アフリカ開発会議

アフリカ開発会議（Tokyo International Conference on African Development、略称：TICAD）とは、日本政府が主導し、国連、国連開発計画（UNDP）、世界銀行、アフリカ連合委員会（AUC）と共同で開催する、アフリカの開発をテーマとした国際会議である。

この記事の概略と日本にとってのメリット

【概略】

日本が1993年から主導している、アフリカの国々のリーダーたちと、支援国や国際機関などが一堂に会して、アフリカの発展について話し合うための国際会議である。「アフリカ自身のやる気（オーナーシップ）」を尊重しつつ、「国際社会が対等な立場で協力する（パートナーシップ）」という理念を掲げているのが大きな特徴であり、約30年にわたり継続している、アフリカ開発における世界最大級の国際会議である。

【日本にとってのメリット】

1. 国際社会での影響力向上と中国との競合：国連加盟国の約4分の1を占めるアフリカ諸国との良好な関係は、国連総会などでの日本の外交的立場を強化する上で不可欠である。近年、アフリカへの関与を強める中国との間で、国際場裡での支持を取り合う影響力競争の側面も強まっている。
2. 経済的な機会の獲得：「最後の巨大市場」と呼ばれるアフリカの著しい経済成長を取り込むための足がかりとなる。日本企業のアフリカ進出を後押しし、資源の安定確保（資源外交）にも繋がる。
3. 外交ビジョンの推進：TICADは、日本の外交の大きな柱である「自由で開かれたインド太平洋（FOIP）」構想を実現するための重要なプラットフォームであり、アフリカを巻き込むことでそのビジョンを具体化できる。

概要

アフリカ開発会議（TICAD）は、日本が1993年に立ち上げた、アフリカの開発をテーマとする国際的なフォーラムである。冷戦終結後、国際社会のアフリカへの関心が薄れつつあった「援助疲れ」の中で、アフリカの重要性を再び国際的な議題の中心に据えることを目的として始まった。

単なる支援国からアフリカへの一方的な援助会議ではなく、アフリカ諸国自身が開発の主役であるという「アフリカの主体性（オーナーシップ）」と、国際社会が対等な立場で協力する「国際社会との協調（パートナーシップ）」を基本理念としている。政府関係者だけでなく、国際機関、民間企業、市民社会（NGOなど）も参加する、開かれた包括的な会議である点が特徴である。

現代アフリカの姿：援助の対象からパートナーへ

かつてのアフリカには「貧困」「紛争」「飢餓」といったイメージがつきまとっていたが、21世紀に入り、その姿は大きく変貌している。多くの国で政治が安定し、高い経済成長率を記録。「最後の巨大市場」として世界中から注目される投資先へと変わりつつある。

特に、若年層が人口の多くを占める「人口ボーナス」期にあり、将来の消費市場として大きな潜在力を秘めている。また、携帯電話やモバイルマネーといったデジタル技術が急速に普及し、伝統的なインフラを飛び越えて新しいサービスが生まれる「リープフロッグ現象」が各地で見られる。こうしたアフリカのダイナミズムを背景に、TICADの議論も単なる「援助」から、ビジネスやイノベーションを促進する「投資のパートナー」へと大きくシフトしている。

経緯：30年以上にわたる日本の取り組み

TICADは、時代のアフリカが直面する課題に応じて、そのテーマを発展させながら継続されてきた。

第一期：アフリカへの関心の再喚起（1993年～）

• TICAD I（1993年）：東京で開催。冷戦後の「援助疲れ」の中、アフリカ開発の重要性を国際社会に訴え、成功を収めた。
• TICAD II（1998年）、III（2003年）：貧困削減や教育・保健といった社会開発、人間の安全保障などが主要なテーマとなった。5年ごとの開催が定着した。

第二期：経済成長と民間投資の重視（2008年～）

• TICAD IV（2008年）：横浜で開催。「元気なアフリカ」を目指し、インフラ整備や貿易投資の促進など、経済成長の重要性を強調した。民間企業の役割が重視され始めた。
• TICAD V（2013年）：「躍動するアフリカと手を携えて」をテーマに、民間セクター主導の成長を強力に後押しした。「質の高い成長」がキーワードとなった。

第三期：開催地の多様化とビジョンの連携（2016年～）

• TICAD VI（2016年）：初めてアフリカ（ケニア・ナイロビ）で開催。開催サイクルが3年ごとに変更された。この会議の場で、安倍総理が「自由で開かれたインド太平洋（FOIP）」戦略を公式に提唱したことは象徴的である。
• TICAD 7（2019年）：横浜で開催。ビジネスとイノベーションをテーマに、日本企業のアフリカ投資を力強く推進した。「質の高いインフラ投資」の重要性が改めて確認された。
• TICAD 8（2022年）：チュニジアで開催。新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢がアフリカに与える影響（食料危機など）への対応が議論され、「人」を中核とした開発の重要性が強調された。
• TICAD 9（2025年）：横浜で開催。

TICADと一帯一路

近年、中国は「一帯一路」構想のもと、アフリカにおいて巨額の投融資を行い、インフラ建設などを通じて急速に影響力を拡大している。日本のTICADと中国のアプローチには、いくつかの対照的な特徴が見られる。

項目	TICAD（日本）	一帯一路（中国）
理念・アプローチ	アフリカの主体性（オーナーシップ）を尊重。国連などと連携する多国間協調型。	トップダウン方式。二国間での交渉が中心。
重点分野	インフラに加え、「人材育成」や保健・教育システム構築といったソフト面を重視。	道路、鉄道、港湾といった大規模インフラ建設が中心。
資金・質	円借款や技術協力が中心。相手国の財政健全性に配慮した「質の高い成長」を目指す。	巨額の融資が中心。スピードと規模を重視するが、「債務の罠」への懸念も指摘される。

ただし、多くのアフリカ諸国は日本と中国を二者択一の関係とは捉えておらず、双方の利点を最大限に活用しようとする現実的な外交を展開している。

（わからない人向けの解説）

• アフリカの主体性（オーナーシップ）
  ：アフリカの国の発展計画や問題解決は、外国から押し付けられるのではなく、アフリカの人々自身が主導して決めていくべきだ、という考え方である。
• 国際社会との協調（パートナーシップ）
  ：アフリカの国々と、日本のような支援国や国連などの国際機関が、上下関係ではなく対等な協力者として、一緒になって開発に取り組んでいこうという考え方である。
• 人間の安全保障
  ：国家の安全だけでなく、一人ひとりの人間が恐怖（紛争、テロ、犯罪など）や欠乏（貧困、飢餓、病気など）から解放され、尊厳を持って生きられるようにすることを目指す考え方であり、日本が外交の柱の一つとしている。
• グローバル・サウス
  ：主に南半球に位置する新興国や発展途上国を指す言葉である。近年、国際社会での政治的・経済的な影響力を増しており、アフリカ諸国はその中心的な存在と見なされている。

関連項目

• 自由で開かれたインド太平洋（FOIP）
• 政府開発援助（ODA）