位置エネルギー 単語


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イチエネルギー

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位置エネルギーまたはポテンシャルエネルギー(potential energy)とは、エネルギーの一種である。

概要

例えば、の塊を高いところに置き、それを下のめがけて落とす。すると、は下へ埋め込まれる。
すなわち、重力のあるところでは、高いところにある物体は外部へ仕事をする力を持っていることがわかる。これが位置エネルギー(のひとつである重力ポテンシャルエネルギー)である。

高いところにある物体は、自由落下させると高度を落とし、位置エネルギーが減少する。その代わり、落ちる速度が増加する。すなわち、運動エネルギーに変換される。位置エネルギーと運動エネルギーの和を力学エネルギーというが、外力が働かない限り、両者の和は一定である(力学エネルギー保存の法則)。

位置エネルギーは重力の他、バネを伸ばしたときや電磁力がはたらいているときなど、とにかく「その位置から別の位置に移動すると仕事をすることができる」ような状態なら定義することができる。そしてどのような種類の位置エネルギーであっても、外力が他に働かない限り、運動エネルギーとの和は一定である。

以下、特筆しない限り、重力による位置エネルギーについて解説する。

位置エネルギーの大きさ

1. 地表付近での近似

物体の質量をm、重力速度をgとすると、その物体にはmgニュートン重力がかかっている。

これをhメートル手で持ち上げるとき、その間かかる重力は一定と見なせるので、手がした仕事は力と距離の積でmghジュールである。持ち上げた物体を落下させるときにできる仕事はこの値と一致するので、位置エネルギーUの式は以下の通りとなる。

U=mgh

以上は、重力速度が高さによらず一定とみなせる場合の近似である。すなわち、高さの差が地球半径に対して十分小さいと考えられる場合である。

2. 重力加速度の変化を考慮した場合

万有引力法則により、物体にかかる万有引力は、距離の2乗に反例して小さくなっていく。
すなわち、物体を、地球の中心から十分遠く離した場合の位置エネルギーは、mghでめることはできない。

万有引力法則の式は、以下の通りである。
ここで、Fは万有引力、M,mは2者の質量、rは2者間の距離、Gは万有引力定数である。

F=G×Mm/r2

位置エネルギーUはこれをrで積分したものであるが、rの原点を地球の中心とした場合、距離0のとき万有引力無限大となってしまい、うまく積分ができなくなる。そのため、万有引力が0となる無限遠点を原点とするのが通例である。

U(r)=∫F(r)dr=∫r(GMm/r2)dr=-GMm/r

あれ? 位置エネルギーがマイナスになってしまったぞ? と思うかもしれないが、マイナス2乗を積分しているのだから係数はマイナス1になる。この式は、無限遠点では位置エネルギーが最小のマイナス無限大地球に近づくにつれて値が最大の0に近づくということを表す。

計算上ではそうなるが、実際の計算では、位置エネルギーとは基準面の高さと物体の高さの差なので、その値はちゃんとプラスになる。3.の項の③式を見れば明らかだろう。

3. 近似値と万有引力を含んだ場合の差

さて、より厳密なのは2.の計算であるが、ここで1.と2.の差がどれほどなのか見てみよう。

大雑把に考えれば、地球の半径は約6000km、すなわち600万mである。これに対して、例え東京スカイツリーのてっぺんから物体を落としたとしても、せいぜい600mぐらいである。600万mと600万600mの差などなきに等しく、ゆえに人間生活圏では近似式mghでこと足りるのである。

それでもという人のために、厳密に計算してみよう[1]
地表面から高さhの位置にある質量mの物体が持つ位置エネルギーを考える。

1.の式から導出すれば、当然U=mghである。

2.の式からは、以下のように導出できる。

  • 物体がhの位置にあるとき、位置エネルギーは、U(R+h)=-GMm/(R+h)である。…①
  • 物体が地表面にあるとき、位置エネルギーは、U(R)=-GMm/Rである。…②

める位置エネルギーは①-②である。

-GMm/(R+h)-(-GMm/R)
=G[(-RMm+(R+h)Mm)/R(R+h)]
=G[hMm/R(R+h)]…③

③の式をExcelに入力し、1.の近似式とべると、以下のようになる。
ただし、m=1000kg, R=3678137m, M=5.9724×1024kg, G=6.6743×10-11m3kg-1s-2 とする。 

h[m] 1.の近似式 ③の厳密な式 左/右
1000 9,798,665.30122 9,797,129.25248 100.01568%
2000 19,597,330.60243 19,591,187.37052 100.03136%
3000 29,395,995.90365 29,382,175.79796 100.04704%
4000 39,194,661.20486 39,170,095.97776 100.06271%
5000 48,993,326.50608 48,954,949.35194 100.07839%
6000 58,791,991.80729 58,736,737.36165 100.09407%
7000 68,590,657.10851 68,515,461.44712 100.10975%
8000 78,389,322.40972 78,291,123.04769 100.12543%
9000 88,187,987.71094 88,063,723.60178 100.14111%

上記の通り、近似式の方は重力速度の減少分を考慮していないため、厳密な式にべて少し大きくなる。
しかし、その誤差エベレストの高さぐらいになっても0.1%ほどなので、人間生活圏であればほとんど気にしなくてよいということになる。

なお、宇宙空間と大気圏の界(カーマン・ライン)は地上100kmとされているが、上記の表に100000mを代入してもその差は1.56%ほどである。つまり、よほど厳密なことをしない限り、大気圏内ではこの差を考えなくてよいということである。

国際宇宙ステーションは地上400kmほどの位置にあるが、ここまで来るとさすがに63%ほどの差になり、近似式で考えることはできない。

4.近似式の導出

3.の式の「①-②」の部分で、①をテイラー展開すると、その第1項は②と打ち消し合って1次以降の式が残る。ここで2次以降の式は小さいので0と見なすと

U=GMmh/R2

が残る。

GM/R2=gなので[2]、上記の式は

U=mgh

と近似できる。3.の項の誤差は、上記文字部分の「2次以降の式を無視した」分である。

位置エネルギーの応用

重力発電

最も一般的な位置エネルギーの応用例。高いところにある物体を自由落下させて位置エネルギーを運動エネルギーに変換し、タービンを回して発電する。この「物体」は、上から下に移動するだけで、それ自体は消耗しない。そのため、再生エネルギーの一種とされるものも多い。

「物体」は何でもよいが、通常はを用いた水力発電が使われる。自由に形を変えられ、ダムを造れば貯めることも容易で、無料で調達できるからである。

また、他の動力で作った電力を「貯める」のにも有効である。上記と逆に、ポンプを使ってダムの上までをくみ上げれば、電気エネルギーを位置エネルギーという形で貯蔵できる(揚水発電)。

以外では、コンクリートブロックなどを上に移動させてエネルギーを「貯蔵」し、必要に応じて下に下ろして発電をするという形式の重力発電もある。水力発電べて手間はかかるが、より重の大きい物体を使えば省スペースになる。

人間を使う方法もある。例えば、エレベーターの中には、下降する時に発電機を回して充電し、上昇する時の動力とするものがある。下降する際、エレベーターは発電する分だけ運動エネルギーが減少する、すなわち速度が落ちるので、一種の回生ブレーキとしてもはたらく。

位置エネルギー車

電気も燃料も使わず、位置エネルギーのみを動力に走り続ける。特別なを用意する必要はない。例えばあなたのが燃料切れになったり、悪者にエンジンをいじられたりした場合でも、ギアニュートラルに、またはクラッチを切りっぱなしにしながら坂を下れば、位置エネルギー変わり!

…などという突拍子もないことをしなくとも、例えばジェットコースター貨物列車ハンプヤードなど、通常の運用で応用されている技術である。ジェットコースターは、チェーンリフトで坂を登った後は自身の位置エネルギーのみを動力にコースを走っていく。ハンプヤードとは、貨物列車の操場に丘を設けておき、そこから坂を下らせることにより、貨車動力で運ぶ方法である。

なお、一般の自動車自動二輪車を位置エネルギーにするのは、日本ではおすすめしない。
ブレーキランプウインカーがつかないので道路交通法違反になるし、四輪の場合はパワーブレーキパワーステアも使えないので停止や旋回に大きな力を要し、大変危険である。

ヨーヨー

手から落としたヨーヨーは、その位置エネルギー+手の運動エネルギー回転運動エネルギーに変換し、回転する。手を引くと、回転運動エネルギーは位置エネルギーに変換され、ヨーヨーが上昇して手許に戻る。この原理は、スリープするヨーヨーでもしないヨーヨーでも同じである。

上下する技だけでなく、「ループ・ザ・ループ」など、ヨーヨーが周回するトリックにおいても、位置エネルギーと運動エネルギーの巧みな変換を心がけることが重要である。あの技は、手の回転によって周回のエネルギーを与えているのではなく、ヨーヨーが手の上を通って手の下に潜るときの位置エネルギーをできるだけ殺さずに、上向きの運動に変換することによって実現されている。

疑似科学

残念ながら、悪用もされている。

位置エネルギーを持つ物体は、それ自体がったり熱くなったりしないため、素人にはエネルギーを持っているように見えない。そのため、これを悪用すれば、からエネルギーが発生したように見えてしまう。

ときたま発表される「エネルギー」の中には、こっそり位置エネルギーを応用しているものがある。
物体を上から下に落とす機構を含むものはほとんどがそうである。「永久機関」を称することもあるが、もちろんそんなものは実在しえない。すぐに動きが止まってしまうか、見えないところでこっそり位置エネルギーを補充している(下に行った物体を上に戻している)かのどちらかである。

これらが位置エネルギーを用いたものなら、これまで散々書いてきたように「物体の質量」と「物体の落差」で位置エネルギーは決まり、それ以上のエネルギーはどう逆立ちしても得ることはできない。

無重力空間では位置エネルギーはゼロになるか

数式の上ではイエスである。

しかし、実際の宇宙空間では、全な重力というのはあり得ない。万有引力距離の2乗に例して小さくなっていくが、距離がどれだけ離れようとゼロにならない。すなわち、万有引力が極めて小さくなるほど離れていても、その位置から地球の地表面まで積分しただけの位置エネルギーを持っており、(他の体の重力などに引っられない限り)少しずつ地球に向けて引っられていき、減少した位置エネルギーの分だけ運動エネルギーが増加していく。

重力以外の位置エネルギー

関連動画

関連静画

関連項目

脚注

  1. *有効数字とかは気にしないで下さい。お願いだから。
  2. *本来の重力速度は、地球が自転する際の遠心力空気の浮力も加味した値だが、ここでは考えない。
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