安達が原

げに侘人の習いほど　悲しきものは　よもあらじ

かかる憂き世に秋の来て　朝げの風は身にしめども

胸を休むることもなく　昨日もむなしく　暮れぬれば

まどろむ夜半ぞ　いのちなる　あら定めなの生涯やな

安達が原とは、手塚治虫の漫画である。『週刊少年ジャンプ』1971年3月22日号に読み切りとして掲載され、新『ライオンブックス』のトップを張る作品。

概要

総ページ数59からなるSF。

安達ヶ原の鬼婆伝説(黒塚)がプロットの下敷きになっており、所々に能の『安達ヶ原』の一説が差し込まれるなど重層的な作風が特徴。

手塚の死後、1991年に坂口尚を監督に迎えアニメ化している。坂口にとっては本作が遺作となった。

ストーリー

宇宙屈指の殺し屋ユーケイはダモクレス大統領直々の命を受け、宇宙船を呼び寄せてはその乗組員を殺しているという魔女が住まうへんぴな星へ降り立つ。

不時着を装い魔女の館へと訪問すると、出てきた白髪の老婆は意外にも手厚く持て成してくれる。

毒消しを入れてからその手料理を味わい、案内された寝室で寝付くふりをして部屋をよく観察すると、毒ガスを注入する用の穴を発見。そこをレーザーで焼き切り、秘密の地下室へ立ち入るとそこには老婆の手にかかって死んだであろう宇宙船乗組員の白骨死体がごろごろ転がっていた。

遺体の肉が剥ぎ取られていることから人肉食を想起したユーケイは、そのことを詰問した途端無言でガスを放ってきた老婆に激高しヒートガンで応戦。放電する館の施設を投石で破壊して逃げ惑う彼女を観念させる。

老婆は死に土産にとユーケイに身の上話をせがむと彼はその最後の願いを聞き入れ、本名はジェス三森であることやかつては過激派の運動家だったこと、アンニー黒塚という名の恋人がいたこと、謀反罪と騒乱罪の罪を言い渡され30年のコールドスリープのち流刑星へ流れ着いたこと、反政府運動が成功しかつて敵視していた大統領はとっくの昔に自殺していたこと、地球へ30年がかりで帰り現大統領ダモクレスから革命の戦死として褒め称えられ宇宙捜査官の仕事を授かったこと、アンニ―が30年以上前に地球を逃げ出し消息不明だということとそれを知ってからは大統領のために命を捨て宇宙狭しと駆けずり回る殺し屋として働き続けてきたことを語った。

老婆はそれらを聞くと、革命自体は成功したが新しく就いた大統領もやがて欲に目がくらみ私利私欲のため都合のいい政治を振りかざす暴君に成り下がっていったこととアンニ―を始め多くの者が新政府と闘い、敗れて宇宙に逃げたが一人また一人と追っ手に消されていったことを話す。

そう、目の前の魔女のような老婆こそアンニ―だったのだ。彼女はしぶとく生き延びていた。恋人が流刑星からやってくるのを願い何十年も名もない星の上で。

ときに政府から殺し屋が使わされてきたが、アンニ―はそれらを殺し、待ち続けるためその死肉を食らった。

そしてとうとう恋人はやって来た。見た目は昔と変わらないが、権力の犬になりはてた姿で。

かつての恋人の名を叫ぶユーケイに、ここにいるのはアンニ―ではなく汚れた人喰いだと自嘲気味に話し、任務遂行のため自身へのトドメを促す老婆。

その言葉通り老婆をこの世から消し去ると、誰もいないキッチンへ立ち入ったジェスは、新政府の薬を使ったことでさっきは気づけないでいたかつての恋人の手料理を手づかみで貪った。

関連チャンネル

関連リンク

• 手塚治虫オフィシャルサイト 安達が原

関連項目

• 能
• 安達ヶ原
• 手塚治虫
• 漫画作品一覧