八田知家とは (ハッタトモイエとは) [単語記事]

八田知家（？～？）とは、平安時代末期から鎌倉時代にかけて活躍した武将である。

概要

宇都宮宗綱の庶子で常陸国新治郡八田を本拠とした。宇都宮朝綱や寒河尼とは兄弟である。しかし、系図類などでは源義朝の御落胤ということになっている場合があるが、たぶんそんなことはない。

出自と生没年について

上述の通り、島津忠久等と同様子孫の祖先顕彰の対象になった結果何がなんやらわからなくなり、江戸時代以降に作られたソースの存在しない伝説が基本的な情報すら覆い隠している人物の一人である。

その最たる例が彼の出身氏族であり、まず『尊卑分脈』の「小田氏流系譜」では藤原道兼の子孫、『系図簒要』の「宇都宮氏系図」、「小田氏系図」、「宍戸氏系図」では多分藤原氏ということになっており、もともとは藤原氏扱いされていた。

一方『続群書類従』の「小田系図」、「宍戸系図」では宇都宮氏の男子を源義朝が育てた程度の記載なのだが、東京大学史料編纂所所蔵「小田本宗支族系図」、「小田一族大系図」、「小田一流系図」（『筑波町史』収録）では源義朝子息、新善光寺蔵本「宍戸家系図」では源義朝と八田尼の間に生まれ八田宗綱の猶子、石田榮男蔵本「小田嫡流略系譜」では源頼朝の兄（なお、この本はおそらく小田成朝の作成）、上大島善照寺蔵本「土浦等覚寺大島善性寺両寺俗姓系図」では源義朝の四男とする。つまり、清和源氏嫡流の出身なのである。

なお、個人像本「宇都宮正統系図」ではさらに藤原氏、清和源氏、桓武平氏の内房総平氏の様々な系譜にいるのが彼ともしている。

早い話、『尊卑分脈』を除くと江戸時代から明治維新以降の近世・近代にしか起源を持たない、全く出典として役に立たない系図史料が語っているだけなのである。なお、「茂木文書」の治承4年（1180年）11月に、「下野国本木郡住人藤原友家」が地頭になった記載があり、これが八田知家だとすると、やはり彼は藤原氏なのかもしれない。

さらに、彼の生没年に至っても、こうした江戸時代以降の系図史料にしか載っておらず、しかもある点において盛大な矛盾が発生しているのである。とりあえず、系図の中で、生没年が記載があるもの（なお、半分以上は記載がない）を見ていこう。

史料名	生年	没年	享年
系図簒要		建保6年（1218年）3月13日	73歳
東京大学史料編纂所所蔵小田一流系譜上・小田系図	康治元年（1142年）2月13日		75歳
源姓岡見系図		建保6年（1218年）3月3日	75歳
続群書類従小田系図	康治元年（1142年）2月13日		75歳
常陸志料小田氏譜		建保6年（1218年）3月3日、あるいは2月12日	75歳
常陸八田家小田氏系図	康治3年（1144年）2月13日	建保6年（1218年）3月3日	76歳

これらを列挙だけすると、いかにも一定の規則性があるように思われる。しかし、その最大の問題が、八田知家が承久3年（1221年）の承久の乱の時の『吾妻鏡』にまだ存命の人間として出てくることである。また、『尊卑分脈』を筆頭にした中世系図には全く生没年が出てこず、確かに生年は保元の乱より前なのだが、これが事実かどうか検証するすべもない。

よって、八田知家の生没年は、全くわからんとしか言えないのである（ただし、承久4年（1222年）に筑後入道こと八田知家が既に亡くなっていることが吾妻鏡に出てくるため、おそらく没年は1221～1222の間ではある）。

生涯

上述の通り生没年は不明だが、『保元物語』で保元元年（1156年）の保元の乱に参戦してることになっており、その場合ものすごい古参の人物となる。源頼朝の挙兵に従い、下野国茂木郡の地頭職を安堵された。寿永2年（1183年）（『吾妻鏡』では養和元年（1181年）になっているが）の志田義広が頼朝に対しで挙兵した際には小山朝政らとともに野木宮の戦いで勝利している。

その後も平家追討にあたったが、文治元年（1185年）に頼朝の許可を得ずに右衛門尉に任官したため不興を買うこととなった。文治5年（1189年）以前に常陸国守護となっており、奥州合戦の時は千葉常胤とともに東海道大将軍を務め、建久2年（1191年）には北陸道管領の命を受ける。

なお、以後も常陸平氏の多気義幹を建久4年（1193年）に讒訴、同年には下妻弘幹を梟首、建仁3年（1203年）には阿野全成を殺害するなど、幕府の統治に粛々と参画していた。

源頼家の訴訟親裁が停止し合議制がとられた際は十三人の御家人の一人となり、承久の乱では宿老として鎌倉にとどまった。なお、おそらくこの頃筑後守になっていたため、名字は筑後に変わっているようだ。没年は『吾妻鏡』にすら出てこず、当然同時代史料もないため全くの不明だが、おそらく前述の通り、承久の乱のすぐ後に亡くなっている。。