数の範囲で閉じているが引き算は閉じていない。
なおこれ以降、Gは演算を持つものとする。f(a,b) のことを、単に ab または a×b と書く。一般の群においては必ずしも ab=ba とはならないことに注意する必要がある。
結合法則と半群
任意のa, b, c∈Gに対し、(ab)c=a(bc) が成り立つとき、演算は結合法則を満たすといい、Gは半群(semigroup)であるという。このとき(ab)cやa(bc)を、単にabcとかく。
例と反例
- N, Z, Q, R, C は加法と乗法それぞれに関して半群である。
- 3次元ベクトルの外積はG×G→Gを満たすが(ab)c≠a(bc)なので半群にはならない。(こういうのを亜群とかマグマとか言うらしい)
単位元とモノイド
e∈Gが、任意のa∈Gに対し、ae=ea=a を満たすとき、eをGの単位元(identity element)という。
Gの単位元は存在すればただ一つである。
また、任意のa∈Gに対しae=aを満たす元eを右単位元と呼び、任意のa∈Gに対しe'a=aを満たす元e'を左単位元と呼ぶ。左単位元と右単位元は両方が存在するならば必ず一致し(e=e'e=e'より)、その結果単位元になる。
単位元を持つ半群をモノイド(monoid)という。半群に上記の性質を持つ元eを導入することでモノイドにすることができる。
例と反例
- Nは加法に関しては単位元を持たないためモノイドではない。一方、Nに0を加えた集合N0は0を単位元に持つのでモノイドになる。N(およびN0)は乗法に関して1という単位元を持つからモノイドである。
また、Z, Q, R, Cは加法と乗法それぞれに関してモノイドである。単位元は加法は0、乗法は1。 - 3次元ベクトルの外積は必ずab=-baを満たすので、ae=eaならばae=0、この時e=a(の定数倍)となる。したがって外積の単位元は存在しない。
逆元と群
eをGの単位元とする。a, b∈Gが ab=ba=e を満たすとき、bをaの逆元(inverse)という。
このとき、aはbの逆元である。こちらも右逆元と左逆元があるが両方が存在すれば両者は一致する。
aの逆元は存在すればただ一つである。これを a-1 と表す。単位元のように自分自身が逆元となることもある。
Gがモノイドで、Gの全ての元に対し逆元が存在するとき、Gを群という。
例と反例
- Z, Q, R, Cは加法に関して群である。
- Q*, R*, C*(Q, R, Cから0を除いた集合)は乗法に関して群である。
- 整数を例にとると、a=3の場合、3+b=0となる元bは-3であるが、3×b=1となる元bは1/3である。乗法は整数の範囲に3の逆元が存在しない。
- Eを単位元とすると、無限次元正方行列にはAB=EだがBA≠Eとなる元A,Bが存在する。つまり一般の群に対しては右逆元と左逆元を区別する必要がある。
可換群
a, b∈G が ab=ba、つまり交換法則を満たす場合にGをアーベル群(abelian group)または可換群(commutative group)という。可換群でない群を非可換群(non-abelian group)という。
ちなみにアーベル(Abel)はノルウェイの数学者で人名であるから本来なら Abelian group と書かれるべきだが、あまりに頻繁に登場するため一般名詞化され abelian group と小文字で書かれる。
例
- Z, Q, R, Cは加法に、Q*, R*, C*は乗法に関して可換群である。
- 一方で、あみだくじの群、n次一般線形群、連続関数の合成を演算とした群、有界な線形演算子全体の集合の成す群、点群や結晶空間群、などは一般に非可換群である。
群の例
群の元の個数(濃度)が有限のものを有限群(finite group)、無限のものを無限群(infinite group)、という。
有限群の例
- 1元のみからなる集合{e}に対し、e・e=eの演算を導入すると群になる。これは自明(trivial)な群と呼ばれる。全ての群は必ず自明な群を部分群に持つが、これ自体に何か面白い性質があるわけではない。
- 3つの元 {0,1,2} からなる集合に, 和 + を
0+0=0, 0+1=1, 0+2=2,
1+0=1, 1+1=2, 1+2=0,
2+0=2, 2+1=0, 2+2=1
で定める(つまり、通常の足し算を行った後、3で割った余りを考える)と、群を成す。これを3次巡回群(cyclic group)といい、Z/3Z と書く。同様に、足し算を行ってからnで割った余りを考えることで n次巡回群 Z/nZ = {0, 1, 2, ..., n-1} を定義することが出来る。 - n本の縦棒からなるあみだくじの全体の集合 Amidan を考える。ただし全ての行き先が同じであるようなあみだくじは同じものとみなす。2つのあみだくじa, b ∈ Amidan に対して積 ab を、両者をつなげて(aが上、bが下)出来るあみだくじと定める。このとき、Amidan は群をなす。単位元は何も横線が書かれていないあみだくじ、a ∈ Amidan の逆元 a-1 は a の(水平方向を軸とした)鏡映反転である。
- n個の元からなる集合 {1,2,...,n} を考える。{1,2,...,n} から自分自身への全単射(=1:1写像)全体の集合をn次対称群(symmetric group, Wikipediaリンク
)といい、Sn と表す。つまり、Sn = {σ| σ:{1,...,n}→{1,...,n}: 全単射}。Sn は写像の合成を演算として群を成す。単位元は恒等写像 id(x)=x, 逆元は逆写像で与えられる。Sn は有限群で、n!個の元からなる。
先述の Amidan は、対称群 Sn に同型(同じ群の構造を持つこと。後述。)である。
この他にも、有限群は整数の余りを求める操作や素因数分解と深い関係を持つものが多い。具体例は「オイラーのφ関数」の記事を参照。
無限群の例
- Z, Q, R, Cは加法に関して群である(aの逆元は-a)。
- Q*, R*, C*は乗法に関して群である(aの逆元は1/a)。
- 複素数係数のn次正方行列全体を M(n, C) と表すとき、M(n, C) は行列の加法に関して群である。
- 正則な(=逆行列を持つ)複素数係数のn次正方行列全体を GL(n, C) と表すとき、GL(n,C) は行列の乗法に関して群である。GL(n,C) を n次一般線形群(general linear group)という。
- あみだくじの横棒の代わりに上下のあるひもの交差を考えてやることで、n本のひもからなるn次組みひも群(braid group, Wikipediaリンク
)Bn を定義することが出来る。例えば三つ編みはB3の元になる。演算はあみだくじのときと同じように、2つの組みひもをつなげることで定義される。
こちらは(n≧2のとき)対称群とは異なり無限群になる。なぜなら、くじの行き先が有限通りで行き先だけに興味があるあみだくじと異なり、組みひもは例えば2本のひもを同じ方向に100回でも10000回でも好きなだけ捻ることができ、異なる回数だけ捻った組みひも達を全て異なる組みひもと考えるからである。
群でない例
- Nは加法と乗法どちらに関しても群ではない。加法に関しては全ての元が逆元を持たず、乗法に関しては1以外は逆元を持たないためである。
- Z, Q, R, Cは乗法に関しては0が逆元を持たないため群ではない。
群の論理的性質
部分群
群Gの部分集合HがGの部分群(subgroup)であるとは、HがGの演算により再び群の構造を持つことをいう。
HがGの部分群であることは、Hが空集合でなく、演算と逆元を取る操作に対して閉じていること、つまり
- a,b ∈ H ならば ab ∈ H
- a ∈ H ならば a-1 ∈ H
であることと同値である。
例
- Zを加法に関する群だと思ったとき、3の倍数全体の集合3Zは再び加法に関して群となっているのでZの部分群である。
- 対角成分より左下の成分が全て0である正方行列を上三角行列という。正則な上三角行列全体の集合は一般線型群の部分群となる。同様に下三角行列についても考えることができる。
正規部分群
部分群の中で特に重要なものの一つが正規部分群である。
群Gの部分群NがGの正規部分群(normal subgroup)であるとは、任意のg∈G, n∈N に対して g-1ng∈N が成り立つことをいう。
例えばG自身、および{e}は正規部分群となる。この2つを自明な正規部分群、それ以外を真の正規部分群と言い、自明なもの以外に正規部分群が存在しない群を単純群(simple group)という。
定義から、可換群はすべての部分群が正規部分群となる。そのため、正規部分群が重要な意味を持つのは非可換群である。
例
- 行列式が1であるような複素数係数のn次正方行列全体を SL(n, C) と表すとき、SL(n, C) は GL(n,C) の正規部分群である。実際, X∈GL(n,C), Y∈SL(n,C) とすると、det(X-1YX)=1 より、X-1YX は SL(n,C) の元となる。SL(n, C)を n次特殊線形群(special linear group)という。
- 組みひも群において、各ひもの上端と下端の位置が同じ組みひもを純組みひも(pure braid)という。n本のひもからなる純組みひもの全体の集合をn次純組みひも群といい、Pnで表す。純組みひも群Pnは組みひも群Bnの正規部分群である。
剰余類と商群
Hを部分群とし、aH={ah|a∈G、h∈H}と書くことにする。これは全てのh∈Hに対しあるaを作用させた物の集合である。
aHはGの部分集合になる(eHを除いてaHは群にならない)。代表となる元a1,a2,…,ai,…,anを適当に取るとGのすべての元はa1H,a2H,…,aiH,…,anHのいずれかの集合に含まれ、ai≠ajならばaiH∩ajH=Φである(複数の集合にまたがって含まれるGの元はない)。
x,y∈Gに関して、x-1y∈H → x~yを同値関係(おなじ性質を持つ元は全て同一の元と見なす。合同の記事を参照。)とすると、代表元をaiとしてx,y∈aiHとなる。aiH=[ai]とも書く。各[ai]を「Hを法とするGの剰余類」と呼び、剰余類全体の集合{[a1],[a2],…,[ai],…,[an]}をG/Hと書く。
以上より、群Gを部分群Hにより分解する事ができ、G=ΣanHと書くことができる。これを剰余類分解という。
Hが正規部分群の場合、集合{[a1],[a2],…,[ai],…,[an]}=G/Hに対して演算を [ai][aj]=[aiaj]と定義すると部分群になる。なぜなら、定義からaH=Haであり、[a][b]=a(Hb)H=a(bH)H=abH=[ab]∈G/Hであるため。単位元はeH=[e]である。
G/Hの成す群を商群または剰余群という。Gが有限の場合、Nの元の数はGの元の約数となっており、剰余群の名称の由来ともなっている。
特に断っていはいなかったが、以上はHに対してaを左から作用させているため左剰余類であり、Haで分類すると右剰余類と呼んでG\Hという紛らわしい記法で表現する。Hが正規部分群の場合は左右の区別がない。
例
- Zは加法に関し、3の倍数からなる部分群3Zを法として商群 Z/3Z={[0]、[1]、[2]}を定義できる。これは有限群の例の1番と同じ構造を持つ群である。演算は[a]+[b]=[a+b]、単位元は[0]。
乗法に関して3Zは正規部分群ではないので、剰余から乗法に関する群を構成する場合は工夫が必要。方法はオイラーのφ関数を参照。
準同型写像
G, G'を群とする。GからG'への写像 f:G→G' が群の演算の構造を保存するとき、群準同型写像(group homomorphism)、あるいは単に準同型写像という。つまり、Gの任意の元a, b に対して
f(ab)=f(a)f(b)
が成り立つことである。
さらに、準同型写像fが全単射であるとき、fは同型写像という。
Gの単位元および逆元は準同型写像によってG'の単位元および逆元に写される。つまり、f(e)=e'、f(a-1)=f(a)-1が成り立つ。ただしGの単位元をe, G'の単位元をe'と表記した。
例
- f: Z→Z/3Z, f(a) = (aを3で割った余り) は準同型写像である。
- f: Z→Z, f(a) = 2a は準同型写像である。
- Bnを組みひも群、Snを対称群とする。f: Bn→Sn を、組みひもbに対して(f(b))(i) = (上端がi番目のひもの下端の位置) (i=1,2,...,n)で定める。このとき f は準同型写像である。
核と像
f:G→G'を準同型写像とする。先程、Gの単位元eはfによりG'の単位元e'に写されると述べたが、一般にはe'に写される元は一つとは限らない。e'に写されるGの元の集合をfの核(kernel)と呼び、Ker(f)と書く。
つまり、Ker(f) = {a∈G | f(a)=e'} である。Ker(f)はGの正規部分群である。
Gの元aを用いてf(a)の形で表せるG'の元の全体をfの像(image)と呼び、Im(f)と書く。
つまり、Im(f)={f(a) | a∈G} である。Im(f)はG'の部分群である。
例
- 3次元空間の点(x,y,z)を二次元平面(x,y)の点に写す写像Pを考えると、Ker(P)はz軸、Im(P)は(x,y)。
- f:Z → Z/3Z, f(a)=(aを3で割った余り) のとき、Ker(f)=3Z、Im(f)=Z/3Z。
- fを先述の組みひも群Bnから対称群Snへの準同型写像とする。このとき、Ker(f)は純組みひも群Pnに一致する。
同型写像
準同型写像の内、全単射(1対1対応)なものを特に同型写像(isomorphism)と呼ぶ。
群GとG'の間に同型写像 f:G→G'が存在するとき, GとG'は同型である(isomorphic)といい、G ≅ G'と表す。
同型であるということは、一見異なるような群であっても根本となる構造が全く同じであるということである。
これを応用すると、例えば整数の構造を持つ集合は本質的に一つしかない(同型写像を通して一致させることができる)という事が言える。
例
- f:GL(n,C) → C×, f(A)=det(A) とする(ただしC×はCから0を除いた集合)。行列式の性質det(AB)=det(A)det(B)によりfは準同型写像である。また、C×の単位元は1だから、Ker(f)=SL(n,C)である。
- f:R→R+, f(x)=exp(x)とする(ただしR+は正の実数全体の集合)。指数法則 exp(x+y)=exp(x)exp(y) より、fは準同型写像。
- g:R+→R, g(x)=log(x)とする。対数法則 log(xy)=log(x)+log(y) より、gは準同型写像。
fとgは互いに逆写像であるから、両者は同型写像である。このことより、R ≅ R+ (ただしRは加法、R+は乗法を演算とした群)がわかる。
準同型に関する定理
準同型定理
G, G'を群、fをGからG'への準同型写像とするとき、G/Ker(f) ≅ Im(f)。
つまり、GからG'への準同型fが存在するとき、Gをfの核で割ることでIm(f)と同型にすることができる。これは次の第一同型定理の特殊な場合である。
例
- GL(n,C)/SL(n,C) ≅ C*。GL(n,C)からC*への準同型写像 f として f(X)=det(X) をとるとよい。これはGL(n,C)をSL(n,C)で剰余類分解すると複素数と同型になる、逆に言うとSL(n,C)の複素数倍がGL(n,C)である、という事。
- Bn/Pn ≅ Sn (Bnは組みひも群、Snは対称群、Pnは純組みひも群)。
第一同型定理
G, G'を群、fをGからG'への準同型写像とする。N'をG'の正規部分群とする。このとき、f-1(N')はGの正規部分群であって、G/N≅G'/N'。
つまり、正規部分群の逆像は正規部分群であり、それぞれの正規部分群による剰余群は同型になる。
第二同型定理
Gを群とする。HをGの部分群、NをGの正規部分群とする。このとき、H/(H∩N)≅HN/N。
Gの正規部分群Nの正規部分群N'はGの正規部分群となるとは限らない。しかし、Gの部分群Hと正規部分群Nに対し、① HN=NH、かつHNは部分群、② H∩NはHの正規部分群、の2つが成り立つ。この2つの部分群に対する定理である。
関連項目
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