資金供給オペレーションとは、中央銀行が短期金融市場または長期金融市場において資金を供給してマネタリーベースを増やす金融政策のことをいう。反対語は資金吸収オペレーションである。
資金供給オペレーションのなかで最も有名なのが買いオペレーションである。
本記事では日本銀行が行う資金供給オペレーションを中心に記述する。
概要
中央銀行がマネタリーベースを増やしたいと思ったとき、短期金融市場や長期金融市場に参入して、市場参加者に対して「中央銀行に対する負債」を負わせたり債券を取り上げたりして、その代償として、市場参加者が保有する中央銀行預金を増加させるか、または市場参加者が利用する市中銀行が保有する中央銀行預金を増加させる[1]。これを資金供給オペレーションという。
中央銀行が短期金融市場や長期金融市場に参入して市場参加者に「中央銀行に対する負債」を負わせつつ通貨を与えた場合、つまり共通担保資金供給オペレーションや買い現先オペレーションをして資金を貸し付けた場合、市場参加者は「中央銀行に対する負債」と通貨が同じぐらいだけ増加することになる[2]。
中央銀行が短期金融市場や長期金融市場に参入して市場参加者から債券を取り上げて通貨を与えた場合、つまり買いオペレーションをした場合、市場参加者は保有している資産が「何らかの債権」から通貨に変身するということになる。
種類
資金供給オペレーションは、共通担保資金供給オペレーションと、買い現先オペレーションと、買いオペレーションの3つに大別できる。
共通担保資金供給オペレーション
日本銀行に差入れられた担保を裏付けとして、資金を貸付けるオペレーションを共通担保資金供給オペレーションという。貸し付ける期間は1年以内となっている[3]。
日本銀行が担保と認めるものは、国債、社債、その他債券、証書貸付債権[4]といったところである。
買い現先オペレーション
日本銀行が債券を買い現先して資金を貸し付けるオペレーションを買い現先オペレーションという。
買い現先とは、債券を買い取って資金を渡し、一定の期間の後に債券を売り戻して資金を受け取るものであり、「売り戻し条件付きの買い入れ」というものである。実質的に、債券を担保としてお金を貸し付ける行動である。
日本銀行の買い現先オペレーションは「CPなど買い現先オペ」と「国債買い現先オペ」に分かれる。「CPなど買い現先オペ」は3ヶ月以内の期間に限られていて、「国債買い現先オペ」は1年以内の期間に限られている[5]。
「国債買い現先オペ」の国債は、政府が発行する債券の全てを示す概念で、国庫短期証券や中期国債・長期国債・超長期国債を全て含む。
買いオペレーション
日本銀行が債券などを買い入れて資金を供給するオペレーションを買いオペレーションという。
資金供給オペレーションの中で最も理解しやすいので、資金供給オペレーションの中の代表格として扱われている。
日本銀行が買いオペできるのは、国債だけではなく、CD(譲渡性預金)、CP(短期社債)、社債、金融債、株式、不動産、金地金(金塊)、銀地金(銀塊)など、ありとあらゆるものである。しかし、「日本銀行が基本的に買いオペするものといったら国債である」と憶えておいてよい。
また、日本銀行は「中央銀行は長期金利の操作をすべきではない」という思想を持っているので、買いオペレーションをするときは国庫短期証券を優先して買い入れて、中期国債・長期国債・超長期国債をあまり買おうとしない傾向がある。
中央銀行の貸借対照表(バランスシート)の膨張と縮小
資金の貸し付けなら、一定期間後に貸借対照表が元通りになる
共通担保資金供給オペレーションや買い現先オペレーションは、いずれも実質的に貸し付けである。
日銀が貸し付ける瞬間に信用創造が行われて、日銀の貸借対照表(バランスシート)の資産の部と負債の部が同じぐらいに増加して、日銀の貸借対照表が膨張する。
そして一定期間が来れば日銀に対して返済が行われ、日銀の貸借対照表(バランスシート)の資産の部と負債の部が同じぐらいに減少して、日銀の貸借対照表が縮小する。
つまり、一定期間が過ぎれば日銀の貸借対照表の規模が元通りになる。
「中央銀行に対して影響を与えない団体が発行する債券」の買い取りなら、一定期間後に貸借対照表が元通りになる
「中央銀行に対して影響を与えない団体が発行する債券」というと、銀行が発行するCD(譲渡性預金)や金融債、企業・銀行が発行するCP(短期社債)や社債、といったところである[6]。
日銀が「中央銀行に対して影響を与えない団体が発行する債券」を買った瞬間に、一種の信用創造が行われて、日銀の貸借対照表(バランスシート)の資産の部と負債の部が同じぐらいに増加して、日銀の貸借対照表が膨張する。
そして一定期間が来れば日銀に対して返済が行われ、日銀の貸借対照表(バランスシート)の資産の部と負債の部が同じぐらいに減少して、日銀の貸借対照表が縮小する。
つまり、一定期間が過ぎれば日銀の貸借対照表の規模が元通りになる。
「中央銀行に対して影響を与える団体が発行する債券」の買い取りなら、一定期間後に貸借対照表が元通りになるわけではない
「中央銀行に対して影響を与える団体が発行する債券」というのは、中央銀行に対して影響を与える政府が発行する国債のことである。
中央銀行に対して影響を与える政府の例は、日本銀行にとっての日本政府、アメリカ合衆国連邦準備銀行制度にとってのアメリカ合衆国政府、イングランド銀行にとってのイギリス政府である。
日銀が、日本政府が発行した国債を買い取った瞬間に、一種の信用創造が行われて、日銀の貸借対照表(バランスシート)の資産の部と負債の部が同じぐらいに増加して、日銀の貸借対照表が膨張する。
そして、日本政府は日銀に対して強い影響力を持っており、国債の期日が到達したらその国債を償還せずにそのまま新しい国債に交換することがある(日銀乗換)。そうなった場合は日銀の貸借対照表の規模が大きいままで維持される。
日銀の貸借対照表の資産の部と負債の部を同じぐらいに減少させて日銀の貸借対照表の規模を縮小させたいのなら、国債の売りオペレーションを実行しなければならない。
ETFの買い取りなら、一定期間後に貸借対照表が元通りになるわけではない
ETFとは指数連動型上場投資信託受益権のことで、簡単に言うと「複数の銘柄の株式をまとめたセット商品」である。
日銀がETFを買い取った瞬間に、日銀の貸借対照表(バランスシート)の資産の部と負債の部が同じぐらいに増加して、日銀の貸借対照表が膨張する。
株式というのは永久債と同じようなもので、株式を発行してお金を手に入れた側は、どれだけ時間が経っても投資された元本を返済する必要が無い。そのためETFを抱えた日銀は、いつまで経っても貸借対照表(バランスシート)の規模が膨らんだままになる。日銀の貸借対照表の資産の部と負債の部を同じぐらいに減少させて日銀の貸借対照表の規模を縮小させたいのなら、ETFの売りオペレーションを実行しなければならない。
まとめ
以上のことをまとめると次のようになる。
資金の貸し付け | 共通担保資金供給オペレーション、買い現先オペレーション | 一定期間が過ぎると自動的に日銀の貸借対照表(バランスシート)の資産と負債が同じぐらい減り、日銀の貸借対照表が縮小する |
「中央銀行に対して影響を与えない団体が発行する債券」の買い取り | CD(譲渡性預金)やCP(短期社債)や社債や金融債の買いオペレーション | |
「中央銀行に対して影響を与える団体が発行する債券」の買い取り | 中央銀行に対して影響を与える政府が発行する国債の買いオペレーション | 一定期間が過ぎても自動的に日銀の貸借対照表(バランスシート)の資産と負債が減るわけではなく、日銀の貸借対照表の規模が維持されたままである。貸借対照表の縮小をするなら売りオペレーションをする必要がある |
ETFの買い取り | ETFの買いオペレーション |
関連商品
関連項目
脚注
- *日本銀行が銀行・証券会社・短資会社に対して「日本銀行に対する負債」を負わせたり債券を取り上げたりした場合、日本銀行は直接的に日銀当座預金を増加させることができる。日本銀行が保険企業に対して「日本銀行に対する負債」を負わせたり債券を取り上げたりした場合、日本銀行はその保険企業が預金を預ける銀行の日銀当座預金を増加させ、それと同時に、「保険企業が預金を預ける銀行」が保険企業の預金を増加させる。
- *市場参加者が日銀に口座を持っている場合は中央銀行預金という形の通貨が増加する。市場参加者が日銀に口座を持っていない場合は、その市場参加者が利用する市中銀行の中央銀行預金が増えて、市場参加者が持つ市中銀行預金が増加するので、市中銀行預金という形の通貨が増加する。
- *日本銀行の機能と業務(有斐閣)日本銀行金融研究所 117ページ
- *証書貸付とは、貸し手と借り手が金銭消費貸借契約を結んで貸し借りをおこなうもので、最も普通の金銭貸借である。銀行は、1年を超える貸付の際に証書貸付の形態を採用することが多く、1年以下の貸付の際に手形貸付の形態を採用することが多い。証書貸付と手形貸付の違いについては手形貸付の記事も参考のこと。
- *日本銀行の機能と業務(有斐閣)日本銀行金融研究所 117ページ
- *CD(譲渡性預金)は厳密に言うと債券には当たらないが、債券によく似た性質を持っているので、この例に入れた。
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