デルフィニア戦記とは、茅田砂胡/著、沖麻実也/イラストのファンタジー小説。略称は主に「デル戦」。
1993年から1998年にかけてC★NOVELSファンタジアから本編全18巻が刊行された。本編完結後も断続的に外伝が刊行されており、外伝は2022年現在既刊4巻。
文庫版は中公文庫より刊行されている。こちらも全18巻だが、C★NOVELS版の各巻についていた副題が数巻ごとにまとめられ、1~4巻が第1部「放浪の戦士」(全4巻)、5~7巻が第2部「異郷の煌姫」(全3巻)、8~12巻が第3部「動乱の序章」(全5巻)、13~18巻が第4部「伝説の終焉」(全6巻)となった。[1]外伝は3巻まで文庫化されている。
概要
廷臣や大貴族たちのクーデターによって命からがら逃げ延びた若きデルフィニア国王ウォル・グリーク・ロウ・デルフィンと、違う世界から落ちてきたと自称する少女(中身は少年)グリンディエタ・ラーデン(リィ)が、かつての忠臣たちとともに奪われた国を取り戻すところから始まる軍記系ファンタジー。
国王軍最強の戦士、国王軍の勝利の女神として王国奪還に尽力したリィがウォルに請われて城に留まり、数年の時を経て少女から美女へとクラスチェンジしてから第2部が始まる。やがて周辺国によってデルフィニアは侵略されるが、勝利の女神からデルフィニア王妃へとジョブチェンジしたリィは王国を助け、ウォルや個性的な仲間たちとともに幾度もの戦いを繰り広げていく。
C★NOVELSファンタジアを支えた大ヒット作で、累計発行部数は300万部を超える。リアルタイム刊行時のメディア展開こそイメージアルバムと画集が出た程度だったが、現在に至るまで多数の根強いファンを持つ。近年も2013年に出た『茅田砂胡全仕事1993-2013』にドラマCDが付属し、2014年から2018年にCDブック3枚が出たり、2017年から舞台化されたりしている。
『デル戦』の物語は完結しているが、一部のキャラクターはその後、作者の別シリーズ『スカーレット・ウィザード』と合流して『暁の天使たち』で再登場し、『クラッシュ・ブレイズ』『トゥルークの海賊』『天使たちの課外活動』と続いていき、現在も継続中。
同人誌版
なお、この作品はそもそもは『キャプテン翼』の二次創作として同人誌で書かれていた小説だった(『望園鏡』シリーズと呼ばれる)。
いったいどういうこと?と思われるだろうが、世界観は『デルフィニア戦記』と同じで、主役格2人の名前だけが日向小次郎と若島津健になっているというものである。1作目『望園鏡』は、離宮に暮らす野生児の王子・日向小次郎と、そこへ侍女として潜入してくる女装の暗殺者サラ(本名・若島津健)の物語で、『デル戦』第2部のリィとシェラのエピソードの原型にあたる。
元々オリジナル作品として構想していたものをキャプ翼二次創作として発表したらしく、好評を博してシリーズ化され、続く同人誌作品も後の様々な茅田作品の原型になっている。もちろん同人誌なので現在は通常の手段では入手不能だが、同人古書では探せば見つかるかも。デル戦本編も(気にしなければ気にならない程度だが)ほのかなBL臭があるのはつまりそういうことである。
大陸書房版
同人誌版を元に完全オリジナルに書き改め、1992年、大陸書房の大陸ノベルスから〈王女グリンダ〉シリーズとして『デルフィニアの姫将軍』『グランディスの白騎士』の2冊が刊行された(この2冊は『デル戦』の5~7巻の内容に相当する)。これが茅田砂胡の商業デビュー作になる。
しかしこれは出版社の倒産で打ち切りになってしまい、C★NOVELSファンタジアで前日譚にあたる王都奪還編から仕切り直しされたのだが、その結果『デル戦』とは一部設定や展開が異なるものになった。『デル戦』がウォルとリィの物語であるのに対し、『王女グリンダ』はリィとシェラの物語であるということが一番の大きな違いだろう。
こちらも長年入手困難になっていたが、2000年に2冊合本のうえ『王女グリンダ』としてC★NOVELSから再刊され、中公文庫版(上下巻)も出ている。
主な登場人物
- ウォル(ウォル・グリーク・ロウ・デルフィン)
- デルフィニア国王。初登場時24歳。先代国王と下働きの娘の間に出来た庶子で、その出自は本人にも秘密のまま辺境スーシャのフェルナン伯爵の子供として育てられた。先代王の死後、直系の王子・王女が次々と亡くなったことで伯爵から出自を明かされ、嫌々ながら王位に就くことになったが、ペールゼン侯爵ら改革派のクーデターで国を追われ、流浪の戦士となっていた。そんな彼が窮地をリィに救われたところから物語が始まる。
天下無双の剣士であり、公正無私で無欲、玉座には全くこだわりを見せず、それでいて腹芸にも長ける食えない性格をした、人としての器がやたらとデカい型破りな王様。その人柄で多くの味方を惹き付ける一方、庶出という出自ゆえ血統を重んじる貴族から敵視されたり、女性の気持ちが理解できなかったりする。通称「駄熊」「CCO」「獅子王」。王位奪還後、リィを養女にしたのち王妃とするが、男女の関係は一切なく、同盟者としての強い絆で結ばれている。
- リィ(グリンディエタ・ラーデン)
- 異世界から落ちてきた少女。初登場時13歳。見た目は長い金髪をなびかせる超絶美少女だが、中身は野生児(文字通りの意味で)の少年(つまり本作はある意味では異世界転生TSFでもある)。
大男を片手で持ち上げたり、何メートルもの高さの城壁を跳び越えたりといった人間離れした身体能力を持ち、また馬や狼といった獣に敬意を示される。右も左もわからない世界でたまたまウォルを助けたことがきっかけでウォルの同盟者となり、国王軍最強の戦士、勝利の女神として無双することになる。身体能力の他にも、様々な特殊な能力を持っており、デルフィニア王国の要として、そしてこの世界にあってはならない異物として各方面から命を狙われる。
ウォルが王位を取り戻したあとはウォルの養女となり、さらに王妃となるが、何しろ中身が少年なので妻としての務めは無論のこと、公的行事への出席といった王妃らしいことも一切しない。ただしどうしても必要な場合は一時的に猫を被ることはできる。
ウォルたちが何か非常に困難な状況に直面すると、だいたいリィが単独で敵地に潜入して何とかするのがお約束。その一方で、権威や体面というものに全く頓着しない(というか根本的にそれらが理解できない)ために、とんでもないトラブルを起こすことも。
- シェラ
- 第2部(5巻)から登場する暗殺者の男の娘。美しい銀髪の持ち主で、少年にも少女にも自在に化けることができる。暗殺集団ファロットの刺客としてリィを暗殺するするため侍女として王宮に潜入するが、いいようにリィにあしらわれてしまう。結局リィを殺せないまま、暗殺の指示を出していた本拠が消滅してしまい、そのままリィの侍女となる。指示に忠実に従う道具として育てられたため、自分の意志で物事を判断するのが苦手。
- イヴン
- ウォルのスーシャ時代の幼なじみで、タウ山脈の東部・ベノアの副頭目を務める自由民。タウの山賊を率いてウォルの王位奪還に大きく貢献し、デルフィニアの独立騎兵隊長となる。ウォルたちデルフィニア側と、独立独歩のタウの自由民との間を取り持つ橋渡し役だが、本人はあくまで気ままな自由民。バルロとは仲が悪い。
- バルロ(ノラ・バルロ・デル・サヴォア)
- ウォルの従弟で、デルフィニア国内でも随一の力を持つサヴォア家の公爵であり、ティレドン騎士団を率いる団長。直系の王子・王女が次々と亡くなった際、本来は王位に就くはずの立場だったが、本人は王冠を自分で被るより国王も無視できない有力貴族の立場の方がいいと、断固として即位を拒否した。頑固者で皮肉屋だが、ウォルのことは「従兄上」と呼んで強く慕う。私生活では派手な女たらしだが、後腐れを残さず関係を清算する達人。
- ナシアス
- バルロの親友でラモナ騎士団の団長。物腰は穏やかだが、鋼のような強い意志を持ち、それが最善と思えば騎士の面子など一顧だにしない手段を選ぶことも少なくない。バルロと違って過去のトラウマのせいで女性に対して奥手。バルロとの出会いと友情については外伝1巻で詳しく語られている。
- ガレンス
- ラモナ騎士団の副団長。ナシアスの盾を務めることが多い怪力の巨漢。
- シャーミアン
- ロアの領主であるドラ将軍の一人娘で、軟禁状態から監視を振り切って国王軍に馳せ参じるなど勇ましき女騎士。女の子同士(?)リィと絡むことが多い。
- ブルクス
- デルフィニアの外交官、のち宰相。デルフィニアの表も裏も知り尽くし、タンガ・パラストとの外交交渉などに優れた手腕を発揮、デルフィニアの内政を支える名宰相。
- カリン
- 王宮の女官長。先代王の時代から王室の奥の間を取り仕切ってきた女傑で、ウォルの出生にまつわる重要な真実を知る人物。4巻の彼女の告白は本作随一の名場面のひとつ。
- フェルナン伯爵
- ウォルの義父。ウォルが王位を継ぐにあたって父と呼ばせるのを断固として止めさせたほど、頑固で高潔な貴族。クーデターでウォルが王位を追われた際、ペールゼンの陰謀で投獄されてしまう。
- アエラ姫
- バルロの母で先代王の妹。バルロを王位につけることを熱望し、庶出のウォルを心底軽蔑し憎んでいるため、バルロからはほぼ絶縁状態にある。その性根のために何かと問題を引き起こす。
- ラティーナ・ペス(エンドーヴァー子爵夫人)
- 王位を取り戻したウォルの元に現れ愛妾を志願してきた女性。スーシャ時代にウォルと恋仲になり、婚約までしていたが破綻した過去を持つ。趣味は園芸。
- ロザモンド・シリル・ベルミンスター
- サヴォア家と並び立つ名家であるベルミンスター家の女公爵。男装の麗人。家庭の事情で、甥が成人するまでの間という期限付きで爵位を預かっている。ジルの姿を見てある疑念を抱くが……。
- ポーラ・ダルシニ
- 地方の下級貴族の娘で、小犬のような女性。とある晩餐会で、ウォルとリィを国王と王妃だと知らないまま出会う。
- キャリガン・ダルシニ
- ポーラの弟で、ティレドン騎士団の若手団員。
- ジル
- ベノアの頭目を務めるタウの自由民。
- ゾラタス
- デルフィニアの東に位置する山岳国・タンガの国王。苛烈な実力主義者で、デルフィニアの肥沃な国土を求めて侵略を目論む。
- オーロン
- デルフィニアの西にある隣国・パラストの国王。「大狸」と呼ばれる謀略家で、周辺国の利用や内部からの反乱の扇動など様々な手段でデルフィニアの切り崩しを狙う。
- ヴァンツァー
- シェラの命を狙うファロットの暗殺者。
- レティシア
- ファロットの暗殺者。女性の名前だが青年。痛覚がなくどんな負傷を負っても平然とし、また人を殺すことに対して何も感じない。物語後半からリィの命を狙う。
- ルウ
- リィの相棒。
関連商品
C★NOVELS版
中公文庫版
王女グリンダ
その他
関連項目
脚注
- *ただし、文庫版の5巻以降の区切りは便宜上のもので、4巻と5巻の間ほど話ははっきり区切られてはいない。C★NOVELS版では5巻から最終巻までが第2部という扱い。