マクスウェルの悪魔とは、スコットランドの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルが考えた思考実験、またはその思考実験に登場する悪魔の名前である。
正確で堅苦しい説明は、例によってWikipediaの当該項目を参照。
例えば、AとBという二人を想定しよう。「彼らがジャンケンをして、Aが勝つ確率はどれだけか?」を考えてみる。
彼らはあなたの頭の中でジャンケンを始める。Aがグーばっかり出す癖をBが知っているとかでない限り、勝負は五分ではないかとあなたは考えるだろう。
これこそが思考実験である。「要するに妄想だろ?」正しい。学者という人種は、ムツカシそうな名前をつけるのが大好きなんである。
「あの子にこの子がヘタレ攻めしたらどういう展開になるか?」も立派な思考実験の一つであると言える・・・かも。
一応真面目にいうと、理論構築に矛盾がないか検討したり、新しい知見を得るためこれまでの理論を再検討したりするときに、現実には不可能な(だが理論上は何の問題もない)実験を想定することが有用なことは少なくなかったりする。
物理学や数学、哲学の世界では思考実験の結果度々悪魔が誕生するらしい。全知全能の存在やなんでもできてしまうとっても便利な存在を物理学では悪魔と呼ぶのだが、宗教の世界ではそういう存在を神と呼ぶのにはなんとも奥ゆかしさを感じる。
などの言い方で説明される法則である。(信じられないかもしれないが、熱力学的にはこれらはすべて同じことを説明している)。エントロピー増大の法則と呼ばれたりもする。(エントロピーは乱雑さを表す指標。大きいほど乱雑。)
つまり、整然とした状態から乱雑な状態にひとりでになることはあっても、乱雑な状態がひとりでに整然とした状態になることはない、ということを熱力学第二法則は言っている。
乱雑な状態を整然とした状態に持っていくには必ず質の良いエネルギーを注がねばならない。あるいは、質の悪いエネルギーから質の良いエネルギーに変換する過程で乱雑さが増大してしまう(たとえば蒸気機関は温度差がある整然とした状態を温度差がない乱雑な状態にする過程を利用して熱エネルギーの一部を運動エネルギーに変換している)。
我々の経験から言ってもごく常識レベルの何の変哲もない法則だが、世の中にはこのことを説明するために分厚くて意味不明な数式だらけの本が何冊も出ている。つまり奥が深い。
しかし、マクスウェルさんは「こうすれば熱力学第二法則は破れるんじゃね?(意訳)」という思考実験を発表した。
図にすると以下のようになる。(●:暖かい分子 ●:冷たい分子 ㋮:マクスウェルの悪魔)
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● | ㋮ | ● | ● | |||||||
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⇓
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● | ● | ㋮ | ● | ● | ||||||
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マクスウェルの悪魔のおかげで平均的に温度差の無い部屋が温度差のある状態になった。
空気分子の速い・遅いは、すなわちその空気が熱い・冷たい状態であることを示している(分子の運動が速いほど熱い)。マクスウェルの悪魔は分子に直接干渉しないため、選別するには分子がひとりでに悪魔の所にたどり着く必要があるが、十分時間が経てば問題ない。
つまり、マクスウェルの悪魔が存在すればエネルギーを使わずともひとりでに熱い部屋と冷たい部屋を作ることが出来ることになり、これは熱力学第二法則に反している。
ここで問題となるのはこの悪魔が実在するかとか、そんな操作が実際できるのかとか言ったことではないが、マクスウェルさん本人をはじめ、「そんな奴いるわけねーだろ妄想乙wwww」「その悪魔働かせるのにエネルギーいるんじゃね?」「っていうかそんな窓作れんの?」といった調子で深刻に考えるものはいなかった。
ところが、後には厳密な量子論まで交えても、少なくともエネルギーを全く消耗することなく上記の動作をさせることが理論上可能である、ということがわかってきて『この悪魔が絶対に存在し得ない』ことを理論的に説明することができない、難問だということがわかってきた。マクスウェルの悪魔はあくまでも分子フィルターの一種であり、分子がフィルターを通るか通らないかによって分子のエネルギーは変化しないのだ。
この悪魔は、長い間科学者の頭を悩ませることとなる。
熱力学第二法則は科学の根幹をなすものの一つで、これが否定されるということはこれまで人類が営々と積み上げてきた科学がまるっと否定されるのと同じなのだ。
もし、この悪魔が存在するとどうなるか?エネルギーを使わずとも温度差のある部屋を作れるということは、それを利用してエネルギーを取り出せる…つまり質の悪いエネルギーから質のいいエネルギーを無制限に取り出す永久機関が作れるということになってしまう(第2種永久機関という)。
この疑問は発表された1871年から111年後の1982年に、IBMの研究員によってようやく解決された。大雑把にいうと「マクスウェルの悪魔は分子の運動が遅い・早いといった観測を記憶せねばならず、『情報(記憶)の消去』という過程を経なければ繰り返し使えない」というような論旨である。
「情報」とか「記憶」などというと奇妙に感じるが、誤解を恐れずに日常的な感覚で近い言葉を言うなら「状態」と考えたほうが分かりやすいかもれしれない。「マクスウェルの悪魔(使用前)」が上記の作業をすると「マクスウェルの悪魔(使用後)」になり、繰り返し作業をさせるためには(使用後)を(使用前)に戻す必要があってそれにはエネルギーが必要、だからエネルギーなしでは無尽蔵に熱を移動することができない=熱力学第二法則に従う……と、考えるとなんとなーく理解できたような気がしなくもならなくはないだろうか。
この時、「使用前から使用後になるとき」にはマクスウェルの悪魔はエネルギーやそれに類する何かを消費しない(いっときはそこの過程のどこかでエネルギーが必要だと考えられたりしていた)。(使用後)を(使用前)に戻す、という所にエネルギーが必要、というのは一種の盲点とも言え、それが長年科学者を悩ませていたのだ。
(使用前)は情報的に整然とした状態であり、(使用後)は情報的に乱雑な状態である。情報量にも乱雑さの尺度であるエントロピーを定義することができるため、エントロピーという共通の尺度を使うことでエネルギーと情報を結びつけることができるようになるのだ。
「部屋Lから速い分子が来たら窓を開ける」ためには「悪魔の所に速い分子が来た」という観測結果を記憶しなければならない。次の仕事をするためには「さっき速い分子が来た」という記憶をあえて忘れなければならず、それにはエネルギーが必要なのだ。覚えることにエネルギーを費やし何もしなければどんどん忘れていく人間にしてみればうらやましい話である。
勿論、無尽蔵に(使用前)を用意してもよい。「(使用前)という状態」(乱雑さが無い情報源)は「エネルギー源」と同一視できる、というのが結論である。
かくして退治された(議論がないわけではないが)マクスウェルの悪魔であったが、逆に言えばその条件の範囲内であれば上記の思考実験のような操作は可能である、ということでもある。「情報をエネルギーに変える」という(゚Д゚)ハァ?なことが理論上実現可能とされたのだ。
例えばこの結論から、情報を操作するメカニズムに関係なく、計算機の省エネ技術がどんなに進歩しても、計算の過程でどうしても削減できないエネルギーが存在することを導くことができる。
そして実際に2010年の11月には、中央大学と東京大学が共同でマクスウェルの悪魔と同等の操作を実現したことを発表した。さらに翌2011年にはそれと独立の手法で米テキサス大学でもマクスウェルの悪魔の実現を発表。今後の研究が待たれる。
わかりやすい。マジオススメ。(ただし初版が書かれたのが、上記の1982年の解決より前のため、そのへんの記述は厚くない。決定版と言える書籍はいまのところ洋書「Maxwell's Demon 2: Entropy, Classical and Quantum Information, Computing」しかなく、邦訳が待たれる)
掲示板
174 ななしのよっしん
2023/12/14(木) 15:08:52 ID: YhmVGaUmHt
マクスウェル「お前悪魔なんだからエネルギーかからねぇよなぁ?」
悪魔「えっ、それは……(ドン引き)」
違法労働させられてる可哀想な悪魔くんなのでした
175 ななしのよっしん
2024/01/16(火) 23:37:24 ID: GMf4vmCLke
マクスウェルの悪魔のメモリの容量がすごく高ければエネルギーを消費せずに温度差を作れる??
いや多分違うと思うんだけどよく分からん
176 ななしのよっしん
2024/03/07(木) 12:59:07 ID: Nr7XRNzXHR
>>175
その場合、結局のところ「ものすごく大きなメモリ(有限)」を消費しているわけだからエントロピーの法則は破られていない。
1のメモリがある悪魔100万人か100万のメモリがある悪魔1人かどちらにせよメモリそのものは有限には違いないし、選別の際はメモリそのもののエントロピーが増大してしまう。
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最終更新:2024/04/28(日) 23:00
最終更新:2024/04/28(日) 23:00
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