収得賞金 単語


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シュウトクショウキン

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収得賞金とは、競馬において競走条件(クラス)を区分するための賞金のこと。本項目においてはJRA(日本中央競馬会)のそれについて解説していく。

レースにおいて入着した際に獲得できる本賞金(獲得賞金)とは別の概念なのでややこしいが、収得賞金と本賞金は全く無関係というわけでもないのでさらにややこしい。ニコ百の競馬記事でも混同してることが結構ある。というわけで以下、「本賞金(獲得賞金)」と「収得賞金」の違いから説明していく。

本賞金(獲得賞金)

競走馬はレースに出走し、5着以内に入着すると、着順に応じた賞金を獲得できる。これが「本賞金」である。

この賞金額は基本的にレースのグレードが高いほど高額で(一部例外あり)、割合は1着の賞金を基準として、2着40%、3着25%、4着15%、5着10%となる。
たとえばG1の日本ダービーであれば、1着賞金が2億円なので、2着で8000万円、3着で5000万円、4着で3000万円、5着でも2000万円がもらえる。こうして積み上げた金額に、その他の出走奨励金などを合わせた合計がその馬の「獲得賞金(総賞金)」となる。

レースに勝てなくても5着以内に入れば本賞金は貰えるため、グレードの高いレースでコツコツと掲示板入りを積み重ねた結果、あまり勝てなくてもそこらのG1馬以上の獲得賞金を稼ぐ馬もいる。G1未勝利で6億円を稼いだナイスネイチャ、重賞未勝利で4億円を稼いでいるカレンブーケドールなどが代表的な例で、こういった馬は「馬主孝行」と言われることも。

ちなみに賞金は馬主が総取りするわけではなく、おおよそ馬主80%、調教師10%、騎手5%、厩務員5%の割合で配分される(障害レースの騎手は7%)。

収得賞金

一方、競走馬をその実力に応じたレースに出走させるための区分として設定されているのが競争条件(クラス)であり、それを区分するために設定されているのが「収得賞金」という概念である。この賞金は実際に支払われるわけではない。「賞金」という名前がついていて単位が「万円」なだけの、競走馬に対する評価点と考えればよい。

「収得賞金」と「本賞金」は別の概念であり、競走馬は、それまでに獲得した収得賞金の額に応じて以下のようにクラス分けされる。

収得賞金額 クラス
0円 未勝利
500万円以下 1勝クラス
501万円~1000万円以下 2勝クラス
1001万円~1600万円以下 3勝クラス
1601万円以上 オープン

レースに勝利し、収得賞金を加算していくことでクラスが上がっていき、クラスが上がるとそれ以下のクラスのレースには出走できなくなる。たとえば2勝クラスの馬は、未勝利戦や1勝クラスの条件戦には出走できない。

1勝クラス~3勝クラスに属する馬を俗に「条件馬」と呼び、その属するクラスの条件戦のことを「自己条件」という。属するクラスより上のクラスのレースに挑戦することは「格上挑戦」と呼ばれる。

この収得賞金の獲得条件と獲得額は、以下のように定められている。ちなみに10万円以下の端数は切り捨て。

レース区分 収得賞金に加算する額
新馬戦・未勝利戦 1着 400万円
1勝クラス 1着 500万円
2勝クラス 1着 600万円
3勝クラス 1着 900万円
2歳リステッド競走 1着 800万円
2歳九州産馬限定戦 1着 500万円
2歳その他オープン 1着 600万円
3歳リステッド競走 1着 1200万円
3歳その他オープン 1着 1000万円
3・4歳以上リステッド競走 1着 1400万円
3・4歳以上その他オープン 1着 1200万円
2歳GⅢ・格付けなし重賞 1着 1600万円、2着 600万円
2歳GⅠ・GⅡ 1着・2着とも本賞金の半額
3歳以上重賞 1着・2着とも本賞金の半額

と、見ての通り、重賞以外では1着、重賞でも2着以上にならないと収得賞金を得られない。なので、たとえば未勝利戦で2着になると200万円の本賞金がもらえるが、収得賞金は0円なので1勝クラスに上がることはできない。

そしてレースにおいて、フルゲート(最大出走可能数)以上の馬が出走登録した場合、一部のトライアル競走で優先出走権を獲得した馬を除いて、この収得賞金での足切りが行われる。収得賞金の多い順に上から並べて、足りない馬は容赦なく除外される。当落線上で収得賞金が同額で並んだ場合は抽選となる。

そのため、特に3歳のクラシック競走では、仕上がりの遅かった後の名馬が賞金不足で出走できなかったり、ギリギリで抽選を通って出走できた馬がそのまま勝利したりと、この収得賞金による除外・抽選を巡って悲喜こもごものドラマが繰り広げられる。ニコ百の競走馬の記事でも、クラシック競走前に「賞金を加算できた」とか「賞金加算に失敗した」とか書いてあれば、この収得賞金のことを指している。

オープン馬となればその後は収得賞金をいくら積み上げても出られるレースは変わらないが、もちろんフルゲートになれば収得賞金によって抽選・除外が発生するので、収得賞金を積んでおくに越したことはない。

さらに古馬(4歳以上)のオープン競走(重賞含む)では、単純なそれまでの収得賞金の総額だけでなく、そこに「過去1年間の収得賞金」と「過去2年間のG1レースの収得賞金」が上乗せされた上で計算される(これを「出走馬決定賞金」という)
たとえば収得賞金は2億円だが過去2年間2着以内がない馬Aと、収得賞金は1億円だが過去2年間に有馬記念2着(収得賞金6000万円)がある馬Bであれば、馬Bには6000万円×2が加算され出走馬決定賞金は2億2000万円となり、馬Aを上回ることになる。
なお、古馬オープンでは上位クラスの馬に優先して出走権が与えられる。たとえば過去1年間に未勝利戦・1勝クラス・2勝クラスを勝利している収得賞金1500万円の3勝クラスの馬Cと、過去1年間収得賞金を獲得していない収得賞金1650万円のオープン馬である馬Dであれば、馬Cは出走馬決定賞金の計算上では3000万円となり馬Dを上回るが、出走馬決定賞金順に並べた際にはオープン馬である馬Dの方が上位に置かれる。

ちなみに未勝利馬(収得賞金が0円の馬)は基本的に重賞には出走できないが、一部の2歳重賞や、3歳春G1のトライアル競走には未出走馬・未勝利馬でも出走可能な重賞があり、未勝利で出走して2着になると通算0勝のままで収得賞金を加算することができる。
収得賞金を得れば通算0勝でも定義上では「未勝利馬」ではなくなるため、重賞にも出走可能になり、トライアルであればG1の優先出走権も獲得することができる。なので、たとえば未勝利でG2青葉賞に出走して2着になれば日本ダービーの優先出走権が獲得できるので、ルール上は初勝利が日本ダービーということも可能である。ハリボテエレジーが未勝利でG1に出られるのもあり得ない話ではなかった。
2021年現在、まだ未勝利馬が重賞で2着以内となった例はないが、2021年には函館2歳Sで未勝利のグランデが3着、小倉2歳Sで未勝利のデュガが4着と好走しており、そのうち達成する馬が現れそうである。

実際の例

2021年の優駿牝馬(オークス)を制したユーバーレーベンを例にとって本賞金と収得賞金を計算してみよう。ユーバーレーベンは収得賞金不足で桜花賞を断念したのだが、桜花賞までの戦績は以下の通り。

  • 新馬戦…1着
  • 札幌2歳S(GⅢ)…2着
  • アルテミスS(GⅢ)…9着
  • 阪神JF(GⅠ)…3着
  • フラワーC(GⅢ)…3着

この時点でユーバーレーベンは5戦中4戦で入着を果たしており、新馬戦1着700万円+札幌2歳S2着1200万円+阪神JF3着1600万円+フラワーC3着880万円で、既に本賞金4380万円を稼いでいる計算になる。
これは桜花賞で3着だったファインルージュ(新馬戦2着+未勝利戦1着+フェアリーS1着で4290万円)や5着だったアールドヴィーヴル(新馬戦1着+クイーンC2着で2100万円)より多い。

ところが2着以上になったのが新馬戦と札幌2歳Sだけのため、ユーバーレーベンの収得賞金は新馬戦1着400万円+2歳GⅢ2着600万円=合計1000万円だけであり、G1で3着を取っていてもこの時点では2勝クラスに留まっていた。
一方、ファインルージュは未勝利戦1着400万円+フェアリーS1着1750万円(本賞金3500万円の半額)で収得賞金2150万円のオープン馬。アールドヴィーヴルも新馬戦1着400万円+クイーンC2着700万円(本賞金1400万円の半額)で収得賞金1100万円の3勝クラスとなり、いずれも収得賞金ではユーバーレーベンを上回るのである。G1で3着を取っても加算されない収得賞金というシステムの厳しさが伺える。

結局桜花賞を回避したユーバーレーベンは、続くフローラS(GⅡ)も3着でまたも賞金加算に失敗したが、サトノレイナスのダービー挑戦などもあってどうにか除外を回避してオークス出走を果たし、2勝目をオークスで挙げることとなった。もちろんオークス1着は本賞金1億1000万円なので、ユーバーレーベンは収得賞金5500万円を獲得し、無事にオープン馬となっている。

地方・海外レースに出た場合

JRAに所属する競走馬が地方および海外のレースに出走した場合の収得賞金については、以下のように定められている。

本賞金 収得賞金に加算する額
1着:1200万円以上 本賞金の半額
2着:480万円以上 本賞金の半額
1着:400万円以上1200万円未満 一律400万円
2着:160万円以上480万円未満 一律160万円
1着:10万円以上400万円未満 そのままの額
2着:160万円未満 そのままの額
1着:10万円未満 一律10万円

もちろんJRAのレースと同じく、2着で収得賞金が加算されるのは重賞のみである。ただし、地方から中央に転厩してきた馬の場合のみ、地方登録時代に(JRAのレースおよびダートグレード競走以外で)2着の本賞金が100万円以上のレースに関しては2着でも上記の基準で加算される。

また、地方の重賞以外の指定交流競走にJRA所属馬が出走した場合、上記の表の規定にかかわらず、JRAにおける区分に応じて1着に未勝利400万円、1勝クラス500万円、2勝クラス600万円、3勝クラス900万円、オープン1000万円が加算される。もっとも重賞以外の指定交流競走は、JRAの区分では2勝クラス相当までしか存在しないが。
たとえば岩手競馬の東京カップけやき賞は1着の本賞金は250万円だが、JRAの区分では3歳以上2勝クラスに相当するため、中央所属馬が勝利すると収得賞金に600万円が加算される。

海外競馬の例は、たとえば2016年のニエル賞(フランスG2)を勝利したマカヒキの場合、ニエル賞の1着賞金は74100ユーロで、当時の為替レートは1ユーロ115.26円なので、賞金は日本円で約854万円。上記の表のうち400万円以上1200万円未満の規定が適用され、マカヒキの収得賞金には400万円が加算された。

障害競走の場合

障害競走の場合はクラスが「未勝利」と「オープン」の2種類しかない(1999年以降)ため、1勝でもすればオープン扱いとなる。障害競走の収得賞金は以下の通り。

レース区分 収得賞金に加算する額
未勝利 1着 400万円
オープン一般 1着 600万円
オープン特別 1着 750万円
重賞 1着・2着とも本賞金の半額

ただし、平地競走と障害競走の収得賞金は合算されない。そのため、平地でたとえ重賞を勝っていても、障害に転向すると収得賞金は0円扱いで未勝利からのスタートである(例:メジロパーマー)。

同様に、障害でどれだけ稼いでいても平地の収得賞金には加算されない(2000年以降)ので、たとえば障害で重賞を13勝しているオジュウチョウサンは、平地では500万下(現:1勝クラス)と1000万下(現:2勝クラス)の2勝しかしていないため、収得賞金は1100万円で3勝クラスの条件馬である。

降級制度(廃止)

2018年まで、JRAの平地競走には4歳の夏競馬の開始時にそれまでの収得賞金を一律半減する降級制度が存在した(障害競走には元々存在しない)。

これは上位クラスに上がったもののそこで頭打ちになってしまた馬への救済措置。たとえば新馬戦と2歳重賞を勝って収得賞金が2000万円となりオープン馬となったものの、その後伸び悩んでそれ以降は収得賞金を上積みできていない馬に対し、収得賞金を半減(→1000万円)して1000万下(現在の2勝クラス)の条件戦に出られるようにしてあげるもの。

経済動物である競走馬は自分の食い扶持も稼げなくなってしまえば引退せざるを得ないわけで、降級制度によって下位のクラスでもう一度賞金を稼ぐチャンスを与え、競走馬に現役を長く続けてもらおうという制度であった。

2019年、下位クラスのレースを減らして上位クラスのレースを増やすなどの目的で、降級制度は廃止となった。これに伴い、それまで「500万下」「1000万下」「1600万下」という収得賞金額で区分されていた条件戦もそれぞれ「1勝クラス」「2勝クラス」「3勝クラス」という現在の表記に変更された。

ちなみに1980年代までは4歳(当時の表記は5歳)時だけでなく5歳(当時の表記は6歳)時にも2回目の降級があり、当時の降級制度は「その馬の収得賞金を減らす」ではなく「クラスの昇級に必要な収得賞金額を増やす」という形であった。そのため、たとえば現在の2勝クラスにあたる900万下ではレース条件に「4歳900万下、5歳1800万下、6歳上2700万下」とか書かれたりしていた。この制度下において、1987年から88年にかけて、ビギンザビギンという馬が同一クラス(900万下)を5勝するという珍記録(?)を達成し[※1]、さすがにこれはおかしいということになったのか、その後賞金体系が見直され、2回目の降級は廃止された。

なお、「クラスの昇級に必要な収得賞金額を増やす」から「その馬の収得賞金を減らす」に仕様が変更されたのは2006年の夏季競馬からである。例えば、2006年の湘南ステークスが「4歳1600万下、5歳以上3200万下」であるのに対し、同年の横津岳特別が「3歳以上500万下」となっている。なお、このため、現在の規定では、2002年以前に生まれた馬については、2006年6月16日(この年の夏季競馬は翌17日から)以前に獲得した収得賞金を一律半減する措置になっている。

[※1]…ビギンザビギンの現役当時の収得賞金は新馬・未勝利戦が300万円、400万下(1勝クラス)が400万円、900万下(2勝クラス)が500万円であった。ビギンザビギンは旧4歳に未勝利戦と400万下を勝利し収得賞金700万円で900万下となったが、その後は勝ちきれず旧5歳夏に400万下(5歳800万下)に降級。旧6歳1月に900万下を格上挑戦で勝利し収得賞金1200万円となって900万下(6歳1800万下)に復帰。しかし旧6歳夏になると2度目の降級で900万下の在籍条件は「6歳上2700万下」になってしまい(それを回避しようとしてか直前の6月に1400万下に格上挑戦しているが3着に敗れている)、その後彼は900万下を3連勝(500万×3)したが収得賞金は2700万円ジャストで同一条件を4勝しても900万下のままだった。結局旧7歳の6月に900万下で5勝目を挙げて1400万下に昇級している。

余談

競走馬の総賞金と収得賞金は、JRA公式サイトの競走馬情報ページで確認することができる。特に収得賞金で運命が大きく変わるクラシックレースの前など、気になる馬の収得賞金が足りているかどうか確認したい人は自分で調べてみよう(競走成績から手計算することもできるが)。

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