DRS(英:Drag Reduction System)とは、ダウンフォースを発生させる代わりに空気抵抗となるウィングを直線区間で可動させることで空気抵抗を減少させ、ストレートスピードを向上させることを狙ったシステムである。
1990年代以降、特にエンジンが2.4L V8に縮小された2006年以降のF1マシンは空力性能に非常に依存した設計となり、モンツァのような超高速サーキットでは5秒後方(300km/h走行時ではおよそ420m)を走っていても前のマシンが起こした乱流の影響を受けると言われている。
そこで直線区間でアドバンテージを得るためにマクラーレンが考案されたのがFダクトである。
原理としては、コックピット前方のモノコック上面にダクトを設けて走行風を取り込み、ドライバーの横を通過しエンジンカバー上端からリアウィング中央部へつながる空気の通り道を設置。
そしてドライバーの膝の横や手の横に穴を開けておき、通常時はここから空気が漏れるためリアウィングは通常通り作動するが、この穴を膝や手で塞ぐとリアウィングに速い気流が吹き出し、意図的にウィングを機能不全に陥らせる(ストールさせる)ことで空気抵抗の削減を狙ったものである。
これにより一説ではトップスピードが約10km/h伸びるという大きな効果があったため各チームも模倣したが、一方で300km/hを超える超高速域でドライバーが片手運転を強いられるなど安全上の懸念があったため、2010年限りで禁止されることとなった。
その代わりに導入されたのが、リアウィングのフラップを可動させることで空気抵抗を減らすDRSである。
現代のF1のリアウィングフラップは2枚構造になっている。
これは大きなダウンフォースを得るために単純にウィングに大きな迎角を付けただけではウィングの周りの気流が容易に剥離し失速してしまうため、フラップを2分割しその間のスリットから気流を抜くことで、空気の流れが剥離しないことを狙ったものである。
この構造を利用し、上側のフラップをソレノイドで引き上げスリット部分を大きく開くことで空気抵抗を減らすシステムがDRSである。
ウィングのフラップ自体が大きく動くためFダクトに比べて効果も大きく、ダウンフォース量が要求されかつ長いストレートがあるカタロニアサーキットなどでは、DRSの使用によって実に30km/h以上のアドバンテージが得られることもある。
そのためDRSの使用条件:前を走るマシンとのタイム差が1秒以内に留まり続けることが作戦上非常に重要な意味を持つことがある。
前述の通りF1マシンが空力性能に依存した設計となっているため、前のマシンに接近しすぎるとダウンフォースを得られなくなりコントロール不能に陥る可能性があり、オーバーテイク(追い越し)が大変難しい。
そのため無理にコース上でのオーバーテイクではなくピット作戦で順位を入れ替えることが常套手段となっていたが、モータースポーツファンからは「接近したバトルが見られずつまらない」「現時点での順位と実質的な順位が異なることが多くわかりづらい」といった批判が寄せられていた。
こうした背景もあってDRSが導入された結果、コース上でのオーバーテイク回数は飛躍的に増加した。
その一方で以前は前のマシンに追いついてからオーバーテイクに至るまで前後のドライバーの駆け引きが展開されていたが、DRSの導入によってあっさり決着がついてしまうことが多くなり、実質的にバトルの質が大きく下がってしまったという批判もある。
また前述の通りDRSはリアウィングを意図的に機能しない状態にすることによって動作するものだが、機構部の故障によりフラップが開いたままになってしまうことがあり、リアウィングからのダウンフォースが得られなくなり重大な事故につながる懸念がある。
実際に2018年のイタリアGPではザウバーのマーカス・エリクソンのマシンのDRSがヴァリアンテ・レティフィーロ(第1シケイン)の入口で開いたまま戻らなくなりブレーキング時にスピン、320km/hで左横の壁に激突、横転し、コース上を150mに渡って4回転するという大事故が起きている。
DTM(ドイツツーリングカー選手権)でもDRSが導入されており、こちらはフラップではなくウィング全体を根本から15度倒すことで前面投影面積を減らし空気抵抗を減らす仕組みである。
P2P(プッシュトゥパス:ボタンを押している間一時的に燃料の流量制限を緩和しパワーアップする)と合わせてオーバーテイク増加のために導入され、前走車から2秒以内のタイム差に居る時、1周につき1度コース上のどこでも使用することができる。
SUPER GTのGT500クラスはDTMと共通の車両規格であるClass 1規定を導入しているが、2020年時点でDRSは導入されていない。
また2021年度からDTMがClass 1規定を取りやめGT3規定に移行するため、今後もDRSが導入されるかは不透明である。
スバル・オブ・アメリカと英国プロドライブ社により製作されマン島タイムアタックに参戦しているスバル・WRX STI Type RA NBR SpecialにもDRSが搭載されており、長い直線区間とツイスティな区間が混在する超高速コースでのタイムアップに大きく貢献している。
本車両は2017年10月に発売されたテレビゲーム、グランツーリスモSPORTにも収録されており、ドライバー自身では操作できないがDRSも動作する。
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最終更新:2025/02/14(金) 01:00
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