無反動砲(recoilless gun,recoilless rifle)とは、砲弾の発射による反動を相殺する機構を備えた砲の一種である。
概要
発射する砲弾と逆方向に同程度の運動量を与え、作用反作用の法則によって砲弾発射の反動を相殺する砲の一種。
通常型の砲が反動を吸収するために備えている頑丈な砲架や復座駐退機構が不要であるため、小型化・軽量化が可能であり、特に対戦車兵器として広く用いられる。
一方で、装薬が燃焼するエネルギーの相当部分が反動の相殺に使われるため、初速が稼ぎにくく、ある意味では効率の悪い仕組みであるとも言える。そのため、運動エネルギーで対象を侵徹する徹甲弾の使用には向かず、もっぱら成形炸薬弾(HEAT)もしくは通常のりゅう弾が用いられる。
また、燃焼ガスを後方に噴出するタイプでは後方に危険域が存在し、屋内・塹壕内などの閉所や斜面を背にしたときなどは射手自身が危険にさらされることもある。この後方爆風は発射時に周囲の埃や砂を巻き上げ、射手の位置を暴露してしまう点でも危険を伴う。ただし後方爆風の問題については、最近のデイビス式カウンターマスを用いるタイプのものではある程度解決されつつあり、屋内などの閉所からでも安全に発射が行えるようになっている。
現在では、対戦車に特化してコストの跳ね上がった対戦車ミサイルに対して、歩兵が携行し対装甲兵器にも使える安価な砲火力として無反動砲が歩兵部隊に配備されるケースがある。
主な形式
- デイビス式
- 砲弾と反対方向にカウンターマスと呼ばれる質量を射出し、その運動量で反動を相殺する形式。
アメリカのデイビス海軍中佐が1910年に考案したもので、その時は2つの砲身を組み合わせ、中央部に弾丸を背中合わせに装填していた。後方にも弾丸が飛ぶという問題点は、後方に弾丸の代わりに同重量の散弾を装填するという形で解決した。ただ、デイビス砲は地上兵器としては魅力が無く、飛行艇の搭載兵器として試されたこともあったが、やがて立ち消えになった。 [1]
その後実現されたデイビス式の無反動砲ではプラスチック片や金属の粉末、食塩水など急激に空気抵抗で速度を失う素材が用いられており、安全性が増している。 - クルップ式
- 1930年のドイツにおいて、クルップ社は大口径ながらも重量の軽い歩兵砲を開発しようとしていたが、ここでデイビスのアイデアが復活した。クルップ社の砲では装薬が燃焼した時に発生するガスを後方に噴射させることでカウンターマスの代わりとする。装薬の量は同じ口径の火砲が同初速で砲弾を撃つ場合に比べて5倍となったが、デイビス式では必須のカウンターマスの装填を省略でき、しかも装薬は在来型の薬莢に収納できた。薬莢の底部はプラスチックの円板になっており、発射時は円板が圧力で噴射口を塞いで一時的に密閉された薬室を形成し砲弾に初速を与える。その後円板は砕け燃えて噴射口から排出され、砲はデイビス式として動作する。 [2]
使用時は後方爆風(バックブラスト)と呼ばれる高温の燃焼ガスが後方に噴出されるため、後方の味方(閉所や斜面においては射手自身さえも)を危険にさらすことがある。 - クロムスキット式
- 薬莢より一回り大きい薬室をもち、薬莢に空いた穴から燃焼ガスが一旦薬室内に拡散してから後方に噴出する、というやや複雑な構造を持った形式。単純なクルップ式に比べて若干燃焼ガスのエネルギーを効率的に使い、砲弾の初速を稼ぎやすいが、構造が複雑なため重量がかさみやすい。設置型の対戦車無反動砲にしばしば見られた形式であるが、大型の対戦車無反動砲自体が対戦車ミサイルに取って代わられつつあり、現代ではあまり見ることはない。
ロケットランチャーと無反動砲
「歩兵の携行する対戦車兵器」という点で、携帯型ロケットランチャーと無反動砲は似通った立場にあり、「HEAT弾を使う」「肩撃ち式が多い」「後方爆風の危険がある」など共通点が多いこともあってしばしば混同される。例えば第二次世界大戦で使用された米軍の著名な「バズーカ」及びそのコピーである独軍の「パンツァーシュレック」はロケットランチャーであって砲ではない。翻ってドイツの「パンツァーファウスト」は無反動砲である。
原則的に言えば無反動砲は砲であって砲弾自体が推進力を持たないのに対し、ロケットランチャーは単なる筒に過ぎず、ロケット弾自体がロケットモーターに点火して推進するという点で区別出来るはずであるが、「無反動砲の砲弾が発射後にロケットモーターに点火して推進する」という若干ややこしい兵器も存在する。
著名なソヴィエトロシア製のRPG-7、陸上自衛隊でも使用されているパンツァーファウスト3などがこの範疇に含まれるが、これは無反動砲としてみた場合には「ロケットモーターによって飛翔速度と射程を稼ぐ」、ロケット弾としてみた場合には「射手から離れたところでロケットに点火して安全性を確保する」というメリットがある。
関連動画
関連項目
脚注
- 2
- 0pt