ガーデーヴィとは (ガーデーヴィとは) [単語記事]

ガーデーヴィとは、「アルスラーン戦記」の登場人物である。

声の担当は鈴木勝美（カセットブック） / 堀之紀（劇場アニメ） / 千葉進歩（TVアニメ）。

概要

「アル戦の心のオアシス」ことラジェンドラの兄であり、『落日悲歌』におけるアルスラーン陣営の敵役として圧倒的な小物感を醸し出している。弟ラジェンドラが「小物界の大物」であるとするならば、彼は「小物中の小物」であろう。

経歴

シンドゥラ国国王^{（ラージャ）}カリカーラ二世の第一王子。シンドゥラ暦 296年（あるいは297年）の生まれ。
貴公子たるに相応しい容姿を持つ美男子で、長子で母親の身分も高かったことから王位継承者と目されて世襲宰相^{（ペーシュワー）}マヘーンドラの娘サリーマを妻とし、また国内の豪族たちからの支持も受けていた。

しかしシンドゥラ暦 321年、父王カリカーラ二世が王太子を冊立せぬまま、齢50すぎにして病に倒れ人事不省に陥ったことがきっかけとなり、彼はひと月年下の異母弟ラジェンドラと相争うこととなる。才幹はともかく血統の正当性ではガーデーヴィに著しく劣るはずのラジェンドラは、反ガーデーヴィ派を糾合すると、すでに半ば摂政のような形で国事を代行していたガーデーヴィの王位継承に実力をもって異議を唱えたのである。

王位をめぐる内乱

こうして始まった国内での対立は、ラジェンドラが歴史的な敵国パルスの国境を侵した挙句、そのパルスの王子アルスラーンと手を組んで国都ウライユールを目指したことで完全な内乱状態に陥った。兵力はラジェンドラ軍とパルスの遠征軍あわせて6万に対し18万と圧倒的に有利ではあったが、ラジェンドラが油断ならぬ人物であること、パルス軍が数以上に精強であることはガーデーヴィも理解しており、ラジェンドラ軍とパルス軍に分かれて行動する敵への対応に苦慮するうちにパルス軍に要衝グジャラート城を落とされてしまう。

ここにいたりガーデーヴィは一挙にグジャラート城を奪回することを決断。シンドゥラ暦 323年2月5日、15万の兵力と500の戦象部隊を率い国都ウライユールを進発した。しかしグジャラートへ進軍する途中、ラジェンドラ軍が後方ウライユールとの間を扼したことで、両軍はチャンディガルの野で対峙することとなる。2月10日のことであった。

ガーデーヴィ軍はパルス軍の抑えに2万を割いて13万、対するラジェンドラ軍は5万。川の多い盆地ゆえ数の有利を活かせなかった緒戦は若干劣勢であったが、戦象部隊を投入すると戦況は逆転、一挙に勝利へと傾いた。だが、この時グジャラート城にいたはずのパルス軍に側面攻撃を受け、さらにパルスの軍師ナルサスの詭計で戦象部隊が壊滅したことから戦況は再逆転。決戦は敗北に終わり、ガーデーヴィもどうにかウライユールに逃げ帰った。

神前決闘

その後、カリカーラ二世が意識を取り戻すと、事態の決着は神前決闘^{（アディカラーニャ）}へと持ち越される。パルスの騎士ダリューンを代理人に選んだラジェンドラに対し、ガーデーヴィはダリューンに勝つ切り札として野獣バハードゥルを解き放ち、代理人とした。

だが、ガーデーヴィの予想に反し神前決闘の勝利はダリューンのものとなる。ガーデーヴィは怒り狂って理性を失い、「神々がまちがっている！」と叫ぶと剣を取り、父王の身柄を確保せんとした。その混乱の中で、ガーデーヴィはパルスの万騎長バフマンに投槍で致命傷を与え、さらに制止に入った義父マヘーンドラをも刺殺、腕に矢傷を追いながらも決闘場を逃げ延びる。

こうしてガーデーヴィは王位継承者と目される第一王子から神意と勅命に背く大罪人となったが、逃げた彼をラジェンドラも見つけ出せないまま、国王カリカーラ二世は世を去った。

死

彼は王宮のある塔の内側、梁が入り組んだ部分に身を隠し、妻サリーマの助けで命をつないでいた。だが数日後、そのサリーマの手引きによって、ガーデーヴィはラジェンドラの部下クンタヴァー将軍へと引き渡される。先述のようにサリーマは世襲宰相マヘーンドラの娘でもあり、彼女にとってガーデーヴィは夫である以上に父の仇となったのだ。こうしてガーデーヴィはラジェンドラの手に落ちた。

ガーデーヴィはラジェンドラとアルスラーンの前に引き出され、ひきつった、みじめな笑顔で助命を乞う。無論それは聞き入れられず、シンドゥラの作法に則り、刑死の前に酒宴によって饗されることとなった。進退窮まったガーデーヴィは狂乱してアルスラーンを睨みつけ、割った酒瓶の破片をアルスラーンの喉へと投げつける。しかしアルスラーンは咄嗟に骨つき肉を盾として助かり、一方ガーデーヴィはアルスラーンを護る鷹アズライールの嘴に右眼を突き破られたあげくに無理やり押さえつけられ、簒奪をねらったむほん人として斬首されたのだった。アルスラーンも、「シンドゥラの歴史に干渉した」人間として、目を逸らすことなくその死を見届けた。

能力・人格

逆境に弱く、世間知らずの貴公子ではあったが、同時に貴公子らしく、義父マヘーンドラの献策を手放しに褒め称えるようなところも見せる。また優柔不断ではあったが、グジャラート城奪回を決意した時のように、ひとたび決めてしまってからは狼狽を収めてすぐさま冷水浴で酔いをさまし出撃するといった行動の速い面も併せ持っていた。

また、高慢で王宮や貴族の荘園ばかりを世界と考えがちなところがあり、貴族や豪族からの支持は受けていたものの、民衆からの人気はラジェンドラに比べ著しく低かった。部下に対して思いやりが欠ける点も、彼の人望を落とす理由となってしまっている。とはいえ、マヘーンドラには「無能ではないが、いささか頼りない」と評されており、父王の昏倒後政務を切り回すなど、単なる無能とは言い切れない。

軍事においては政戦に通じた世襲宰相マヘーンドラの補佐によるところが大きかったものの、ガーデーヴィも戦才を持たぬわけではなかった。グジャラート城陥落後、彼は主敵をラジェンドラと考え、軍はパルス軍に向かわせつつも、ラジェンドラが後背に襲いかかるなら逆撃、ウライユールを狙うにしても反転撃滅するという策を基本戦略とした。これは圧倒的な大兵力を動かすにあたっては的を射たものであり、ナルサスにも「彼の決意は正しい」、「敵を圧倒する大軍をそろえた以上、正面から力で敵をうちくだくのが、用兵の常道というもの」と賞賛を受けている。

個人の武芸についても決して惰弱ではなく、槍術については名手であった。神前決闘の際、投槍によってバフマンの「左肩と胸の接続する部分」をみごとに貫き致命傷を与えたことは、彼の持つ技術を示したものといえる。

彼に関してラジェンドラは、顔に深刻なかげりを現して「おれたちは不幸な兄弟だったな。いっそ他人どうしだったら、おたがい、もうすこし仲よくやれたかもしれぬのに」と語っている。実際のところ、二人の争いの原因は人格の好悪というよりも、単にともに王位に野望を持つ王族の兄弟という立場によるものが大きかった。