概要
ビャンビャン麺は中国は陝西省で食される平打ち麺。小麦粉に水と塩を加えてこねた生地を、2-3cmほどに平たく伸ばし、その後ビャンビャンと叩きつけて成形する。名前の由来は一説にはこの叩きつける際にビャンビャンと音がするからビャンビャン麺なのだとか。
こうして伸ばした麺を真ん中から裂いて、ゆでる。「陝西十大怪」とも呼ばれる陝西省の人たちの独特な食文化として、「ベルトのような」麺ともしばしば言われるのだとか。これに唐辛子と刻んだネギをかけて食べるのが本場の食べ方。地元の人はこの他の具はあまり入れないようだが (これは単に他の具を入れるお金がないからというのもあるらしい) 、現在は中国全土で食べられるようになり、海外でも流行り始めたため肉を入れることもある。
ビャンビャン麺の『ビャン』
ビャンビャン麺は中華料理である以上、当然これは現地では漢字表記されている。その漢字は以下のようなものである。
……そう、この『ビャン』という文字、まさかの総画数が57画もあるのだ。これは基本字形であり、之繞 (しんにょう) が一点之繞、中が穴冠 (あなかんむり)、幺言幺 (変の旧字、『變』のかしらといえばわかるだろうか?) 、長馬長、これを左右は月と刂ではさみ、下に心とおいた字である。
この字『ビャン』は陝西省くらいでしか使われない方言字で、しかもビャンビャン麺を書くときにしか使わないというかなり珍しい文字である。Unicodeにも長らく収録されておらず、当初はUnicode 6.3.0に収録される予定であったが、「ソースがWikipediaしかない文字なんて収録できるか」と言われてしまい一度は頓挫した。しかし西洋の漢字学者が改めて調べた結果、実際に中国で使われていることが証明され、2020年3月のUnicode 13.0に収録された。陝西省周辺ではこの漢字を書くための短い詩が存在している。
逆に言えば、これ以前のPC・スマホ環境では当然、表示も表記もできない。まさか2020年代にもなって、料理名で文字化けで悩まされる時代が来るとは……。なお、Unicode版では繁体字が二点之繞を採用しているため58画となっており、これを使えば『𰻞𰻞麵』と書ける。そして簡体字もしっかり存在しており (『長』と『馬』をそれぞれ『长』と『马』にしたもの) 、これで表記すれば『𰻝𰻝面』となる。簡体字というにはあんまり簡単ではない気がする。
ソフトウェアに加えフォント側の対応も必要で、まず使わないためほとんどのフォントは対応していない。例えばiPhoneの標準フォント「SanFrancisco」はiOS18(2024)から対応した。
なお、北京周辺ではビャン (biang)という音節を示せる文字がなかったため (発音は擬声語として使うことはあった)、『biángbiáng面』とか『饼饼面』、『冰冰面』と表記されていたりする。また異名である『油潑扯麵』と呼ばれることも。これなら一般的なPC・スマホ環境でも書けるので安心か。
もうひとつ言及しておくと、この字は20世紀まで文献に確認されていない。そのため、漢字はかなり最近になって作られたと見られている。もう少し簡単にしておけばいいのに。画数が多すぎるせいもあってか異体字も増えまくっているらしく、一番画数が多いのは穴冠の下に「王」、幺のかわりに「糸」、刂のかわりに「戈」を採用した涇陽県のバージョン (70画)。逆に一番画数が少ないのは通用規範漢字表に基づいて簡化を行ったバージョンで、糸言糸を「亦」のはねをとめに変えたものに置き換え (變→変や戀→恋のように) 、長馬長も长马长に変えた35画のもの。それでも35画あるのだが。
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