田沼家は紀州藩の足軽の家系であったが、田沼意行が当時部屋住みであった徳川吉宗の側近となったことにより、彼が8代将軍に就任したことで旗本となっていた。その長男として生まれたのが意次である。
彼もまた、吉宗の息子で9代将軍であった家重に仕えて出世、続く10代将軍家治のもとでも更に出世をとげ、老中に就任。
農民からの年貢以外にも、商業など様々な方面から税収を集める重商主義施策(株仲間、俵物の輸出、通貨制度の統一など)をとり、幕府の増収と経済発展に貢献した(田沼時代)。また北海道(蝦夷地)の地勢的な重要性を認識し、その開拓も進めようとした。
しかし商業の発展は金銭社会化を呼び贈収賄が横行するようになり、また天明の飢饉への対処が満足に出来なかったこともあり、次第に世の中で反田沼の風潮が強まっていく。そして家治の死去とともに幕閣を追い出され、更には厳封処罰を受け、失意の中で死去。
その後、田沼意次から老中が松平定信(白河藩主)に変わったことで、庶民からは社会の清浄化が進むという期待から
という歌が詠まれた。しかし寛政の改革が進むと、
「白河の あまり清きに 住みかねて 濁れるもとの 田沼恋しき」
「白河の 清き流れに 魚住まず 濁れる田沼 今は恋しき」
と、窮屈さに不満を漏らす歌が読まれている。
上述した通り商業重視の政策をとったため、商人に多くの利権を与えることとなり、また社会の金権化が進んだ。
そのため、彼の政策に反感を抱いた武士や庶民からは見返りに多々の贈賄を受けた賄賂政治家という風説を多く流され、のちに権力を握った定信もその悪評を政治活動の上で利用したことから(実際には定信も意次に賄賂を送っていた)、以後近代に至るまで悪徳政治家の印象が定着した。時代劇等でも悪の総本山のような扱いを受けるのがしばしばであった。
しかし戦後、経済に通じた先見ある政治家として、徳川綱吉の時代に元禄の改鋳を行った荻原重秀らとともに再評価が始まっている。
意次ゆかりの城下町、旧相良藩の静岡県牧之原市では彼に因んだ土産として「ワイロ最中」が販売されている。これは意次に付いた汚名をそそぐのはなかなか難しいことから、逆の発想で悪名を利用してインパクトを得るとともに、購入者に実際の彼の姿を知ってもらおうと言う企画から生まれたものと言われている。
現実には意次は金権で政治を行うことは殆ど無く、私服を肥やすことも無かったと言われる。
……などとネットに書かれることがあるが、田沼の時代が金権で賄賂が盛んだったのは史実である。この田沼が賄賂を受け取っていなかったという話は歴史学者の大石慎三郎が書籍で”信憑性のない資料では田沼意次が金権腐敗の政治家だとは断言できない”と語ったことを大石が”田沼が金権腐敗の政治家ではない”と主張したと拡大解釈した話がネットなので流布した結果の俗説である。(むしろ大石は書籍の中で田沼がこの(資料の)時に賄賂を受けとったのかは”わからない”と書いている)
また大石の”田沼が賄賂を受け取ったと書かれた信憑性のない資料”という判断も他の学者から後に誤読と指摘を受けている。現在、アマチュアが出した本ならともかく、本職の歴史学者が田沼が賄賂を受け取らなかったと主張する書籍はない。
また同様に、田沼が積極財政で300万両貯めたという話も実際には田沼が老中格になった時に幕府の備蓄金が300万両あったという話を誤解したものである。(幕府の備蓄金が300万両あった年は明和7年、田沼が老中格になったのは明和6年。しかも当時の老中首座は松平武元である)
さらにこれが一番多い誤解であるが田沼時代の財政政策は積極財政ではなく緊縮財政であった。田沼時代は享保の改革で行われた様々な緊縮政策を復活させて財政赤字に対応していた。
田沼が行った支出削減政策は予算制度を導入し各部署に予算削減を細かく報告させ、予算削減に努めたこと。禁裏財政への支出削減をかけたこと。大名達への拝借金を制限したこと。国役普請を復活させ工事費の負担を転化させたこと、認可権件を行使して民間の商人に任せるのを多用したこと。たびたび倹約令を出し支出を抑制したことなどがある。
松平定信に提出された植崎九八郎上書の中には、田沼意次の政治をこう批判している
“諸役人は、幕府の支出を一銭でも減らすことを第一の勤めとしてお互いに競い合い、幕府の利益だととなえて、重い租税を取り立てることを将軍への奉公と考え、おのおのの 持ち場で、一方で費用を切りつめて支出を減らし、他方で租税の取り立てを厳しくし、その手柄により転任し出世していった。”
田沼はロシアとの交易を目指したともいわれる、そのこと自体は間違いではない。だがこれも実際には田沼失脚によってロシア交易計画がとん挫したわけではなく、田沼政権時代の試算で”ロシアは日本と交易をしたがっているので正式に交易を始めればかなりの規模になるだろうが、外国製品は長崎貿易で十分入手できている現状、無理にロシア交易を始めても長崎貿易に支障をきたすことになり、そのうえいくら禁止しても金銀銅が流出することになる。”とデメリットの方が大きいと判断され田沼自身が計画段階で中止したのが実際の顛末である。
掲示板
74 ななしのよっしん
2023/04/28(金) 22:01:53 ID: iffFVo+lM1
一番マズいのは脚本家がどちらかをただの矮小な悪役として書くパターンだと思う
ここ数年大河はそういう書き方をしなくなったけど朝ドラが度々空気悪くなってるの見るとNHKを信用しきれない
75 ななしのよっしん
2023/08/20(日) 11:37:35 ID: VCiqDC1GnN
「悪人とされている」と「悪人である」の違いがわかってない人がいるのかな
76 ななしのよっしん
2023/10/05(木) 17:50:14 ID: PvcAOH10fP
べらぼうでは渡辺謙さんとの事だ。
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最終更新:2024/04/25(木) 01:00
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