エジプト語とは、アフロ・アジア語族に属する言語で、コプト語の直接の先祖にあたる死語である。
古代エジプト語と呼ばれることもある。
おおよそ古期エジプト語、中期エジプト語、後期エジプト語、コプト語の段階を追って変化していった。この記事では一番基本的な中期エジプト語について取り扱う。
中期エジプト語とはヒエログリフなどでおなじみのエジプト語のうち、研究などでは最も基礎となるものである。それはこれが古典時代の言語として新王国時代などで復古的に用いられたのみならず、古期エジプト語とはあまり変化がないこと、公的な碑文ではもはやコプト語に移りつつあるギリシャやローマの時代まで用いられ続けたこと、といった点も理由となっている。
シュメール語などのオリエントのもろもろの言語同様、こちらもヒエログリフ(碑文や宗教書等で用いられた絵画的書体)やヒエラティック(公私諸文書に用いられた筆記用書体)、デモティック(ヒエラティックを崩した口語用書体)などの文字が使われているが、共通して言えるのは表音文字と表意文字のちゃんぽんということである。
主に固有名詞や外来語の表記に用いられた表音文字は以下のとおりである。
転写 | ヒエログリフ | 転写 | ヒエログリフ | 転写 | ヒエログリフ |
---|---|---|---|---|---|
Ȝ | 𓄿 | ỉ | 𓇋 | y | 𓇌 |
y / j | 𓏭 | ‘ | 𓂝 | w | 𓅱 / 𓏲 |
b | 𓃀 | p | 𓊪 | f | 𓆑 |
m | 𓅓 | n | 𓈖 | r | 𓂋 |
h | 𓉔 | ḥ | 𓎛 | ḫ | 𓐍 |
ẖ | 𓄡 | z→s | 𓊃 | s | 𓋴 |
š | 𓈙 | ḳ / q | 𓈎 | k | 𓎡 |
g | 𓎼 | t | 𓏏 | ṯ | 𓍿 |
d | 𓂧 | ḏ | 𓆓 |
ユニコードにも一応対応しているが、冗長になりそうなのと対応の問題で以下はラテン文字の転写で行う。
セム語同様基本子音しか記述されていないので、エジプト学等で取り扱う場合は便宜的に、
といったアラビア語の外来語表記に倣ったような読み方がなされる事が多いが、統一的な見解はなく、まあ大体そんなもんくらいでいいんじゃないのかなみたいなノリでOK。
しかしながら以上のような読み方はあくまでも方便であり、現実のエジプト語の発音を示している訳ではないので、この方法を以て巷間で見かける「○○はエジプト語では△△という」といった説明は基本的に誤りと云ってよい。
とはいえ、アッカド語など母音表記のある同時代の外国語の中にあるエジプト語の痕跡などから実際の発音を復元する試みは以前より数多くなされているので、新資料の発見や研究の進展に乞うご期待である。
y、w、b、p、f、m、n、r、h、ḥ、ḫ、ẖ、s、š、ḳ、k、g、t、ṯ、d、ḏですべてである。一部に特殊文字が混ざっているのはご愛敬。
名詞 | 単数 | 複数 | 双数 |
---|---|---|---|
男性 | - | -w | -wy |
女性 | -t | -wt | -ty |
人称は以下の接尾代名詞で表す.これは動詞を作る時も同じである。
接尾代名詞 | 単数 | 複数 | 双数 |
---|---|---|---|
1人称 | .ỉ | .n | .ny |
2人称男性 | .k | .ṯn | .ṯny |
2人称女性 | .ṯ | ||
3人称男性 | .f | .sn | .sny |
3人称女性 | .s |
目的語などは以下の従属代名詞を用いる。
接尾代名詞 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | wỉ | n |
2人称男性 | ṯw | ṯn |
2人称女性 | ṯn | |
3人称男性 | sw | sn |
3人称女性 | sy / st |
接尾代名詞 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | ỉnk | ỉnn |
2人称男性 | ntk | ntṯn |
2人称女性 | ntṯ | |
3人称男性 | ntf | ntsn |
3人称女性 | nts |
文章は文頭にỉwが置かれたものが主文、そうじゃない場合が従属文である。
動詞はおおよそ3子音動詞が優勢だが、一応10数種類は存在している。
不定詞は動詞に何の変化もないものと、語尾に-tがつくものに分かれる。
エジプト語の動詞の活用は、慣例的にsḏm「聞く」を例として使う。また活用語はアフロ・アジア語族の基本となる単数3人称(.f)を軸にする。そのため、もっとも単純な動詞の形をsḏm.f形と呼ぶ。
現在形の活用は上記の通り、動詞に人称語尾をつけるだけである。
現在形活用 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | sḏm.ỉ | sḏm.n |
2人称男性 | sḏm.k | sḏm.ṯn |
2人称女性 | sḏm.ṯ | |
3人称男性 | sḏm.f | sḏm.sn |
3人称女性 | sḏm.s |
受動態にするには.twを挿入して、sḏm.tw.fを活用させる。
現在形活用 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | sḏm.tw.ỉ | sḏm.tw.n |
2人称男性 | sḏm.tw.k | sḏm.tw.ṯn |
2人称女性 | sḏm.tw.ṯ | |
3人称男性 | sḏm.tw.f | sḏm.tw.sn |
3人称女性 | sḏm.tw.s |
過去形はどちらの態も.nを挿入してはsḏm.n.fを活用させる。
現在形活用 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | sḏm.n.ỉ | sḏm.n.n |
2人称男性 | sḏm.n.k | sḏm.n.ṯn |
2人称女性 | sḏm.n.ṯ | |
3人称男性 | sḏm.n.f | sḏm.n.sn |
3人称女性 | sḏm.n.s |
未来形はどちらの態もwを挿入してはsḏmw.fを活用させる(中期エジプト語の段階ではほとんどすたれており、仮定法sḏm.fが代わっていることが多い)。
現在形活用 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | sḏmw.ỉ | sḏmw.n |
2人称男性 | sḏmw.k | sḏmw.ṯn |
2人称女性 | sḏmw.ṯ | |
3人称男性 | sḏmw.f | sḏmw.sn |
3人称女性 | sḏmw.s |
エジプト語の重要な概念として動詞は「動詞」とその「名詞化」に分けられる点がある。これに「法」、「時制」という分類が行われるのである。
ほとんどの動詞はsḏm.f形、sḏm.n.f形以上の変化を示さないが、第3子音弱動詞、第2子音畳音動詞、いくつかの不規則動詞は若干の変化を示す。
名詞化 | 第3子音弱動詞 | 第2子音畳音動詞 |
---|---|---|
直説法過去 sḏm.n.f | ỉr.n.f | ḳbb.n.f |
直説法現在 sḏm.f | ỉrr.f | ḳbb.f |
直説法未来 sḏmw.f | ỉr.f/ỉry.f/ỉrw.f | ḳbb.f |
仮定法 sḏm.f | ỉr.f/ỉry.f | ḳb.f |
名詞化 | rdỉ | mȜȜ | ỉnỉ | wnn | ỉw | msḏỉ |
---|---|---|---|---|---|---|
直説法過去 sḏm.n.f | rdỉ.n.f | mȜ.n.f | ỉn.n.f/ỉn.f | wn.n.f/wn.f | ỉw.n.f/ỉỉ.n.f | msḏ.n.f |
直説法現在 sḏm.f | dd.f | mȜȜ.f/mȜ.f | ỉnn.f | wnn.f | ỉw.f/ỉww.f | msḏḏ.f |
直説法未来 sḏmw.f | rdỉ.f | mȜȜ.f | ỉn.f | wnn.f | ỉw.f | msḏ.f |
仮定法 sḏm.f | dỉ.f | mȜ.f/mȜn.f | ỉnt.f | wn.f | ỉwt.f | msḏ.f |
動詞 | 第3子音弱動詞 | 第2子音畳音動詞 |
---|---|---|
直説法過去 sḏm.n.f | ỉr.n.f | ḳbb.n.f |
直説法現在 sḏm.f | ỉr.f | ḳbb.f |
直説法未来 sḏmw.f | ỉr.f/ỉry.f/ỉrw.f | ḳbb.f |
仮定法 sḏm.f | ỉr.f/ỉry.f | ḳb.f |
古い直説法 sḏm.f | ỉr.f | ḳb.f/ḳbb.f |
動詞 | rdỉ | mȜȜ | ỉnỉ | wnn | ỉw | msḏỉ |
---|---|---|---|---|---|---|
直説法過去 sḏm.n.f | dỉ.n.f | mȜ.n.f | ỉn.n.f/ỉn.f | wn.n.f/wn.f | 状態形を使う | msḏ.n.f |
直説法現在 sḏm.f | dỉ.f | mȜȜ.f | ỉn.f | wn.f | ỉw.f/ỉy.f | msḏ.f |
直説法未来 sḏmw.f | rdỉ.f | mȜȜ.f | ỉn.f | wnn.f | ỉw.f | msḏ.f |
仮定法 sḏm.f | dỉ.f | mȜ.f/mȜn.f | ỉnt.f | wn.f | ỉwt.f | msḏ.f |
古い直説法 sḏm.f | rdỉ.f | mȜ.f/mȜȜ.f | ỉn.f | wn.f | ỉw.f/ỉy.f | msḏ.f |
名詞化された動詞と動詞そのものの使い分けは以下のようになっている。
名詞化された動詞
直説法現在時制の動詞の用法
直説法未来時制の動詞の用法
仮定法の用法
直説法過去時制の動詞の用法
エジプト語特有の表現として、以下の状態形がある。
状態形 | 単数 | 複数 |
---|---|---|
1人称 | sḏm.kwỉ | sḏm.wyn |
2人称 | sḏm.tỉ | sḏm.twỉny |
3人称男性 | sḏm(w) | |
3人称女性 | sḏm.tỉ |
基本的には~の状態になったことを表す。
掲示板
2 ななしのよっしん
2018/09/08(土) 20:11:30 ID: BZlC0OqInM
やっぱ母音表記はなかったのか
3 ななしのよっしん
2019/11/18(月) 09:47:13 ID: BZlC0OqInM
それにしてもhieroglyph鳥類多いですねえ
やはり彼等avianでしたか?
しかし蛇と鳥類は対立する存在ですか、でもエジプト神話では彼等あまり対立していないようですね…
特にエジプトでは蛇の存在大きいですか、漢字というのはそれに比べて種々の動物象っていますからバランス取れているのでしょう
それは文学的表現力の差になって後世出てきましたか
4 ななしのよっしん
2021/01/20(水) 21:35:48 ID: 3zk0UtiwzB
>>3
>それにしてもhieroglyph鳥類多いですねえ
表音文字内でたまたま偏りがあるだけで、
表意文字も入れればいろんな動物やら怪物やら居るんよ。
>それは文学的表現力の差になって後世出てきましたか
何が言いたいのかさっぱりなんだぜ。
急上昇ワード改
最終更新:2024/12/18(水) 13:00
最終更新:2024/12/18(水) 13:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。