概要
定義
株主総会とは、株式会社の最高意思決定機関であり、全員が株主で構成される。
株式会社の意思決定機関には株主総会の他に取締役会がある。取締役会は全員が取締役で構成され、会社の業務執行についての決定を行うことが主である(会社法第362条)。
一方で株主総会は会社についての最高の意思決定をすることができる。取締役の選任・解任を行うこともできるし、会社を解散させることもできる。
定時株主総会と株主総会集中日
定時株主総会は、事業年度が終わってから一定の時期を過ぎた後に招集しなければならない(会社法第296条第1項)。日本では事業年度を1年に設定する企業が大多数なので、定時株主総会が1年に1回開催される企業が大多数である。
日本では3月末を決算日にして事業年度を終える企業(3月期企業)が多く、そういう企業の中では「6月の最後の平日の前の平日」を定時株主総会の開催日にする企業が多い。この「6月の最後の平日の前の平日」を株主総会集中日という。
株主総会の翌日を平日にすることで、株主総会の翌日に配当の銀行振り込みを行うことができる。企業としては、月の最後の平日に銀行振り込みする方が何かと分かりやすくて好都合である。
2022年の株主総会集中日は6月29日であり、3月期企業の26.0%が定時株主総会を行った(記事)。1995年の株主総会集中日には3月期企業の96.2%が定時株主総会を行っていたが、それに比べるとだいぶ分散が進んでいる。「株主総会集中日を避けて定時株主総会を行い、株主が参加しやすいようにしよう」という意識の表れと言えるし、「日本に株主資本主義が浸透し、『物言う株主の言うことを聞かなければならない』という認識が広がった」ということもできる。
臨時株主総会
臨時株主総会は、必要がある場合に召集されるものである。必要があるのならいつでも召集できる(会社法第296条第2項)。
召集する人
ただし、議決権比率が3%以上の株主が会社法第297条第3項に基づいて取締役に株主総会の召集を請求したあとに8週間経っても取締役が株主総会の招集をしないのなら、その株主が裁判所の許可を得て株主総会の招集をすることができる(会社法第297条第4項)。
召集の場所
株主総会はどこで開催してもよい。ただし、一部の株主の参加が難しいような場所で株主総会をおこなうなどのように著しく不公正な場合は、その株主総会の決議が取り消しになる可能性がある(会社法第831条第1項)
議決権
1株1議決権の原則に従い、株主総会における議決権の数を1株ごとに1議決権と定めることが多い。
ただし、定款で単元株制度を採用して、株主総会における議決権の数を1単元の株式ごとに1議決権と定めることがあり得る。その場合、1単元に満たない単元未満株式を持つだけの株主は議決権を持たない。
会社が保有する自己株式には、議決権が発生しない。株主総会で議決権を得られるのは株主だけである。
3種類の決議
株主総会は普通決議と特別決議と特殊決議という3種類の決議をする。この決議が株式企業の最高意思そのものになる。これらの決議には違いがあるので本記事にて後述する。
普通決議
普通決議が成立するための条件
株主総会の普通決議を行うには、定款に別段の定めがないのなら、次の2つの条件を満たす必要がある(会社法第309条第1項)。
普通決議の成立条件
1.は定足数(出席数)の条件であり、2.は表決数(賛成数)の条件である。
定款で1.の「半数を超えている」を緩和したり強化したりすることができる。しかし、定款で2.の「半数を超えている」を緩和したり強化したりすることができない[1]。
ちなみに役員を選任・解任する普通決議は、定款で定めることにより、1.の「半数を超えている」を「『1/3以上の数字』以上」に緩和したり強化したりすることができるし、2.の「半数を超えている」を「『半数以上の数字』以上」に強化することができる(会社法第341条)。
以下のたとえ話で成立条件を確認できる。
単元株制度を採用する企業があり、2株が1単元であるとする。100株を発行していて、1株(議決権0)を保有する株主が10人、2株(議決権1)を保有する株主が45人とする。「議決権の総数」は45である。
普通決議を行うには、「株主総会に出席する議決権保有株主たちの議決権の合計」が(45の1/2は22.5で、それを越える必要があるので)23以上でなければならない。
また、「株主総会に出席する議決権保有株主たちの議決権の合計」が23である場合、普通決議を行うには、(23の1/2は11.5で、それを越える必要があるので)12以上の議決権が行使されねばならない。
普通決議で決定される事項
普通決議で決定される事項の代表例は以下の通りであり、特別決議で決定される事項よりも重大度が低い。
- 合意による自己株式の取得(会社法第156条)
- 会計監査人の選任(会社法第329条第1項)
- 会計監査人の不再任(会社法第338条第2項)
- 会計監査人の解任(会社法第339条第1項)
- 取締役会非設置会社における取締役の競業取引等の承認(会社法第356条第1項、第365条第1項)
- 役員の報酬等(会社法第361条第1項、第379条第1項、第387条第1項)
- 取締役会非設置会社における取締役の補償契約、D&O保険の内容の決定 (会社法第430条の2、会社法第430条の3)
- 剰余金の配当(会社法第454条第1項)
- 「定時株主総会の日における欠損補填」を目的とする資本金の額の減少(会社法第447条第1項・第309条第2項第9号)
- 準備金の額の減少(会社法第448条第1項)
- 剰余金の額の減少による資本金・資本準備金の増加(会社法第450条第2項、第451条第2項)
- 剰余金についてのその他の処分(会社法第452条)
特別決議
特別決議が成立するための条件
株主総会の特別決議を行うには、定款に別段の定めがないのなら、次の2つの条件を満たす必要がある(会社法第309条第2項)。
特別決議の成立条件
1.は定足数(出席数)の条件であり、2.は表決数(賛成数)の条件である。
定款で1.の「半数を超えている」を「『1/3以上の数字』以上」に緩和または強化できるし、2.の「2/3以上」を「『2/3以上の数字』以上」に強化できる。
以下のたとえ話で成立条件を確認できる。
単元株制度を採用する企業があり、2株が1単元であるとする。100株を発行していて、1株(議決権0)を保有する株主が10人、2株(議決権1)を保有する株主が45人とする。「議決権の総数」は45である。
特別決議を行うには、「株主総会に出席する議決権保有株主たちの議決権の合計」が(45の1/2は22.5で、それを越える必要があるので)23以上でなければならない。
また、「株主総会に出席する議決権保有株主たちの議決権の合計」が23である場合、特別決議を行うには、(23の2/3は15.333で、それ以上である必要があるので)16以上の議決権が行使されねばならない。
特別決議で決定される事項
特別決議で決定される事項の代表例は以下の通りであり、普通決議で決定される事項よりも重大度が高い。
- 譲渡制限株式の買取り(会社法第140条第2項)
- 特定の株主から自己株式の取得(会社法第156条第1項)
- 全部取得条項付種類株式の取得(会社法第171条第1項)
- 募集株式等の募集事項の決定(会社法第199条第2項、第238条第2項)
- 募集株式の第三者割当の有利発行(会社法第199条第2項、第309条第2項第5号)
- 新株予約権付社債の発行(会社法第248条)
- 「定時株主総会の日における欠損補填」以外の目的での資本金の減少(会社法第447条第1項)
- 現物配当(会社法第454条第4項)
- 定款の変更(会社法第466条)
- 事業譲渡の承認(会社法第467条)
- 解散(会社法第471条第3項)
- 吸収合併等(会社法第783条第1項、第795条第1項)
- 新設合併等(会社法第804条)
特殊決議
会社法第309条第3項に基づく特殊決議が成立するための条件
発行株式の全部につき譲渡制限を設ける旨の定款変更の承認や、公開会社を消滅会社として既存株主に譲渡制限株式を交付する吸収合併契約・新設合併契約・株式交換契約・株式移転契約の承認には、「会社法第309条第3項に基づく特殊決議」が必要となる。
株主総会の「会社法第309条第3項に基づく特殊決議」を行うには、次の2つの条件を満たす必要がある。
ただし、定款に定めることで、1.の中の「半数以上」や2.の中の「2/3以上である」をさらに大きな割合の数字に強化することもできる。
以下のたとえ話で成立条件を確認できる。
単元株制度を採用する企業があり、2株が1単元であるとする。100株を発行していて、1株(議決権0)を保有する株主が10人、2株(議決権1)を保有する株主が5人、80株(議決権40)を保有する株主が1人だとする。「議決権保有株主の総数」は6であり、「議決権の総数」は45である。
「会社法第309条第3項に基づく特殊決議」を行うには、議決権保有株主が3人以上賛成し、なおかつ、(45の2/3は30なので)30以上の議決権が行使されねばならない。
80株を保有する大株主が1人だけ賛成したとしても、2株を保有する5人の株主のうち4人が反対に回れば、議決権保有株主が2人賛成しただけなので、「会社法第309条第3項に基づく特殊決議」を行えない。
2株を保有する5人の株主が全員賛成したとしても、80株を保有する大株主が反対に回れば、議決権が5つ行使されただけなので、「会社法第309条第3項に基づく特殊決議」を行えない。
会社法第309条第4項に基づく特殊決議が成立するための条件
会社法第109条第2項において「公開会社ではない株式会社は、剰余金の配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利や株主総会における議決権について株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる」と定められている。しかし、そうした定款を定めるには「会社法第309条第4項に基づく特殊決議」が必要となる。
株主総会の「会社法第309条第4項に基づく特殊決議」を行うには、次の2つの条件を満たす必要がある。
ただし、定款に定めることで、1.の中の「半数以上」や2.の中の「3/4以上」をさらに大きな割合の数字に強化することもできる。
以下のたとえ話で成立条件を確認できる。
単元株制度を採用する企業があり、2株が1単元であるとする。100株を発行していて、1株(議決権0)を保有する株主が10人、2株(議決権1)を保有する株主が5人、80株(議決権40)を保有する株主が1人だとする。株主の総数は16であり、「議決権の総数」は45である。
「会社法第309条第4項に基づく特殊決議」を行うには、株主が8人以上賛成し、なおかつ、(45の3/4は33.75なので)34以上の議決権が行使されねばならない。
80株を保有する1人と2株を保有する5人が賛成したとしても、1株を保有する10人のうち9人が反対に回れば、議決権保有株主が7人賛成しただけなので、「会社法第309条第4項に基づく特殊決議」を行えない。
1株を保有する10人と2株を保有する5人が全員賛成したとしても、80株を保有する大株主が反対に回れば、議決権が5つ行使されただけなので、「会社法第309条第4項に基づく特殊決議」を行えない。
議決権比率などによって株主総会での存在感が変化する
議決権比率
株主Aの議決権比率(%)=(株主Aが保有する議決権÷企業が株主たちに与えた議決権の総数)×100
持ち株比率
株主Aの持ち株比率(%)=(株主Aが保有する株式の数÷企業が株主たちに与えた株式の総数)×100
議決権比率と持ち株比率の関係
すべての企業は、以下の3通りに分けられる。
①単元株制度を採用しない企業なら、株式の数がそのまま議決権の数になるので、議決権比率と持ち株比率が一致する。
②単元株制度を採用していて単元未満株主が存在しない企業なら、株式の数がそのまま議決権の数になるので、議決権比率と持ち株比率が一致する。
③単元株制度を採用していて単元未満株主が存在する企業なら、株式の数がそのまま議決権の数になるわけではないので、議決権比率と持ち株比率が一致しない。
ただし③の場合も、単元未満株主の勢力が非常に少ないことが多く、議決権比率と持ち株比率がほとんど一致することが多い。
議決権比率などにより株主総会で行使できる権利が変化する
議決権の数や議決権比率により、株主総会で行使できる権利などが変化する。
条件 | 行使できる権利 |
株式1つを保有する | 株主総会出席権、株主総会議事録閲覧権(会社法第318条第4項) |
議決権1つを保有する | 株主代表訴訟権(会社法第847条)、取締役会非設置会社における株主総会の議案提出権(会社法第303条第1項) |
議決権比率が1% | 取締役会設置会社における株主総会の議案提出権(第303条第2項) |
議決権比率が3% | 株主総会の招集を取締役に要求する権利(会社法第297条第1項)、会計帳簿閲覧謄写請求権(会社法第433条第1項) |
議決権比率が25%を超える、1/4を超える(25.1%など) | 「会社法第309条第4項に基づく特殊決議」を単独で阻止できる |
議決権比率が33.333...%を超える、1/3を超える(33.4%など) | 特別決議を単独で阻止できる |
議決権比率が50%、1/2 | 普通決議を単独で阻止できる |
議決権比率が50%を超える、1/2を超える(50.1%など) | 普通決議を単独で行える |
議決権比率が66.666...%、2/3 | 特別決議を単独で行える |
議決権比率が97%を超える(97.1%など) | 他の人の「株主総会の招集を取締役に要求する権利」や会計帳簿閲覧謄写請求権の行使を阻止できる |
議決権比率が99%を超える(99.1%など) | 他の人の「取締役会設置会社における株主総会の議案提出権」の行使を阻止できる |
議決権比率が100% | 他の人の株主代表訴訟権や「取締役会非設置会社における株主総会の議案提出権」の行使を阻止できる |
持ち株比率が100% | 他の人の株主総会出席権や株主総会議事録閲覧権の行使を阻止できる |
関連項目
脚注
- *会社法第309条第1項は「株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」と書かれている。この中で「定款に別段の定めがある場合を除き」は「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し」のみに掛かり、「出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」には掛からない。
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