飛鳥 (航空機)とは、日本のNAL(航空宇宙技術研究所、今はJAXAの1部門)が開発したSTOL飛行機である。1機だけ製造された。
政治家&土建屋に敗北した時代に求められ、その時代に捨てられた悲劇の機体である。
前史
時代は高度経済成長期。日本列島は国土が狭く、全国に空港を作っても滑走路は短く作らざるを得ないという考え方が政府内にあった。1975年、当時の科学技術庁にあった航空技術審議会(今の文部科学省・科学技術学術審議会)は「日本の国情に合ったSTOL機を開発するべし」という答申を発表。これに対応し1977年NAL内に「STOLプロジェクト推進本部」が設立。1979年、川崎重工業を主契約者として機体開発が本格的にスタート。機体は一般公募により「飛鳥」と命名され1985年、初飛行に成功した。
機体解説
極論するとC-1の改造機。といっても機体はどっかの自衛隊からかっぱらったわけではなく新造だけどね。胴体と尾翼はC-1の設計を丸々流用。翼だけはSTOL実験のために新規設計された。エンジンは開発したはいいけど売り先がなく途方にくれていた純国産ジェットエンジン「FJR710」を4基、翼の上におく独特の構造。このおき方は「アッパーサーフェスブローイング(USB)」といって旧ソ連、現ロシアのAn-72/74のみが実用化している。操縦系はヘッドアップディスプレイやフライバイワイヤ(FBW)を採用。というか、FBWがないと飛べない(後述)。
USBとコアンダ効果
まず、何故飛行機は空をとぶことができるのか。普通に考えたら翼の下面で空気を受けて、空気に支えられて飛んでいる様にみえる。実際はざっくり言うと翼の上面の空気の流れで上に引っ張られて飛行機は浮いているのである。
さて、USBという特徴的なエンジンのおき方は、ジェットエンジンのスピードの速い排気を翼に流すことにより、周りの空気もこの排気に引きずられて翼を流れるという仕組みである。これによって翼の上だけ大量かつ高速の空気の流れを作り出して短距離で離陸するのが飛鳥というかUSB機の基本原理。
もうひとつのミソがコアンダ効果。蛇口から流れている水に紐でたらしたピンポン玉を近づけると引き寄せられるというアレである。正しくは「粘性を持つ流体は物体に引き寄せられる」というものなのだが、なるほど、まったくわからん状態なので各自ウィキペ様あたりにお伺いを立てること。飛鳥はスポイラー(揚力増幅装置、要するに上下に動く翼の一部)を下向きにすることにより、この効果で空気の流れを下に誘導。空気を地面にたたきつけることで揚力を増している。余談だが伝説の出落ち試作機XFV-12はこのコアンダ効果を使ってVTOLを達成しようとしたらしい。
飛鳥は1989年3月までの延べ167時間ものテストを行い、実用化も問題ないレベルまで完成度を上げていた。しかし。
科技庁:プロジェクト終了ね。
NAL:何でやねん!
科技庁:必要なくなったから。
どうしてこうなった
実はSTOL機は機体の飛行特性が普通の飛行機の逆(たとえば機首を下げると普通の飛行機は高度を下げるが飛鳥は逆に高度を上げてしまう)であり、操縦にはFBWとコンピュータによる補助が必須。このためここからさらに実用化へ詰めるとなると制御ソフトの開発に金も時間もかかるし機体の導入コストもそれが反映されて高くなってしまう。そして複雑な機体は整備コストもかかるのではないかという議論が出たのである。それだったら既存の空港の滑走路を長くして大型ジェット機飛ばしたほうが導入コストはかかるけど維持コスト安くなるよね? それに空港おっきくなったら国会議員が地元民に「わしのせいで空港がジェット化できたんじゃ!」と威張れるし地元土建屋も大喜び!……という結論になったのである。
時代はバブル真っ只中、土建屋が大喜びで国土を荒らしていた開発していた時代。たとえば、
いまや21世紀。B747やB777といった超大型旅客機が日本全国どこへでも飛んでいける時代である。
その後
FJR710エンジンの技術は後にロールスロイスのジェットエンジンV2500に移転される。V2500はエアバスA320やマグダネル・ダグラスMD-90に採用されるベストセラーとなった。さらにFJR710の開発経験はATD-Xに搭載予定のXF5エンジンの開発に生かされ、P-1に採用されたF7エンジン、そして日本の次期国産戦闘機に搭載予定のハイパワー・スリム・エンジンに繋がっていく。
飛鳥は現在、生まれ故郷の各務原市にある航空宇宙博物館で余生を送っている。もしP-1やC-2のニュースが流れたら思い出してほしい。時代が要求し、その時代に見捨てられたかわいそうな純国産の飛行機がいたことを。
関連動画
40:50より飛鳥登場。
関連商品
関連コミュニティ
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関連項目
- 航空機 / 飛行機
- VSTOL / STOL
- YS-11:日本初の国産旅客機。実は海外製部品の割合が意外に多く、飛鳥は構成部品の純国産化も目標であった。
- 川崎重工業:カワサキか…。
- C-1:元となった機体
- P-1 / C-2:飛鳥のはるかな子孫といえる機体。
- XFV-12
- いらない子
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