フロリースカツプ(Florries Cup)とは、1904年イギリス産まれの繁殖牝馬である。
日本屈指の在来牝系の祖として後世に多大な影響を残した名牝。
カップではなくカツプ(読みは同じ)が正しい表記。
概要
父フロリゼル(Florizel)、母スターラプカップ(Stirrup Cup)、母父メルトン(Melton)という血統。
父フロリゼルはイギリス三冠馬ダイヤモンドジュビリーと種牡馬として大活躍したパーシモンの全兄弟という良血。母父メルトンは英ダービーと英セントレジャーを制した馬。母スターラプカップに語ることはあまり無いが、ファミリーは3号族に位置し、多くの英クラシックを出してきた一族である。
時は1907年の明治40年に小岩井農場が20頭の繁殖牝馬を輸入したことから始まる。
日本競馬はクロフネ来航後の1860年に西洋式の競馬が初めて開催され、1866年に横浜の根岸で日本最初の競馬場が造られて以降、各地に競馬場が造られる等の発展を遂げてきた。
だがサラブレッドの品種改良に関しては独自の発展に至る訳もないので、外国からの輸入馬による品種改良が必要であった。それには当然、現代よりも莫大なお金が掛かる為、当時の経済の中心的存在である民間の三菱財閥傘下の小岩井農場と、国で管理している御料牧場がそれぞれイギリスから繁殖牝馬を輸入し、その子供は他の牧場に売る事で日本のサラブレッドの品種改良を進めていく事となった。
長くなったが、その小岩井農場が1907年に輸入した20頭の繁殖牝馬の内の一頭がフロリースカツプである。
その子孫たち
以下、フロリースカツプから連なる一族を解説する。重賞勝ち馬やG1馬も他多数いるが、八大競走勝ち馬+ニコニコ大百科に記載されている馬を中心に記載する。
※勝ち鞍の後ろの()内の数字は勝った年の西暦。太字は八大競走(皐月賞、東京優駿、菊花賞、桜花賞、優駿牝馬、天皇賞春、天皇賞秋、有馬記念)を指す。
第四フロリースカツプの子孫
・ミナミホマレ(1939年産)牡馬
主な勝ち鞍‥日本ダービー(1942年)
種牡馬としてもゴールデンウエーブ・ダイゴホマレの2頭の地方出身の日本ダービー馬を輩出するなど活躍した。
・タイセイホープ(1955年産)牡馬
主な勝ち鞍‥皐月賞(1958年)
父イツセイがトキノミノルの前に阻まれたクラシック競走を勝ち取った孝行息子。
・ガーネツト(1955年産)牝馬
主な勝ち鞍‥天皇賞秋、有馬記念(1959年)
初めて牝馬で有馬記念を制した女傑。また2021年現在、天皇賞秋と有馬記念を両方制した牝馬はガーネツトとトウメイの2頭しかいない。
・ダテテンリュウ(1967年産)牡馬
主な勝ち鞍‥菊花賞(1970年)
タニノムーティエの3冠を阻止した(ムーティエはノド鳴りだったが)。母はガーネツトの1つ下の全妹。
・メイショウサムソン(2003年産)牡馬
主な勝ち鞍‥皐月賞、日本ダービー(2006年)、天皇賞春、天皇賞秋(2007年)
4代前の母が上記のガーネツト。石橋守現調教師に初G1をプレゼント。また史上4頭目の同一年天皇賞春秋制覇を達成。
・ヤマニンモアー(1957年産)牡馬
主な勝ち鞍‥天皇賞春(1961年)
後述のシンツバメやスギヒメ(桜花賞)、ハクシヨウ(東京優駿)とともに1961年のヒンドスタン産駒の躍進を象徴する馬。前年のダービーでも後述のコダマの2着に入っている。
・ケンホウ(1959年産)牝馬
主な勝ち鞍‥桜花賞(1962年)
ヤマニンモアーの全妹。子孫にもナリタハヤブサやビッグウルフなどの重賞馬・交流GⅠ馬がおり、血統を繋いでいる。
・シラオキ(1946年産)牝馬
現役はダービー2着等活躍。それ以上に繁殖成績が目覚ましく、以下の馬達全ての祖先でもある。
・コダマ(1957年産)牡馬
主な勝ち鞍‥皐月賞、日本ダービー(1960年)
母が上記のシラオキ。トキノミノル以来の無敗の二冠を達成。その能力を「カミソリの切れ味」と言われた(比較はナタの切れ味のシンザン)。
・シンツバメ(1958年産)牡馬
主な勝ち鞍‥皐月賞(1961年)
母がシラオキなのでコダマの半弟(父親は別)。
・シスタートウショウ(1988年産)牝馬
主な勝ち鞍‥桜花賞(1991年)
トウショウボーイ後年の傑作牝馬。後述するウオッカ(シスタートウショウの1つ上の全姉の孫)のライバルとなるダイワスカーレットの母スカーレットブーケとは同期のライバル。
・マチカネフクキタル(1994年産)牡馬
主な勝ち鞍‥菊花賞(1997年)
夏から4連勝して菊花賞を制した所謂「上がり馬」の代表格。その勝ちっぷりを歴代最強と呼ぶ声も。
・スペシャルウィーク(1995年産)牡馬
主な勝ち鞍‥日本ダービー(1998年)、天皇賞春、天皇賞秋、ジャパンカップ(1999年)
武豊に初ダービーを献上し、史上2頭目の同一年天皇賞春秋を制し、ジャパンカップでは日本総大将として並み居る外国馬を相手に勝利した名馬。端正な顔立ちで人気も絶大であった。
・ウオッカ(2004年産)牝馬
主な勝ち鞍‥阪神JF(2006年)、日本ダービー(2007年)、安田記念、天皇賞秋(2008年)、ヴィクトリアマイル、安田記念、ジャパンカップ(2009年)
64年振りに牝馬によるダービー制覇を達成し、当時最多タイとなるGⅠ7勝を達成。ダイワスカーレットとのライバル関係も必見。
第六フロリースカツプの子孫
・マツミドリ(1944年産)牡馬
主な勝ち鞍‥日本ダービー(1947年)
戦後最初のダービー馬にして、史上初の親子2代ダービー馬(父は第2回東京優駿大競争馬カブトヤマ)。
・キタノカチドキ(1971年産)牡馬
主な勝ち鞍‥皐月賞、菊花賞(1974年)
トウショウボーイと並ぶテスコボーイの傑作。彼らの活躍で日本競馬にスピードを活性化させた。
・ニホンピロウイナー(1980年産)牡馬
主な勝ち鞍‥マイルチャンピオンシップ(1984年)、安田記念、マイルチャンピオンシップ(1985年)
まだ未開拓だったスプリント、マイル路線に革命を起こした快速馬。そのスピードはマイルならシンボリルドルフすら勝てないと言わしめた「マイルの皇帝」。
・サンドピアリス(1986年産)牝馬
主な勝ち鞍‥エリザベス女王杯(1989年)
今尚GⅠにおける最低単勝支持率の覇者。43060円もの単勝払い戻しが今後GⅠで果たして起こりうるのか。
第九フロリースカツプの子孫
・ヤシマドオター(1946年産)牝馬
主な勝ち鞍…桜花賞(1949年)、天皇賞秋(1950年)
4歳秋の10月22日から12月17日にかけて8戦したうえで、当時3200mの天皇賞秋や斤量66kgを背負った中山記念秋を含めた5勝をあげた女傑。1952年に流行した馬伝染性貧血にかかったために処分されてしまい、残念ながら子を残すことは出来なかった。
・リキエイカン(1966年産)牡馬
主な勝ち鞍…阪神3歳ステークス(1968年)、天皇賞春(1970年)
35歳2か月27日と当時シンザンの持っていたサラブレッド最長寿記録にあと14日まで迫るほど長生きした馬。現在では歴代9位の長寿記録。
・カツラノハイセイコ(1976年産)牡馬
主な勝ち鞍…日本ダービー(1979年)、天皇賞春(1981年)
父ハイセイコーが勝てなかった日本ダービー、天皇賞を勝った孝行息子。
・スズカコバン(1980年産)牡馬
主な勝ち鞍…宝塚記念(1985年)
シンボリルドルフが急遽回避し主役不在となった宝塚記念をしっかり勝ち切った関西総大将。種牡馬としても地方を中心に活躍馬を多く輩出し、サイアーラインを現代に伝えている。ちなみに母は上記リキエイカンの全妹。
・オースミハルカ(2000年産)牝馬
主な勝ち鞍…クイーンS(2003年・2004年)、チューリップ賞(2003年)、府中牝馬S(2004年)
重賞4勝を挙げたが、それ以上に2004年・2005年エリザベス女王杯での2年連続2着、特に2005年の乾坤一擲の大逃げで知られる。若手の川島信二騎手とのコンビで人気を博した。
・レイパパレ(2018年産)牝馬
主な勝ち鞍‥大阪杯(2021年)
史上3頭目となる無敗で古馬混合GⅠを制した快速牝馬。今後どこまで勝ち星を伸ばせるか期待が膨らむ。
総括
以上、フロリースカツプの子孫は八大競走を合計29勝する等大暴れをした。
特筆すべきは、どこかの世代で稼いだ訳でもなく、1939年〜2023年の85年を通してこれだけの数字を稼いだのである。長い年月を掛けてここまで活躍馬を出す一族は他に無いと言っても良い。
正しく日本が誇る名繁殖牝馬と言うに相応しいであろう。
血統表
Florizel 1891 黒鹿毛 |
St. Simon 1881 鹿毛 |
Galopin | Vedette |
Flying Duchess | |||
St. Angela | King Tom | ||
Adeline | |||
Perdita 1881 鹿毛 |
Hampton | Lord Clifden | |
Lady Langden | |||
Hermione | Young Melbourne | ||
La Belle Helene | |||
Stirrup Cup 1890 鹿毛 FNo.3-l |
Melton 1882 鹿毛 |
Master Kildare | Lord Ronald |
Silk | |||
Violet Melrose | Scottish Chief | ||
Violet | |||
Sterling Love 1883 鹿毛 |
See Saw | Buccaneer | |
Margery Daw | |||
True Love | Sterling | ||
Carine |
関連コミュニティ
関連項目
- フロリースカツプ牝系
フロリースカツプ(Florries Cup) 1904
|第四フロリースカツプ 1912
||フロリスト 1919
|||第弐フロリスト 1927
||||フロラヴアース 1936
|||||サンキスト 1944
||||||ガーネツト 1955 1959年天皇賞(秋) 1959年有馬記念
|||||||ヒダクイン 1971
||||||||シークイン 1981
|||||||||ポレール 1991 1996年・1997年中山大障害(春) 1996年中山大障害(秋)
|||||||エール 1972
||||||||ウイルプリンセス 1983
|||||||||マイヴィヴィアン 1997
||||||||||メイショウサムソン 2003 2006年皐月賞 2006年東京優駿 2007年天皇賞(春) 2007年天皇賞(秋)
||||||第四サンキスト 1956
|||||||ダテテンリユウ 1967 1970年菊花賞
||||||サンマリノ 1961
|||||||アイレバース 1970
||||||||マイソール 1975
|||||||||セレクトサンキスト 1981
||||||||||セレクトレモン 1991
|||||||||||アインライツ 2001
||||||||||||ヒーローコール 2020
||||||||アイレテスコ 1978
|||||||||アンカースティーム 1988
||||||||||セイウンクノイチ 1998
|||||||||||セイウンワンダー 2006 2008年朝日杯FS
|||||||ミホランザン 1971 1973年朝日杯3歳S
|||スターカツプ 1930
||||第弐スターカツプ 1937
|||||シラオキ 1946
||||||コンゴーセキ 1953
||||||ゴーフウ 1958
|||||||フーセン 1973
||||||||シンシラオキ 1978
|||||||||シヨノロマン 1985
|||||||ミスサチヨ 1959
||||||||サチカマダ 1968
|||||||||ノスタルヒアス 1974
||||||||||ヤエシラオキ 1989
|||||||||||テイエムドラゴン 2005年中山大障害
||||||コダマ 1957 1960年皐月賞、1960年東京優駿
||||||シンツバメ 1958 1961年皐月賞
||||||ワカシラオキ 1960
|||||||ローズトウシヨウ 1965
||||||||グレイトウショウ 1974
|||||||||アテナトウショウ 1981
||||||||||マチカネフクキタル 1994 1997年菊花賞
||||||||コーニストウショウ 1977
|||||||||エナジートウショウ 1987
||||||||||タニノシスター 1993
|||||||||||ウオッカ 2004 2007年東京優駿 2008年天皇賞(秋) 2009ジャパンカップ などGI級計7勝
|||||||||シスタートウショウ 1988 1991年桜花賞
|||||||クイーンシラオキ 1982
||||||||ダイカツストーム 1990 1995年中山大障害(春)
||||||ミスアシヤガワ 1964
|||||||レディーシラオキ 1978
||||||||キャンペンガール 1987
|||||||||スペシャルウィーク 1995 1998年東京優駿 1999年天皇賞(春) 1999年天皇賞(秋) 1999年ジャパンカップ
|||||第四スターカツプ 1941
||||||タイセイホープ 1955 1958年皐月賞
|||||トキノタカラ 1945
||||||ヤマニンモアー 1957 1961年天皇賞(春)
||||||ケンホウ(健宝) 1959 1962年桜花賞
|||||||サンパス 1974
||||||||サンライトリバー 1980
|||||||||モルゲンロート 1987
||||||||||ビッグモンロー 1994
|||||||||||ビッグウルフ 2000 2003年ジャパンダートダービー
|||ミナミホマレ 1939 1942年東京優駿
|第六フロリースカツプ 1915
||賀栄 1923
|||栄幟 1938
||||マツミドリ 1944 1947年東京優駿
||||グリンライト 1947
|||||ウエーライト 1957
||||||テツザンヒメ 1967
|||||||イエンライト 1976
||||||||サンドピアリス 1986 1989年エリザベス女王杯
|||||ライトフレーム 1959
||||||キタノカチドキ 1971 1974年皐月賞 1974年菊花賞
||||||ニホンピロエバート 1974
|||||||ニホンピロウイナー 1984年・1985年マイルチャンピオンシップ 1985年安田記念
||||||リードスワロー 1975 1978年エリザベス女王杯
|第九フロリースカツプ 1924
||スターリングモア 1929
|||第二スターリングモア 1941
||||ヤシマドオター 1946 1949年桜花賞 1950年天皇賞(秋)
|||第三スターリングモア 1944
||||ミタケ 1960
|||||コウイチスタア 1968
||||||カツラノハイセイコ 1976 1979年東京優駿 1981年天皇賞(春)
||||トサモアー 1953
|||||モンテホープ 1960
||||||リキエイカン 1966 1970年天皇賞(春)
||||||ヤマニサクラ 1967
|||||||ナムラピアリス 1984
||||||||オイスターチケット 1998
|||||||||シェルズレイ 2003
||||||||||レイパパレ 2017 2021年大阪杯
||||||トーエイプリンセス 1973
|||||||ベップイチバン 1978
||||||||テイエムメガトン 1994 1997年ダービーグランプリ
||||||サリュウコバン 1974
|||||||スズカコバン 1980 1985年宝塚記念
|||||ランズプロント 1974
||||||ホッコーオウカ 1993
|||||||オースミハルカ 2000
|ヴイスカツプ 1927
||プリンスカツプ 1935
|||トヨカツプ 1953
||||フアニー 1962
|||||リョウマファニー 1968
||||||シルバーファニー 1975
|||||||ダイゴトツゲキ 1982 1984年阪神3歳S
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