医学記事 医療や健康に関する相談は各医療機関へ |
クロピドグレル(Clopidogrel)とは、抗血小板薬である。先発医薬品名はプラビックス®。
クロピドグレルは、チエノピリジン系抗血小板薬、P2Y12受容体阻害薬である。血小板の凝集を阻害して血栓(血のかたまり)の形成を抑制するため、脳梗塞や心筋梗塞の再発予防に使われる。
フランスの製薬企業サノフィが創製し、1997年にアメリカで初めて承認された。日本では2006年にプラビックス®の製造販売が承認され、2015年にはジェネリック医薬品も登場した。
抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)において、しばしばクロピドグレルとアスピリンの2剤が選ばれる。この2剤を1錠にまとめたコンプラビン®配合錠(ロレアス®配合錠)も上市されており、虚血性心疾患の再発予防に利用されている。
上記の適応症のうち、脳梗塞、狭心症および心筋梗塞はニコニコ大百科内に記事があるため、詳細は各記事を参照。PADは閉塞性動脈硬化症や閉塞性血栓血管炎(バージャー病)などが該当する。
クロピドグレル75mgを1日1回朝食後に内服するケースが多い。患者のライフスタイルによっては昼食後や夕食後の内服を指示することもあるが、副作用低減のため空腹時の投与は避ける。
クロピドグレルなどのチエノピリジン系抗血小板薬は、体内で代謝活性化を受けたのち、血小板に発現しているアデノシン二リン酸受容体(P2Y12受容体)とジスルフィド結合(R-S-S-R')を形成する。これにより、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)の活性化が抑制され、グリコプロテインIIb/IIIa(GP IIb/IIIa)の活性化も阻害される。また、Giによるアデニル酸シクラーゼの抑制が阻害されるため、cAMP濃度が上昇して血小板内Ca2+濃度が低下する。これらの作用によって血小板凝集が阻害され、血栓形成が抑制される。共有結合による不可逆的な阻害のため、作用持続時間は長い。
チエノピリジン系抗血小板薬はプロドラッグであり、チオフェン環(S原子を含む5員環)が酸化され、チオエステル(R-S-CO-R')中間体を経てチオール基(R-SH)が露出した活性代謝物となって作用する。クロピドグレルの活性化には薬物代謝酵素のシトクロムP450(CYP)が関与しており、とりわけCYP2C19の寄与が大きい。CYP2C19の遺伝子多型による酵素活性の減弱ないし欠損は、クロピドグレルの活性代謝物の産生能の低下、血小板凝集阻害作用の低下につながる。日本人の約6人に1人が、CYP2C19活性の弱い低代謝(PM)群と推定される。
クロピドグレルは、主にCYP2C19による酸化反応を経てP2Y12受容体を阻害し、血小板凝集を抑制する。そのため、CYP2C19を阻害または誘導する作用のある薬物を併用すると、クロピドグレルの作用が減弱または増強するおそれがある。CYP2C19を阻害する薬物としてプロトンポンプ阻害薬のオメプラゾール(オメプラール®、オメプラゾン®)、CYP2C19を誘導する薬物として抗抗酸菌薬のリファンピシン(リファジン®)がある。
クロピドグレルは抗血小板薬であるため、血友病の患者、頭蓋内出血や消化管出血など出血している患者への投与は、出血を助長するおそれがあり禁忌である。また、出血するリスクの高い手術を受ける場合、その7~14日前からクロピドグレルを休薬することが望ましい。
クロピドグレルと同じチエノピリジン系抗血小板薬であるチクロピジンは、投与開始後2か月以内に血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害などの重大な副作用が発現するおそれがあり、死亡に至った例も報告されている。チクロピジンと比較してクロピドグレルの副作用は60%程度少ないとされるものの、投与開始後2か月間は2週間に1回の血液検査の実施を考慮する。
クロピドグレルの副作用として、出血、吐き気、食欲不振、消化器不快感がある。空腹時に内服すると消化器症状があらわれやすいため、食後に投与する。
チエノピリジン系抗血小板薬は、チクロピジン(パナルジン®)、クロピドグレル(プラビックス®)、プラスグレル(エフィエント®)が上市されている。
第1世代のチクロピジンは、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害という重大な副作用のため、1999年と2002年に緊急安全性情報(イエローレター)が配布されており、原則として定期的な血液検査が必要である。1日2~3回内服。細粒剤がある。
第2世代のクロピドグレルは、前述したようにチクロピジンの副作用を抑えた改良版であり最も汎用される。しかし、CYPによる2段階の代謝活性化が必要で、チクロピジンと同じく作用発現まで1~2日かかる。また、CYP2C19の遺伝子多型のために、クロピドグレルの効果には個人差がみられる。
第3世代のプラスグレルは、さらなる改良版といえる。代謝活性化の第1段階がCYPによる酸化反応ではなくエステラーゼによる加水分解反応であるため、個人差が少なく作用発現にかかる時間も短い(2時間ほどで作用発現が期待できる)。薬価が1日あたり約250円と高いため、急性期のDAPT導入にプラスグレルを用いて、のちに安価なクロピドグレルに切り替えることもある。
P2Y12受容体阻害薬は、チエノピリジン系抗血小板薬のほかに、カングレロル、チカグレロル(ブリリンタ®)などがある。チエノピリジン系抗血小板薬が代謝活性化を受けてから共有結合を介して不可逆的に阻害するのに対し、カングレロルやチカグレロルは未変化体のままADP結合部位とは異なる部位に結合して可逆的に阻害する。
抗血小板薬は、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬のアスピリン(バイアスピリン®、バファリン®)、ホスホジエステラーゼ-III(PDE-III)阻害薬のシロスタゾール(プレタール®)もよく使われる。
COX阻害薬のアスピリンは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)すなわち消炎鎮痛薬として知られる。COXをアセチル化して不可逆的に阻害し、血小板凝集を亢進させるトロンボキサンA2(TXA2)の産生を抑制するため、低用量であれば抗血小板作用を示す。副作用の胃炎や胃潰瘍のリスクがあるため、制酸薬との配合剤や胃では溶けない腸溶性製剤が利用されている。DAPT期間中はクロピドグレルまたはプラスグレルとアスピリンを併用する。
PDE-III阻害薬のシロスタゾールは、cAMPを加水分解するPDE-IIIを阻害し、cAMP濃度を上昇させて細胞内Ca2+濃度を低下させるため、血小板凝集を抑制する。血管拡張作用や心収縮力・心拍数増加作用もある。閉塞性動脈硬化症や非心原性脳梗塞に用いる点ではクロピドグレルと似ているが、シロスタゾールは虚血性心疾患やうっ血性心不全には用いない。副作用は動悸や頻脈。
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2025/01/05(日) 01:00
最終更新:2025/01/05(日) 01:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。