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アスピリン(Aspirin)とは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一種であり、世界で初めて人工合成された医薬品である。
概要
正式名称は「アセチルサリチル酸」。サリチル酸を無水酢酸でアセチル化して作られる。バファリンやケロリンなど市販の解熱鎮痛薬で有効成分として古くから使用されている超メジャーな薬であり、高校化学でも習う。
主な作用は消炎作用、鎮痛作用、解熱作用。また低用量で血小板凝集抑制(血を固まりにくくする)作用を示すため、脳梗塞や脳塞栓の治療や再発抑制にも応用される。というか、現在はアスピリンより性能の良いNSAIDsが沢山発売されているので、抗血小板薬として使用されることが多い。
副作用としては胃腸障害が多い。アスピリンは炎症に関与するプロスタグランジン類(PGs)という物質の合成に関わる酵素を抑えることで抗炎症作用を示すのだが、PGsは胃粘膜の保護にも関わっているため、PGsの合成が低下すると潰瘍などの胃腸障害が起きやすくなってしまうのである。「バファリンの半分はやさしさで出来ている」というキャッチコピーがあるが、「やさしさ」とは一緒に配合されている制酸薬のことである。逆に言えばそれだけ「やさしくない」薬といえるかもしれない。
アスピリンによって炎症反応が抑えられると、代償的にアレルギー反応に関与する物質が生合成される。その結果、喘息発作(アスピリン喘息)を誘発することがあるため、過去にNSAIDsを使用して喘息発作が出たことがある場合は投与禁忌である。また、インフルエンザや水痘に感染した15歳以下の小児に対しては、脳や肝臓の機能障害を起こすライ症候群のリスクを高めるため原則として投与しない。
歴史
紀元前から、人類はヤナギの樹皮や葉を煎じて痛み止めとして用いてきた。18世紀になるとその有効成分「サリシン(ヤナギ属=Salixに由来)」が単離され、分解産物である「サリチル酸」の合成技術が確立して鎮痛剤として用いられるようになった。しかし、サリチル酸は吐き気を催すほど苦味が強く(もともとヤナギの煎じ薬は苦かった)、酸性が強く胃が荒れやすい(前述の副作用に上乗せされる形になる)という問題があった。
1897年、バイエル社の科学者フェリックス・ホフマンがこの問題を解消したアセチルサリチル酸を純粋かつ安定した形で合成する技術を確立し、2年後の1899年に「アスピリン」の商標で販売を開始。鎮痛薬の一大ブランドとなった。ホフマンの父親はリウマチを患っており、父親が安心して飲める鎮痛薬を創りたいという想いがあったという。
「アスピリン」はバイエル社の商標だったが、世間に広く浸透したためアセチルサリチル酸そのものを「アスピリン」と呼ぶことが定着した。日本でも国が定める規格基準書である日本薬局方に「アスピリン」の名称で1932年から登録されている。
第一次大戦の接収で1918年にバイエル社の商標、社名、社章などの権利は競売にかけられ、米国の別会社が世界各地で長年「バイエルアスピリン」の商品名とバイエル社の社章を掲げて製造販売するという状況が続いた。それだけバイエル社とアスピリンのブランド力が絶大だったということである。
バイエル社はそれから76年後の1994年に全ての権利を買い戻すのに成功。現在も解熱鎮痛薬「バイエルアスピリン」や抗血小板薬「バイアスピリン」などの製造を続けている。ちなみにバイアスピリンは長期的に服用するので、胃腸障害を抑えるために腸溶錠として作られている。
余談
日本では「柳の枝を楊枝(つまようじではなく、木の枝を噛んだりしてほぐした歯ブラシ)にすると歯が疼かない」といった伝承がかつてあった。これは仏教でお釈迦様が「口臭は穢れである」として木の枝による歯磨きを推奨したことに由来している。
仏教が中国に入ると「楊柳」という柳の一種で歯ブラシ(楊枝)が作られるようになり、これが仏教と共に日本に伝わったのである。仏教では病苦からの救済を使命(本願)とする「楊柳観音」という柳の枝を持った観音様が信仰の対象になっていたりもする。
関連動画
関連項目
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