国庫短期証券とは、日本政府が発行する債券(国債)のなかで発行日と支払期日の間の期間が1年以内のものである。
英語ではTreasury Discount Billsと記され、「T-Bill」とか「TDB」と略して呼ばれる。
国庫短期証券は、日本政府が発行する債券であり、国債の一種であって[1]、なおかつ、発行日と支払期日の間の期間が1年以内のものである。2021年現在は2ヶ月債・3ヶ月債・6ヶ月債・1年債の4種類が発行されている。
債券とは、発行者が「券面に記載された期日に券面に記載された通貨を券面に記載された金額だけ支払う」と約束して負債証明書として発行する証券のうち、市場で売買しやすくしてあるものである[2]。
日本政府が発行する債券(国債)のうち、発行日と最終支払期日の間の期間が1年を超えるものは中期国債とか長期国債とか超長期国債と呼ばれる[3]。中期国債・長期国債・超長期国債を扱うのは長期金融市場の債券市場の中期国債・長期国債・超長期国債市場である。
一方で、国庫短期証券を扱うのは短期金融市場のオープン市場の国庫短期証券市場である。
政府が中期国債・長期国債・超長期国債を売り出すと主に長期金利を引き上げる効果があり、政府が国庫短期証券を売り出すと主に短期金利を引き上げる効果がある。
何らかの経緯で日銀が国庫短期証券や中期国債・長期国債・超長期国債を保有しているときも同様である。日銀が中期国債・長期国債・超長期国債を売り出すと主に長期金利を引き上げる効果があり、日銀が国庫短期証券を売り出すと主に短期金利を引き上げる効果がある。
中期国債・長期国債・超長期国債は、固定利付債や変動利付債や物価連動国債の形態で発行され、発行日から最終支払期日までの間に定期的に利子が支払われ、最終支払期日に元本が支払われる。
国庫短期証券は、すべてが割引債の形態で発行され、発行日から最終支払期日までの間に定期的に利子が支払われることがなく、最終支払期日に元本が支払われるだけである。
中期国債の5年債や長期国債の10年債の中の大部分は法人に販売されるが、一部分は個人向け国債として個人に販売される。中期国債の3年債はすべて個人受け国債として販売される。一方で国庫短期証券は個人に販売されることがなく、すべて法人に販売される。
以上のことを表にまとめると次のようになる。
| 国庫短期証券 | 中期国債・長期国債・超長期国債 | |
| 発行日と最終支払期日の間の期間 | 1年以内 | 1年を超える |
| 扱われる金融市場 | 短期金融市場のオープン市場の国庫短期証券市場 | 長期金融市場の債券市場の中期国債・長期国債・超長期国債市場 |
| 売却されると上昇する金利 | 主に短期金利が上昇する | 主に長期金利が上昇する |
| 利払いの形態 | 割引債 | 固定利付債、変動利付債、物価連動国債 |
| 販売先 | 法人のみ | 大部分は法人だが、一部は個人に販売される |
2009年2月までの日本政府は、発行日と支払期日の間の期間が1年以内の債券として、政府短期証券(Finance Bills FB)と割引短期国債(割引短期国庫債券 Treasury Bills TB)をそれぞれ発行していた。
2009年2月以降の日本政府は、発行日と支払期日の間の期間が1年以内の債券として、国庫短期証券を発行するようになった。
ただし「政府短期証券」や「割引短期国債」の概念が完全に消滅したわけではなく、政府の資料では「政府短期証券や割引短期国債を発行するが、国庫短期証券という名称で発行している」といった表現が見られる。
政府短期証券については政府の資料において次のように記されている。
政府短期証券(Financing Bills、略称:FB)は、国庫金の短期の資金繰りのために、また特別会計の一時的な資金不足のために発行することができます。
-『債務管理リポート2020 92ページ
』より引用-
これらの券種及び後述の割引短期国債は、国庫短期証券として発行されていることから、金融商品としては全く同じものです。
-『債務管理リポート2020 92ページ
』より引用-
割引短期国債については政府の資料において次のように記されている。
国債は、国が発行し、利子及び元本の支払い(償還)を行う債券です。 (中略) このうち短期国債は、全て割引国債です。
-『債務管理リポート2020 39ページ
』より引用-
平成21年2月からは、短期国債は政府短期証券との統合発行を開始し、国庫短期証券(Treasury Discount Bills、略称:T-Bill)という統一名称の下で発行され市中で流通していますが、従来の財政制度上の位置付けは変更せず、引き続き短期国債として取り扱っています。
-『債務管理リポート2018 35ページ
』より引用-
国庫短期証券のなかの政府短期証券の部分は、市場に売却して資金を調達し国庫金[4]の一時的な資金不足に対応するため、言い換えると市場に売却して資金を調達し国庫金の資金繰りをするため、日本政府が発行するものである。
歳入そのものを増やすためではなく、「歳入で得られた国庫金の一時的な不足」に対応するためのものである。
発行日と支払期日の間の期間が3ヶ月である3ヶ月債の形式で発行することが原則だが、2ヶ月債や6ヶ月債や1年債も発行されることがある[5]。
政府短期証券は様々な根拠法に基づいて発行される。表にすると以下のようになる。
| 券種 | 根拠法 | 発行する場合 |
| 財務省証券 | 財政法 第7条第1項 |
国庫金の出納上必要がある場合 |
| 財政融資資金証券 | 財政融資資金法 第9条第1項、 |
財政融資資金に属する現金に不足がある場合 |
| 外国為替資金証券 | 特別会計に関する法律 第83条第1項 |
外国為替資金に属する現金に不足がある場合 |
| 石油証券 | 特別会計に関する法律第94条第2項、第95条第1項 | 国家備蓄石油の購入に要する費用の財源に充てるために必要がある場合、支払上現金に不足がある場合 |
| 原子力損害賠償支援証券 | 特別会計に関する法律第94条第4項、第95条第1項 | 原子力損害賠償支援勘定において、国債整理基金特別会計繰入れに要する費用の財源に充てるために必要がある場合、支払上現金に不足がある場合 |
| 食糧証券 | 特別会計に関する法律第136条第1項、第137条第1項 | 主要食糧及び輸入飼料の買入代金の財源に充てるために必要がある場合、支払上現金に不足がある場合 |
この中で馴染み深いのが外国為替資金証券である。日本政府が円安ドル高に誘導する為替介入をする場合、この外国為替資金証券を短期金融市場のオープン市場の国庫短期証券市場に売り出したり、日銀に直接引き受けさせたりして[6]、日本政府は円を入手している。そして外国為替市場で円売りドル買いをする。
財務省は毎年『債務管理リポート
』を発行しているが、その中で「国は第1章で説明した歳出需要を賄うための国債の発行のほかにも、政府短期証券を発行し、借入を行い、又は政府保証を行います。それぞれ性格が異なりますが、いずれも国債と同様、財政活動に伴う資金調達による債務です。」と記述していて[7]、「政府短期証券は国債とは異なる」という考えを持っている。
国債については「歳出需要を賄うための国債」と記述し[8]、政府短期証券については「政府短期証券は、国庫金の短期の資金繰りのために、また特別会計の一時的な資金不足のために発行する」と記述している[9]。
日銀は公式ウェブサイトにおいて「融通債は、短期国債のうち、国庫の日々の資金繰りを賄うための資金を調達する目的で発行されるものです」と書いている[10]。
つまり日銀は「政府短期証券は短期国債の中の融通債である」と言っていて、「政府短期証券は国債の一部である」という考えを述べている。先述の財務省の「政府短期証券は国債とは異なる」という考え方とは異なった考え方をしている。
また、日銀が「国債とは政府が発行する債券の総称である」という定義をしているらしいことも、上述の公式ウェブサイトの記述からうかがえる。
国庫短期証券のなかの割引短期国債の部分は、市場に売却して資金を調達し歳入を増やして歳出需要をまかなう目的で日本政府が発行するものである。
国庫短期証券のなかの割引短期国債の部分は、財務省の定義でも国債に該当する。
発行日と支払期日の間の期間が6ヶ月である6ヶ月債の形式や、1年債の形式で発行される。
国庫短期証券のなかの割引短期国債の部分は、借換債として発行されることが多い。
借換債とは国債の償還に関する資金を調達するために発行する国債である。売却して得られたお金は国債整理基金特別会計の歳入になる。
借換債は特別会計に関する法律
の第46条や第47条を根拠として発行されている。
や日銀資料
も参照のこと。




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