アドマイヤデウス(Admire Deus)とは、2011年生まれの日本・豪州の競走馬。栗毛の牡馬。
重賞2勝を挙げるもGⅠの壁に跳ね返される日々を送り、本格化の兆しを見せたところで豪州の地へ渡って、同冠の先輩の無念を晴らすはずが、奇しくも同じ運命を辿ることになった馬。
概要
父アドマイヤドン、母ロイヤルカード、母父*サンデーサイレンスという血統。
父は二冠牝馬ベガを母に、ダービー馬アドマイヤベガを兄に持つ良血。2歳王者に輝いたあとダートに転向してダート界の首領となり、GⅠ級7勝を挙げた。種牡馬としてはこれをいった結果を残せず、代表産駒となるアドマイヤデウスとアルバートが生まれた2011年に韓国に輸出されてしまった。
母は7戦未勝利だが、半弟に全日本2歳優駿馬アドマイヤホープ、中山金杯連覇など重賞3勝のアドマイヤフジ、福島記念勝ち馬アドマイヤコスモスと重賞馬が3頭いる。
母父は説明不要のレジェンド種牡馬。
同父の同期にはステイヤーズステークスを3連覇したアルバートがいる。
2011年6月6日、浦河町の辻牧場で誕生。競走馬としては相当な遅生まれである。
オーナーはもちろん両親と同じ「アドマイヤ」冠の近藤利一。
デビュー前はノーザンファーム早来の林宏樹調教主任によって育成される。数々のノーザン系有力馬が育成される牧場だが、その後輩に1歳下のシュヴァルグランがいた。
シュヴァルグランのオーナー・佐々木主浩は近藤オーナーの誘いで中央の馬主になったという経緯があり、勝負服をそっくりなデザインにするなどオーナー同士親しい間柄であった。そのためかどうかはわからないが、この2頭は夏の休養中、ノーザンファーム早来で一緒に調教される友であった。
天に南十字星を抱いて
遅生まれのクラシック候補
2歳となり、父の兄アドマイヤベガも所属した栗東の橋田満厩舎に入厩。2013年11月3日、京都・芝1800mの新馬戦で和田竜二を鞍上にデビュー。9番人気と微妙な評価だったが、中団から進めて大外を猛然と追い込み、上がり2位の33秒7で3着となかなかの好内容を見せる。
続く京都・芝2000mの未勝利戦も、同じ新馬戦の2着だったジョウノムサシを捕らえきれず2着。岩田康誠を鞍上に迎えた12月の3戦目で勝ち上がる。
明けて3歳、和田が戻った京都・芝2400mの梅花賞(500万下)は捲っていったものの人気2頭に差されて3着。しかし中2週で丸山元気を迎えて向かった小倉・芝2000mのあすなろ賞(500万下)を好位から直線で抜け出して2勝目を飾ると、岩田康誠に戻った若葉ステークス(OP)を後方から力強く馬群を割って差し切り勝利。クラシックへと名乗りを上げた。このレース以降、岩田騎手が日本では最後まで彼の手綱をとることになる。
しかしクラシックの壁は高く、皐月賞(GⅠ)も日本ダービー(GⅠ)もこれといった見せ場はなく9着、7着に敗れる。それでも順位は上げていたので秋こそは……と思いきや、ダービー後に左前橈骨骨折が発覚。橋田師は「軽いもので、秋には復帰できるでしょう」と語っていたが、結局3歳秋は全休となってしまった。
上り坂あれば下り坂あり
半年以上休み、復帰戦は4歳となった1月の日経新春杯(GⅡ)。休養明けということもあり6番人気だったが、じっくり休んでいる間に彼は馬体も気性も大人になっていた。内目の好位を立ち回ると、岩田騎手はアドマイヤデウスを最内に突っ込ませる。そのまま上がり最速33秒8の末脚で一気に突き抜けて快勝。岩田騎手らしい果敢なイン突きで重賞初制覇を飾った。
これで天皇賞(春)を目標に定め、続いては3月の日経賞(GⅡ)。人気が割れる中で5.4倍の4番人気に支持され、今度は中団から大外を回して直線で力強く抜け出す強い内容で完勝。重賞連勝を飾り、春の盾の有力候補へと躍り出た。
本番の天皇賞(春)(GⅠ)ではダービー馬キズナ、GⅠ5勝のゴールドシップに次ぐ3番人気。しかし大外の8枠17番を引いてしまい、さらにレース中に熱中症になってしまい、4コーナーでついていけなくなり15着撃沈。しかも右第1指骨剥離骨折が発覚しまたも休養となってしまった。
半年休み、天皇賞(秋)(GⅠ)で復帰したがまたも大外8枠18番。しかもスタートで外に膨れてしまい最後方からのレースとなって見せ場なく11着。
続くジャパンカップ(GⅠ)も8枠17番。今度はスタートを決めて隣のカレンミロティックを追って2番手のレースを選択したが、直線で仲良く沈んで16着。
ようやく内目の3枠5番を引けた有馬記念(GⅠ)は勝ったゴールドアクターから0.3秒差の7着。枠に恵まれなかったのは事実だが、「GⅠでは足りない」という評価は致し方ない感じであった。
高いGⅠの壁、転厩、そして豪州へ
「GⅡでは勝ち負けだが、GⅠでは足りない」……アドマイヤデウスの競走生活は、その後も結局のところは、この一文に集約される。
明けて5歳も京都記念(GⅡ)を3着、阪神大賞典(GⅡ)もシュヴァルグランの3着、本番の天皇賞(春)では9着。秋も京都大賞典(GⅡ)ではキタサンブラックを徹底マークしてクビ差の2着と健闘するのに、天皇賞(秋)は6着、有馬記念では10着。GⅡでは安定して馬券に絡むのに、GⅠの壁は果てしなく高く、掲示板にも載れない日々が続く。
明けて6歳となった2017年。近藤オーナーが橋田厩舎に預けていた馬を全て転厩させたため、アドマイヤデウスも橋田厩舎から、かつてアドマイヤラクティが所属した梅田智之厩舎へと転厩となった。豪州G1のATC The BMWへの挑戦プランも持ち上がったが、豪州で客死したラクティの件もあって転厩していきなりの遠征は自重。日経賞から始動しまたも3着。
そんなわけで天皇賞(春)では単勝100倍ジャストの10番人気という評価だったが、シュヴァルグランと一緒に好位でレースを進めると直線でも逃げるキタサンブラックに食らいついていき、キタサンのレコード勝利から0.3秒差、シュヴァルグラン・サトノダイヤモンドと僅差の4着。大健闘である。
初めてGⅠで掲示板に載り、馬券圏内へもあと一歩。ようやく高いGⅠの壁が手の届くところまで近付き、改めて秋はコーフィールドカップからメルボルンカップへ、という豪州遠征プランが発表される。梅田厩舎と同冠の先輩・アドマイヤラクティの無念を晴らすべく、いざ豪州の地へ――。
渡ることになったのだが、それは思わぬ形でのことになった。
8月、豪州の馬主であるオーストラリアン・ブラッドストック社にトレードされ、日本での競走馬登録を抹消。ダレン・ウィアー調教師のもと、上記のローテに豪州馬として挑むことになったのである。
残酷な運命に手向けの花を
何はともあれオーストラリアへと渡ったアドマイヤデウス。同じ2017年の2月には先んじて豪州に移籍したトーセンスターダムがG1で2着などなかなかの好走を見せており、同じく豪州に移籍したブレイブスマッシュも9月に現地のリステッド競走を勝利していた。
アドマイヤデウスもそんな流れに乗るべく調教を積み、コーフィールドカップでは事前オッズでなんと1番人気に支持されていた。日本のファンも、彼が豪州で覚醒し、予備登録していたジャパンカップに豪州のG1馬として凱旋してくる日を楽しみにしていた。
だが……レース4日前の10月17日。最後の追い切りで、彼の運命は急転直下、暗転する。
故障発生。靱帯断裂。
コーフィールドカップ回避。いやそれどころか、命に関わる重傷だった。
陣営は種牡馬入りも見据えて治療を決断、手術が行われ一度は成功と報じられる。
だがその後、2度目、3度目の手術が重なり……そして11月25日、アドマイヤデウスは力尽きた。
3年前、アドマイヤラクティがコーフィールドカップを制して挑んだメルボルンカップで心臓麻痺を起こし、レース後に倒れてそのまま帰らぬ馬となった豪州の地で、戦いに挑むことさえできないまま、アドマイヤデウスもまた先輩の後を追うように南半球の星となったのである。
その死が報じられた翌日、ジャパンカップ。アドマイヤデウスも豪州馬として予備登録していたそのレースで、勝ちきれない日々を乗り越えて宿敵キタサンブラックをついに差し切り、悲願のGⅠ初制覇を果たしたのが、早来の友シュヴァルグランだった。
ノーザンファーム早来の林宏樹調教主任は、シュヴァルグランの勝利への取材の最後に、こう語っている。
「シュヴァルグランが夏に牧場に帰っていた頃、共に調教を行っていたのがアドマイヤデウスでした。彼のことは非常に残念でなりませんし、そう思うとゴール前でシュヴァルグランの後押しをしてくれたのは、天国のアドマイヤデウスではないかという気もしています」
血統表
アドマイヤドン 1999 鹿毛 |
*ティンバーカントリー 1992 栗毛 |
Woodman | Mr. Prospector |
*プレイメイト | |||
Fall Aspen | Pretense | ||
Change Water | |||
ベガ 1990 鹿毛 |
*トニービン | *カンパラ | |
Severn Bridge | |||
*アンティックヴァリュー | Northern Dancer | ||
Moonscape | |||
ロイヤルカード 1999 栗毛 FNo.1-l |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*アドマイヤラピス 1992 栗毛 |
Be My Guest | Northern Dancer | |
What a Treat | |||
Elevate | Ela-Mana-Mou | ||
Sunny Valley |
クロス:Northern Dancer 4×4(12.50%)
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関連項目
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