ジャンク楽器再生リンクとは (ジャンクガッキサイセイリンクとは) [単語記事]

うんざりするほど聴かされていたBGMは聞こえてこない。
いつの間に眠っていたのだろう。腫れぼったい瞼をグシグシと擦る。

そこは見慣れぬ部屋。

そして、眼前に映るのはこれまた見慣れぬ男の横顔であった。

かつて主人は、私を毎日のように手入れしてくれていた。
適当な弦の張り方に苦笑はしたが、嬉しそうに弾いてくれるだけで私も嬉しくなった。
ボディに傷がついた時には、ステッカーを張って誤魔化してくれることに主人なりの思いやりを感じることもあった。

私は入門用。
ボディ材が何なのかだって知らない。
何処で生まれたのかだって定かではない。
でも、楽器としてこういう人生を送るのも悪くないのかな。などと思うくらいには充実していた。

５枚目のステッカーが貼られた辺りだろうか、私は主人の態度の変化を感じる。
ぞんざいに扱われて角の塗装が剥がれたが、そこに新たなステッカーが貼られることはなかった。
プレーン弦が赤錆色に染まるものの、それを気にする様子は見て取れなかった。

やがて、ナットの緩んだジャックを指で強引に締め付けられた時、私は鈍い断裂音とともに声を失った。

アンプに繋いでも声ひとつ出せない私に向けられたのは、「不安」でも「慈愛」でもなく、「諦観」に似た主人の目であった。

それからどれだけの月日が経っただろうか。主人は突如に私を連れて外へ出た。

向かった先は近所のリサイクルショップ。

買取金額は、もはや楽器のそれと言える値段ではなかった。
その提示に、主人は一瞥もくれることなく首を縦に振る。

声にならない訴えは耳に届くはずもない。
「もしかしたらリペアコーナーへ連れて行ってもらえるのかも」という淡い期待を裏切られたショックは、主人が私に残した最後の傷となった。

”ほら、いい音でしょ？状態もいいしオススメだよ！”

”セールストーク”が試奏コーナーのアンプを通して聞こえてくる。
ほどなくして彼女は皆に別れを告げ、新たな主人に連れられて店を後にした。

「いいなー、もう買われていったんだ」
「あのコって１週間前にきたコでしょ？さすがは人気者よね」
「私も早く貰い手見つからないかなー」
「ご主人様ぁ、はやく私を見つけて連れて行ってくださいよぉ～」

キャハハハハ、と黄色い声がこちらまで届いてくる。

”ポットガリ有、ペグ有りません、音出ません、ケース無し、現状渡し”
右を見れば私同様に声を失った者が。

”ハードウェア有りません、現状渡し”
左を見れば全てが空ろとなった者が静かに横たわっている。

”打痕キズ多数、ステッカー多数貼ってます、音出ません、ケース有”
主人の後姿を見送って以来、私は誰かに触れられることも声を発することも無かった。

一日が始まり、誰とも会話をせず（もっとも、声は出ないのだが）、一日が終わる。
今日もまた同じ日が繰り返されるのだろう。これからも。ずっと。

”ポットガリ有り、チェック時音出ましたがジャンク扱い、ケース無し”
およそ同年代だろうか。隣にいた娘は私が来てから数日後、男に連れられてこの場を去った。

「私、どうなっちゃうんだろうね？」
期待と不安、泣き笑いのような顔で放ったこの一言が、初めてであり最後に聞いた彼女の声となった。

彼女の行方は知る由もない。
だが、最後に見たあの表情のせいか、いい方向に想像することは出来ない。

一筋の雫が頬を伝って落ちた。

これは、何の涙なのだろう。

主人に恵まれなかったことが悲しいから？
楽器としての生を果たせなかったことが悔しいから？
それとも、死ぬのが怖いから？

独り言をつぶやく男の傍らに何かが転がっている。
あれは―――
ネック・・・あぁぁ！私のネックだ！
「うん、掃除してたから」

あれ？声が届いてる・・・？

「音録る前にジャック直したからね。よし、ステッカー剥がす」
「な、何ですかそのスプレー？」
「CRC」
「CRC？」
「潤滑スプレー。剥がすのに便利なんだよ」

慌てふためく私の意に介さず、ステッカーは徐々に剥がれていく。
テーブルの上に私のペグが見えた気がしたが状況が判断できず、ただただ私は目を白黒させるのみであった。

ひとしきり清掃が終わる頃には、男とまともに会話できるほどには落ち着きを取り戻していた。

「それは？」
男の取り出した小さな箱。
「ディマジオ。中古だけど」
「ディマジオ？ディマジオ・・・ディッ！？」
「EMGがよかった？」
「そ、それ私に載せるんですか・・・？」
「その為に買ったんだけど」
「わ、私の値段より高いじゃないですか・・・！」
「その内フロントも換えるかな」
「それに、さっきからたくさん写真撮ってますけど何してるんですか？」
「動画用」

私は再びパニックになりかけた。

「それ・・・高い弦ですよね。それも私に？」
「俺この弦しか使わないからね」
「・・・なんで、ですか」
「弾き慣れてるし、長持ちだから」
「そっちじゃなくて、なんで私なんかに・・・」
「放っておけなかった」
「・・・どういう意味ですか？」
「よし、オクターブと弦高調整に入るよ」

「・・・完成！ほら、鏡を見てごらん」

艶めかしいハードウェア、鈍い輝きをみせるフィンガーボード、存在すら忘れかけていたコントロールノブ。
そして、中心には鈍色に輝く１２のヘクサボールピース。

「すごい・・・これが私なの・・・？」
月並みな台詞ではあるが、これ以上の言葉は浮かんでこなかった。

「ようこそ我が家へ。貴方を新たな仲間として歓迎いたします」

ハッと振り返ると、男は片眉を持ち上げひょうきんに笑う。

「お久しぶり」

その声は。間違いない。
たった数日間、あの店で共に生活をした彼女が、彼の背後からひょっこりと姿を表した。

「ようやくあなたの声が聞けたわ。素敵な声ね♪」
リアピックアップのボビンに輝く”Seymo ur Duncan"の文字。
「これからはいっぱいおしゃべりができるねっ」

悲しい。

悔しい。

怖い。

そのいずれでもない涙を、私はもう隠すことはできなかった。

「よろしくね、新入りちゃん」
嗚咽にむせぶ私の背中をさすり、優しくなだめる。

私達にとって、BGMは「聴く」ものではない。

「与える」立場なのだ。

だって、私は、”楽器”なのだから。

「・・・はい！よろしくお願いいたします、ご主人様っ！」

ジャンク楽器再生リンクとは、少女と男の心温まるお話である。

概要

リサイクルショップに並ぶ楽器類は専門店に比べると比較的安価な場合が多い。
その中でも「ジャンク品」と呼ばれるものは、故障、欠品、状態が悪いなどの理由で商品価値が低く、中古品保証の付けられない楽器（主にギター、ベースが多い）であり、大半は5000円未満、下手をすれば1000円でお釣りがくる場合もある。

購入段階ではまともに演奏できる代物ではないため修理、改造が必要となる場合が多いが、その過程や完成後の演奏を動画にした物にこのタグが貼り付けられる。

ジャンク品にありがちな故障、欠品

・ポット、ジャック部分のガリ
接触部の汚れや経年劣化によるもの。清掃で直る場合もあるが交換したほうが早い。要ハンダ付けスキル。

・音が出ない
配線やピックアップの断線。中を見るまではわからない。要ハンダ付けスキル。

・アーム、裏フタの欠品（シンクロナイズド、ロック式ブリッジ）
大抵どちらか、もしくは両方付いていない。気になるのであれば別途購入するべし。ネジ穴の位置やアームのネジピッチを確認すること。分からなければ店員に聞こう。

・ロックナット、ストラップピン、ペグの欠品
なぜこの部品が無くなるのだろう？

・チューン・O・マチック及びテイルピースの欠品
予備が無ければ新たに購入。大きい出費となってしまう。サイズに注意。

・ボディの凹み、キズ、剥がれ
ジャンク品には避けて通れない道。再塗装やレリック加工を施す前提ならばあまり気にならない。

・フレットの摩耗
要フレットすり合わせ＆交換スキル。ショップに頼むという手もあるが、美品中古が購入できる工賃が発生することも念頭に置くべし。

・ネックのヒビ、折れ
ネットオークションのジャンク品で多く見かける。要ネック修理スキル。ショップに頼むという手もあるが、美品中古が購入でき(ry

このようにジャンクとなる理由は様々であり、状態によっては出費がかさんでしまうこともある。

「ジャンク品を買ってみたいけど、出費がかさむのは困るなぁ・・・」
という人は、プレイテック製品を新品で購入すれば欠品もないため比較的安価にジャンク修理の疑似体験が可能である。