新株予約権とは、企業の財務に関する言葉の1つである。
概要
定義
新株予約権とは株式会社が発行する権利のことで、あらかじめ決められた価額で株式会社に対して株式の売却を要求できる権利のことである。
性質
新株予約権は、「期限内に要求があれば価額Aで株式をB株だけ発行します」と企業が約束し、そうしたうえで投資家などに価額Cで売却するものである。価額Cは少ない金額であることが多く、0であることもある。
企業が「価額AでBヶの株式売却を約束する新株予約権」を発行して投資家がそれを購入した後に、企業の税引後当期純利益が増えて株価が上昇して株価がAを大きく超えれば、新株予約権を取得している投資家は「すでにCを支払って損をしているが、新株予約権を行使すればCを帳消しにするほどの利益を得られる」と考えて期限内にそれを行使することが多い。
企業が「価額AでBヶの株式売却を約束する新株予約権」を発行して投資家がそれを購入した後に、企業の税引後当期純利益が減って株価が下落して株価がAを大きく下回れば、新株予約権を取得している投資家は「新株予約権を失効させても損するのはCだけだ」と考えて期限内にそれを行使せずに失効させることが多い。
このように新株予約権は購入するものにとって確定要素が少ないものである。
新株予約権の代表的な2形態
新株予約権は社内向けと社外向けの2形態に大別される。
社内向け新株予約権はストックオプションと呼ばれる。ストックオプションは、社内の従業員や取締役にその時点の株価よりも安い価額を設定されて与えられつつ「会社に在籍していないと新株予約権を行使できない」という条件をつけられることが多い。ストックオプションを与えることにより、従業員や取締役に対して「この会社に在籍し続けてこの会社の税引後当期純利益を増やして株価を上昇させよう」という外発的動機付けを与えることができる。
ストックオプションは、労働の対価として、つまり現物給与として従業員や取締役に与えられることが多い。現物給与は労働基準法第24条で原則として禁じられているが、労働協約で定められているのなら可能になる。
社外向け新株予約権は、資金の調達や敵対的買収の阻止を目的として、社外の投資家に有償または無償で与えられる。
社外向け新株予約権の代表的な2形態
社外向け新株予約権は、株主割当と第三者割当の2種類に分けられる。
株主割当は既存の株主に対して持ち株比率に応じて有償または無償で新株予約権を与えるものであり、株主割当増資や株式無償割当て(会社法第185条)とよく似たものになる。
第三者割当は既存の株主を含む人々の中から企業がある人を指名してそれに対して有償または無償で新株予約権を与えるものであり、第三者割当増資とよく似たものになる。
必要な意思決定
非公開会社[1]において新株予約権の発行数と1ヶあたり金額と内容を決定するには株主総会の特別決議を必要とする(会社法第238条第1項・第2項、第241条第3項第4号、第309条第2項第6号)。ただし、取締役会が設置されない非公開会社なら取締役の決定のみを必要とするように定款で定めることができるし(会社法第241条第3項第1号)、取締役会が設置されている非公開会社なら取締役会の決議のみを必要とするように定款で定めることができる(会社法第241条第3項第2号)
公開会社[2]において新株予約権の発行数と1ヶあたり金額と内容を決定するには取締役会の決議のみを必要とする(会社法第238条第1項・第2項、第240条第1項)。
ただし、新株予約権を発行して、特に有利な条件で譲渡して第三者割当をするには、公開会社においても株主総会の特別会議を必要とする(会社法第238条第1項・第2項・第3項第1号、第240条第1項、第309条第2項第6号)。
社外向け新株予約権の仕訳
新株予約権の発行と購入
企業が「1ヶに付き1株を20円で売る」という内容の新株予約権を1ヶ1円で100ヶ発行して投資家Aに購入してもらったとする。その場合、次のように仕訳する。
借方 | 貸方 |
銀行預金100円(資産) | 新株予約権100円(純資産) |
ちなみに企業が得られた銀行預金100円は、オプション料などとも呼ばれる。オプション料は新株予約権が行使されずに失効したときも返還する必要がなく、企業の資産として残り続けるので、企業にとって資金調達の1つとなる。
新株予約権の行使
投資家Aが期限までに「1ヶに付き1株を20円で売る」という内容の新株予約権を80ヶだけ行使し、1600円払って20円の株を80株購入したとする。企業は1600円と「行使された新株予約権の対価80円」を資本金に登録した。その場合、次のように仕訳する。
借方 | 貸方 |
銀行預金1600円(資産) 新株予約権80円(純資産) |
資本金1600円(純資産) 資本金80円(純資産) |
貸方は「資本金1680円(純資産)」と書くことが普通であるが、「行使された新株予約権の対価のみが出資されたことにする」という事実を理解するためにあえてこのように記述した。
出資された1680円の全額を資本金にせず、1/2以下の金額を資本準備金に登録してそれ以外を資本金に登録することも可能である。
新株予約権の失効
投資家Aが新株予約権100ヶの中の20ヶを期限までに行使せずに失効させた。その場合、次のように仕訳する。
借方 | 貸方 |
新株予約権20円(純資産) | 新株予約権戻入益20円(収益) |
失効した新株予約権の対価は、出資されたことにならず、新株予約権戻入益という特別利益(収益)として計上する。損益取引で生まれる利益として扱う。
社内向け新株予約権(ストックオプション)の仕訳
新株予約権を発行してもすぐに仕訳をせず、期末に仕訳をする
期首において、企業が「1ヶに付き1株を20円で売る。2年勤務した後に行使することができる」という内容の新株予約権を100ヶ発行して従業員Bに現物給与として与えたとする。その時点では、企業にとって無償で与えるのであるから、仕訳を行わない。
期末になって、従業員Bに与えた新株予約権を現物給与として計算する。従業員Bが持つ新株予約権100ヶの「公正な評価単価」というものを測定する。仮に「公正な評価単価」が100円と測定されたのなら、それが行使されるまでの2年間の中で1年が経過したのだから、100円×1/2と計算して50円を計算する。つまり「この1年で50円の現物給与を払った」と計算する。そして、次のように仕訳する。
借方 | 貸方 |
株式報酬費用50円(費用) | 新株予約権50円(純資産) |
2年目の期末になっても「この1年で50円の現物給与を払った」と計算する。そして、次のように仕訳する。
借方 | 貸方 |
株式報酬費用50円(費用) | 新株予約権50円(純資産) |
株式報酬費用は給与手当(費用)の一種であり、販売管理費(販管費)の一種である。
新株予約権の行使
2年目の期末に従業員Bが「1ヶに付き1株を20円で売る」という内容の新株予約権100ヶのなかで80ヶを行使し、1600円の銀行預金の払い込みをした。企業は1600円と「行使された新株予約権の対価80円」を資本金に登録した。その場合は次のように仕訳する。
借方 | 貸方 |
銀行預金1600円(資産) 新株予約権80円(純資産) |
資本金1600円(純資産) 資本金80円(純資産) |
新株予約権の失効
2年目の期末に従業員Bが「1ヶに付き1株を20円で売る」という内容の新株予約権100ヶのなかで20ヶを失効させた。その場合は次のように仕訳する。
借方 | 貸方 |
新株予約権20円(純資産) | 新株予約権戻入益20円(収益) |
関連項目
脚注
- *非公開会社とは、「全部の株式が譲渡制限株式であり、譲渡するときに株式会社の承認を必要とする株式である」と定款で定めている株式会社のことをいう(会社法第2条第5号)。
- *公開会社とは、「全部または一部の株式が非譲渡制限株式であり、譲渡するときに株式会社の承認を必要としない株式である」と定款で定めている株式会社のことをいう(会社法第2条第5号)。証券取引所に株式を上場している株式会社(上場会社)は、原則としてすべてが公開会社である。
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