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リファンピシン(Rifampicin)またはリファンピン(Rifampin)とは、結核の治療に用いられるリファマイシン系抗菌薬である。先発医薬品名はリファジン®。
リファンピシンは、リファマイシンB誘導体、リファマイシン系抗菌薬である。色調は橙赤色~赤褐色。抗酸菌による感染症(結核、非結核性抗酸菌症、ハンセン病)の治療に用いられる。世界保健機関(WHO)が策定した必須医薬品モデルリストに収載されているエッセンシャルドラッグである。
リファンピシンは、放線菌Streptomyces mediterranei(現在のAmycolatopsis rifamycinica )が産生するリファマイシンBの化学修飾によって得られた。リファマイシンBは、1957年にイタリアの製薬企業Lepetit(レペチ)社によって発見された抗生物質である。活性の低いリファマイシンBを改良し、非経口投与だが活性の高いリファマイシンSVが開発され、さらに1966年に経口投与可能なリファンピシンが開発された。海外では1968年から治療に用いられ、日本でも1971年にリファジン®カプセルの製造販売が開始された。ジェネリック医薬品も販売されている。
リファンピシンは2種類の一般名が併存しており、日本、ヨーロッパ、オーストラリアにおける一般名はリファンピシン(Rifampicin)、アメリカ合衆国およびカナダにおける一般名はリファンピン(Rifampin)である。
リファマイシン系抗菌薬のステム“Rifa-”は、1955年に公開され人気を博したフランスの犯罪映画『男の争い』(原題:“Du rififi chez les hommes ”)のイタリア語版のタイトル“Rififi ”に由来する。“Rififi”(リフィフィ)は、ギャングの喧嘩や乱闘を意味するフランスのスラング。Lepetit社の研究者は収集した土壌のサンプルに映画の名前をつけて区別しており、リファマイシンやその誘導体の名に反映された。
「くすり」で変換される絵文字の「💊」は、Apple、Google、Microsoftいずれのプラットフォームにおいても赤と黄の2色からなるカプセル剤として表示される。これは、サンド株式会社が製造販売しているリファンピシンカプセル150mgとよく似ている。一方、第一三共株式会社が製造販売しているリファジン®カプセル150mgは赤と青の2色からなるカプセル剤であり、ゲーム『ドクターマリオ』のパッケージなどに同じ配色のカプセル剤が描かれている。ただし、『ドクターマリオ』の敵キャラクターは細菌ではなくウイルスである。
いずれもマイコバクテリウム属菌(抗酸菌)感染症である。結核は結核菌によって、非結核性抗酸菌症は非結核性抗酸菌(NTM)によって、ハンセン病はらい菌によって引き起こされる。患者より検出された原因菌がRFP耐性菌であると効果がないため、RFP感性菌であることを確認のうえで治療する。
上記のほか、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの黄色ブドウ球菌感染症、レジオネラ属の菌によるレジオネラ肺炎(在郷軍人病)、肺炎球菌による細菌性髄膜炎の治療において、ほかの抗菌薬と併用されることがある。
肺結核などの結核の治療において、1回450mgを1日1回経口投与する。年齢や症状に応じて適宜増減し、原則として朝食前空腹時に投与する。単剤での治療は結核菌が耐性を獲得して効かなくなるおそれがあるため、ほかの抗結核薬と併せて3~4剤での治療が推奨されている。感性併用薬がある場合にはリファンピシン週2日投与も可とされる。
MAC症を含む非結核性抗酸菌症の治療において、1回450mgを1日1回経口投与する。年齢、症状、体重に応じて適宜増減するが、最大投与量は1日600mgである。原則として朝食前空腹時に投与する。
ハンセン病の治療において、1回600mgを月1~2回経口投与する、または1回450mgを1日1回連日経口投与する。年齢や症状に応じて適宜増減し、原則として朝食前空腹時に投与する。ほかの抗ハンセン病薬と併せて2~3剤での治療が推奨されている。
リファマイシン系抗菌薬は、細菌のDNA依存性RNAポリメラーゼβサブユニットに結合し、RNAの合成を阻害することで抗菌作用を示す。抗酸菌を含むグラム陽性菌、大腸菌などの一部のグラム陰性菌に効果が認められる。RFPは、ヒトの細胞のDNA依存性RNAポリメラーゼを阻害しない。
RFPは、薬物代謝酵素のシトクロムP450(CYP)やUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)を誘導する。また、トランスポーターのP糖タンパク質(P-gp)も誘導し、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)を阻害する。このため、多くの薬剤と薬物相互作用を引き起こす(後述)。
RFPはアミロイドβの凝集を抑制したとの報告がある。アミロイドβは、アルツハイマー病の発症との関連が示唆されているポリペプチドであり、2023年にはアミロイドβ凝集体を減少させる効果のあるレカネマブ(レケンビ®)が承認されている。タウタンパク質やα-シヌクレインの凝集抑制も報告されており、RFPの神経変性疾患への臨床応用が期待されている。
胆道閉塞や重篤な肝機能障害のある患者、過敏症の既往のある患者へのRFP投与は禁忌である。
RFPはCYP3A4をはじめ、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、UGT1A1などを誘導し、これらの酵素によって不活性化される薬剤の作用を減弱させる可能性、または活性化される薬剤の副作用を増強させる可能性がある。また、P-gpの誘導による作用減弱、OATP1B1やOATP1B3の阻害による副作用増強の可能性もある。ゆえに、一部の抗精神病薬、抗血小板薬、抗悪性腫瘍薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬(HIV-1感染症やC型慢性肝炎の治療薬)などとの併用は禁忌であり、併用に注意を要する薬剤も多数ある。
医薬品名 | 薬効分類 | 併用結果 | 機序 |
---|---|---|---|
ルラシドン (ラツーダ®) |
非定型抗精神病薬 | 作用減弱 | CYP3A4誘導 |
タダラフィル (アドシルカ®) |
肺動脈性肺高血圧症治療薬 | 作用減弱 | CYP3A4誘導 |
マシテンタン (オプスミット®) |
肺動脈性肺高血圧症治療薬 | 作用減弱 | CYP3A4誘導 |
ペマフィブラート (パルモディア®) |
脂質異常症治療薬 | 副作用増強 | OATP1B1阻害 OATP1B3阻害 |
チカグレロル (ブリリンタ®) |
抗血小板薬 | 作用減弱 | CYP3A4誘導 |
ロルラチニブ (ローブレナ®) |
抗悪性腫瘍薬 | 肝酵素上昇 | 不明 |
ボリコナゾール (ブイフェンド®) |
抗真菌薬 | 作用減弱 | CYP3A4誘導 |
イサブコナゾニウム (クレセンバ®) |
抗真菌薬 | 作用減弱 | CYP3A4誘導 |
ホスアンプレナビル (レクシヴァ®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 |
アタザナビル (レイアタッツ®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 |
リルピビリン (エジュラント®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 |
リルピビリン/テノホビルアラフェナミド/エムトリシタビン (オデフシィ®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 P-gp誘導 |
ドルテグラビル/リルピビリン (ジャルカ®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 UGT1A1誘導 |
エルビテグラビル/コビシスタット/エムトリシタビン/テノホビルアラフェナミド (ゲンボイヤ®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 P-gp誘導 |
ドラビリン (ピフェルトロ®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 |
カボテグラビル (ボカブリア®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 | UGT1A1誘導 |
レジパスビル/ソホスブビル (ハーボニー®) |
抗HCV薬 (C型慢性肝炎治療薬) |
作用減弱 | P-gp誘導 |
ソホスブビル/ベルパタスビル (エプクルーサ®) |
抗HCV薬 (C型慢性肝炎治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 P-gp誘導 |
グレカプレビル/ピブレンタスビル (マヴィレット®) |
抗HCV薬 (C型慢性肝炎治療薬) |
作用減弱 | P-gp誘導 |
テノホビルアラフェナミド (ベムリディ®) |
抗HBV薬 (B型慢性肝炎治療薬) |
作用減弱 | P-gp誘導 |
ビクテグラビル/エムトリシタビン/テノホビルアラフェナミド (ビクタルビ®) |
抗HIV薬 (HIV-1感染症治療薬) |
作用減弱 耐性化 |
CYP3A4誘導 UGT1A1誘導 P-gp誘導 |
アメナメビル (アメナリーフ®) |
抗ヘルペスウイルス薬 (単純疱疹・帯状疱疹治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 |
ニルマトレルビル/リトナビル (パキロビッド®) |
抗SARS-CoV-2薬 | 作用減弱 耐性化 |
CYP3A4誘導 |
エンシトレルビル (ゾコーバ®) |
抗SARS-CoV-2薬 | 作用減弱 | CYP3A4誘導 |
アルテメテル/ルメファントリン (リアメット®) |
抗原虫薬 (マラリア治療薬) |
作用減弱 | CYP3A4誘導 |
プラジカンテル (ビルトリシド®) |
抗寄生虫薬 | 作用減弱 | CYP3A4誘導 |
RFPの副作用として肝機能障害や胃腸障害(食欲不振や吐き気)がある。また、RFPやその代謝物によって尿、便、涙液、唾液、痰、汗が橙赤色に着色する。つまり、血尿のように見えたり、ソフトコンタクトレンズが変色したり、使用したシャツやタオルに色がついたりするため留意しておくこと。
リファマイシン系抗菌薬はRFPのほか、リファブチン(ミコブティン®)、リファペンチン、リファラジル、リファミド、リファキシミン(リフキシマ®)などがある。
リファブチン(RBT)は、RFP投与が困難な患者の結核および非結核性抗酸菌症の治療に用いられる。また、HIVに感染した患者の播種性MAC症の発症抑制にも用いられる。RBTのCYP3A4誘導作用はRFPのそれと比較して弱いとされるため、併用薬がある場合にRBTが選択されやすい。日本では2008年に承認されたが、海外では1990年代から使用されてきた。
リファキシミン(RFX)は、RFPやRBTと異なり消化管でほとんど吸収されないため、結核の治療には用いられない。腸管内のアンモニア産生菌に対する抗菌作用によって血中アンモニア濃度を低下させるため、肝性脳症における高アンモニア血症の改善に用いられる。2013年に希少疾病用医薬品に指定され、2016年に承認された。
結核治療薬は、イソニアジド(イスコチン®)、ピラジナミド(ピラマイド®)、エタンブトール(エブトール®、エサンブトール®)、ストレプトマイシンなど。3~4剤を併用する。詳しくは、結核の記事の「治療」節を参照。
ハンセン病治療薬は、ジアフェニルスルホン(レクチゾール®)、クロファジミン(ランプレン®)、オフロキサシン(タリビッド®)など。2~3剤を併用する。
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最終更新:2025/01/07(火) 01:00
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