兌換銀行券単語

ダカンギンコウケン

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兌換銀行券とは、銀行塊や塊といった金属との交換を保して発行する銀行券のことである。兌換紙幣ともいう。

日本において、1931年まで兌換銀行券が発行されていた。
 

概要

定義

兌換銀行券とは、銀行塊や塊といった金属との交換を保して発行する銀行券のことである。

塊のことを(きんじがね)塊のことをぎんじがね)と呼ぶことがある。

「兌換銀行券とは、銀行正貨との交換をして発行する銀行券のことである」と定義されることもある。
 

正貨と名目貨幣の違い

正貨とは、本位貨幣とも商品貨幣とも実物貨幣ともいわれるもので、素材価値と額面額が等しいものである。「10万円の正貨である貨」といえば、「10万円分の塊で作った貨」という意味である。正貨は、発行する組織が通貨発行益(シニョリッジ)exitを得ることができない。

正貨の対義は、貨幣であり、素材価値よりも大きい額の額面額で通用しているものである。昭和天皇御在位60年記念10万円金貨exitは10万円の額面額だったが素材価値は4万円だった。こちらは、発行する組織が通貨発行益を享受することができる。通貨発行益を不法に得るため、悪の組織が偽造を狙うことが多い。

歴史を振り返ると、政府貨幣鋳造して発行するとき、ほとんどが名貨幣だった。政府通貨発行益をもたらし、税収を上回る巨額の政府出費を可にさせるのが、名貨幣なのである。日本でいうと、奈良時代の和同開は典的な名貨幣で、素材価値よりも大きい額面額で通用させたことで知られる。江戸時代の小判も、鋳するたびに素材価値と額面額の差額が大きくなり、名貨幣としての要素が強まっていった。

19世紀から20世紀にかけて世界で発行された兌換銀行券は、正貨との交換を義務づけるものである。兌換銀行券が発行される時代は、名貨幣が回収され、正貨が鋳造されて発行された。

以上のことを表にまとめると、次のようになる。
 

正貨(本位貨幣、商品貨幣、実物貨幣 貨幣
定義 素材価値と額面額が等しい 素材価値よりも額面額の方が大きい
通貨発行益 発行する組織に通貨発行益をもたらさない 発行する組織に多くの通貨発行益をもたらす。巨額の支出の必要性に迫られた政府が発行する
偽造 も偽造をさない 悪の組織が偽造を
歴史上の出現 19世紀~20世紀の一時期のみに見られる 人類の歴史で、「政府鋳造して発行した貨幣」の大部分を占める
兌換銀行券との交換 兌換銀行券の交換対である 兌換銀行券の交換対ではない

 

金本位制

兌換銀行券には、塊との交換を保したものと、塊との交換を保したものがある。そのうち、塊との交換を保した兌換銀行券を一通貨に採用することを、金本位制という。

19世紀の初頭には、世界中の先進国がこぞって金本位制を採用した。そうすることで、塊が事実上の世界通貨となり、とても自由貿易をしやすくなった。

アメリカ商人が木材を他所のから買いたいと思ったとする。ドイツの木材には「○○マルク」という値が付いていて、日本の木材には「○○」という値が付いている。そう言われるとすぐに価値が分からないのだが、すべての金本位制に加入していると、すぐに計算できる。「ドイツの木材は塊~g分の値が付いていて、日本の木材には塊~g分の値が付いているのか」とすぐ計算できる。

コンピュータ電卓がない時代においては、世界金本位制を採用し、塊を世界共通の単一通貨にすることで、人々の計算を助けることができた。

逆に言うと、コンピュータが発達した現代社会においては、世界がこぞって金本位制を採用する必要性が全くなくなった、と言える。
 

即時に金塊・銀塊と交換される

兌換銀行券は銀行が発行する銀行券で、銀行負債である。

兌換銀行券は、それを発行した銀行へ持ち込むと即時に塊や塊といった金属に交換できるものであり、銀行にとって支払期限までの期日が極度に短く、経営を圧迫する厳しい負債である。

ちなみに、債務者に呈示した日時が自動的に支払期日になる種類の負債券を一覧払いexit負債とか要求払いexit負債という。一覧払い・要払いの負債として有名なのは、小切手である。小切手銀行に呈示されたら、銀行は即座に額面額どおりの銭を振出人の当座預口座から引き出して、呈示した人に支払わねばならない。

兌換銀行券には「この銀行券を発行した銀行に持ち込むと、塊に交換します」などという文言が券面に書かれている。日本銀行が発行した10円兌換銀行券には「券引換に貨拾相渡可申」と書いてあった(画像exit)。これを書き下し文にすると「この券と引き換えに、10円を相渡すべく、申しそうろう」となる。

兌換銀行券を持つ人は、発券した銀行に対する債権者である。その人にとって、兌換銀行券は、即時に金属を得られるものであり、資産価値が非常に安定している。
  

中央銀行が自由に発行できない

兌換銀行券の欠点は、国家自由通貨を発行できないところである。

政府が兌換銀行券を中央銀行に発行させたいと思ったら、かなりの手間暇をかけねばならない。政府は官営企業を組織して本金山を掘る必要がある。本金山がなければ金山を持つを武で征して植民地にする必要がある。かなりの手間暇をかけて塊を獲得し、そうしてから塊を中央銀行に売り、その引き換えに兌換銀行券を発行してもらう。

政府戦争や大恐慌に巻き込まれたとき、政府は税収を上回る額の政府支出を早急に行う必要がある。「政府が手間暇をかけて塊を獲得し、塊を中央銀行に渡してその報酬として兌換銀行券を発行してもらい、兌換銀行券を民間に支払う」といった、鈍重な方法を採用していられない。そのため、戦争や大恐慌に巻き込まれた政府は、金本位制を離脱し、兌換銀行券の発行を中止し、不換銀行券の発行へ切り替えていくことになる。

第一次世界大戦世界恐慌のあと、巨額の政府支出をするため、世界政府が次々と金本位制を離脱し、兌換銀行券の発行をとりやめて不換銀行券へ切り替えていった。
 

兌換銀行券時代の中央銀行の貸借対照表

兌換銀行券時代の中央銀行貸借対照表バランスシート)を書くことで、兌換銀行券時代の中央銀行の厳しい経営事情を実感することができる。
 

流動負債が大きく、経営に余裕がない

兌換銀行券を発行する日本銀行貸借対照表バランスシート)を記すと次のようになる。
 

資産の部 負債の部
流動資産 塊(貨) 流動負債 日銀当座預金日本銀行券一覧払い・要払いの厳しい負債
固定資産 固定負債

 
流動負債には1年以内に支払期日がやってくる負債を記入し、固定負債には1年をえた将来に支払期日がやってくる負債を記入する。このことを一年基準exitワン・イヤー・ルール one year rule)という。

貸借対照表バランスシート)の流動負債額が大きいほど財務体質が悪いとされ、固定負債額が大きいほど財務体質が良いとされる。

日本銀行が発行する兌換銀行券(日本銀行券)と日銀当座預金はいずれも日銀負債であり、いずれも一覧払い・要払いの負債であって、債権者に要されたら即座に塊を支払わねばならない。

兌換銀行券を発行するときの日銀は、財務体質が厳しいと表現することができる。
 

市中銀行に貸し出すときも苦労する

兌換銀行券を発行するときの日銀が、外中央銀行から1年以内の期限付きで塊を借りて、その塊を担保にして兌換銀行券を発行し、その兌換銀行券を1年以内の期限付きで銀行に貸し出すということになった[1]。その場合の貸借対照表バランスシート)は次のようになる。
 

資産の部 負債の部
流動資産 銀行への債権


塊(貨)
流動負債 中央銀行への債務

日銀当座預金日本銀行券一覧払い・要払いの厳しい負債
固定資産 固定負債

 
銀行に貸すときに利子を付けるので、「銀行への債権利子-外中央銀行への債務利子」が日銀の利益となる。

こういう姿は、ただの銀行としか言いようがない姿である。兌換銀行券時代の中央銀行銀行と似たり寄ったりの存在になる。
 

関連リンク

Wikipedia記事

コトバンク記事

関連項目

脚注

  1. *実際は信用創造を行う。「銀行への債権」と「負債である兌換銀行券」を同時に発生させ、兌換銀行券を渡すことで貸し付ける。兌換銀行券を差し出されて塊を渡す必要が生じたら、そこでやっと外中央銀行から塊を借用する。銀行への債権利と外中央銀行への債務利の差額が、日本銀行の利益となる。本記事では分かりやすさを重視するため、「先に外中央銀行から塊を借りる」というに設定する。
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