HEAT弾(HEAT:High Explosive Anti Tank)とは、炸薬の爆発エネルギーを利用したモンロー/ノイマン効果で装甲を侵徹する化学エネルギー弾の一種。日本語では対戦車りゅう弾、成形炸薬弾と呼ばれる。
概要
発祥
1888年、アメリカのモンローは、炸薬に窪みを作って鋼板に当て、後ろから点火すると、鋼板に深い穴が開くことを発表した(モンロー効果)。その後1920年代にはドイツのノイマンが、炸薬に円錐状のくぼみを作った場合に最も深い穴ができることを確かめた(ノイマン効果)。1935年以来スイスのH・モオープトがこれらの効果について系統的に実験を行い、炸薬の円錐状の窪みにぴったり合う薄い金属の内張り(ライナー)を付け、鋼板と炸薬の距離(スタンドオフ)を適当にとった時に穴の深さが最も大きくなることを見出した。モオープトは1938年にスイスで独自に発明した対戦車砲弾を公開実験して売り込みをはかり、これに刺激されてイギリスは独自に研究を始め、またモオープトがフランス、後にアメリカに渡ったことから、成形炸薬のノウハウは主要国に知れ渡ることとなった。[1]
原理
弾頭の先端が装甲に衝突すると、信管が作動して弾底より炸薬が起爆する。起爆後に爆発衝撃波(爆轟波)が砲弾の前方に進んでいき、衝撃波がライナーに到達するとライナーは前方に加速されると同時に円錐の底部から崩壊して前方に高速のメタルジェットを生成する。メタルジェットの速度は、毎秒9000メートル以上のものもある。メタルジェットが装甲に衝突すると衝突部分は超高圧状態になり、あたかも流体のように振る舞う(超高圧によって個体が液体のように振る舞う変異点をウゴニオ弾性限界と呼ぶ。例えば鋼なら1.2GPa、タングステンなら3.8GPa)。流体化した装甲とメタルジェットは後続するメタルジェットに押される形で孔の外に吹き飛ばされ、後続するメタルジェットが孔の内部に次々と衝突し、最終的に貫通する。その際は流体化した装甲も内側に飛び散る。[2]
装甲がドロドロになるという点だけ見れば熱で溶かすとかいうSFじみた誤解をされる(弾痕は確かに根性焼きを入れられたかのようにドロリと溶けた痕になりやすく、軍事評論家も稀によく間違う)が、実際の温度は装甲が溶けるほどではなく、圧力で穴を開けている。
欠点もある。メタルジェットというだけあって、「侵徹体は固体ではない」ため、一番圧縮される適切な距離(スタンドオフ)でなかったり、ライフリングによって与えられる遠心力と言った余計な力や、ミサイルの場合では弾頭の前に設置された追尾誘導装置などの障害物によってメタルジェットが霧のように散ってしまい、侵徹力を損なうことがある。このあたりも水鉄砲に近い特性であるので、イメージしやすいだろう。
メタルジェットの生成に利用される炸薬の爆発エネルギーは一部(大体20%ぐらい)であるため、残りを通常のりゅう弾同様に破片の生成にて利用する HEAT-MP(HEAT-Multi Purpose、多目的対戦車りゅう弾)が戦車砲弾などでは一般的である。(もちろん、本家破片榴弾に比べれば破片の威力は低い。)
使われ方・対応策
砲弾、ミサイル、ロケット弾などの弾頭、近年では対潜魚雷の弾頭にも用いられる。幅広く使われる理由としては、「スピードが不要」ということ。弾丸の威力にもよるが、もし、直接弾を加速するタイプの「徹甲弾(運動エネルギー弾)」で戦車の一番装甲の分厚い部分に穴を開けようとすると、戦車(60トン)が仰け反るほどのパワーが必要。ンなもん、撃った戦闘機から砲が外れ落ち、人間が撃ったら射手がバラバラになることになること請負い。なので、撃つ側が適切な速度、反動で飛びつつも、着弾さえすればしっかりとダメージを与える化学エネルギー弾ことHEAT弾というのは有難い存在なのだ。(ただし、速度が遅いというのは風に煽られやすいという欠点にもなる。ミサイルにして誘導性を付けたりで対処することも多いが、コストが割高になる)
近年では装甲も進化し、複合装甲(さまざまな材質を重ねたもの)、空間装甲(本体を覆うように障害物があり、適正距離を外す)、爆発反応装甲(敵の弾を爆弾で吹き飛ばす)等々の技術によって対策され、戦車相手に単純に有効とは言えなくなったが、そんな装甲技術の発展自体がHEAT弾の登場によってもたらされたものである。そして、装甲の薄い部分や、戦車クラスの重装甲を付けることのできない乗り物に直撃すれば撃破も取れるとあれば、HEAT弾はなおも驚異的な砲弾であることを察することができるだろう。
関連動画
関連項目
脚注
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