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※※注意※※ この記事は、ネタバレになる可能性があります。 具体的なネタバレはしていませんが、この記事の書き方自体が 既にネタバレかもしれません。ご注意ください。 |
イニシエーション・ラブとは、乾くるみの小説。また、その映画版。
あらすじ
Side-A
1987年夏。静岡の大学生・鈴木夕樹は、人数合わせで誘われた合コンで、歯科助手の成岡繭子に一目惚れする。奥手で冴えない鈴木に、しかし繭子の方から不思議と積極的にアプローチがかかる。名前の「夕樹」から、「たっくん」という渾名をもらい、毎週金曜に繭子とデートをするようになる鈴木だったが……。
「私、今日のことは一生忘れないと思う。……初めての相手がたっくんで、本当に良かったと思う」
「初めての相手……だけ?」と聞くと、彼女は微笑んで顔を左右に振った。
「ううん。二度目の相手もたっくん。三度目の相手もたっくん。これからずっと、死ぬまで相手はたっくん一人」
Side-B
大手の内定を蹴り、繭子と一緒にいるために地元企業に就職した鈴木だったが、会社の意向で東京支部に配属され、繭子とは遠距離恋愛をすることになる。初めこそ毎週静岡に戻って繭子と会っていた鈴木だったが、徐々に物理的な距離と金銭の負担、そして繭子の妊娠が、ふたりの関係に溝を生み始める。そこへ、同期入社の石丸美弥子から鈴木へアプローチがかかり……。
「彼からは――天童さんからは、お前にとって俺はイニシエーションだったんだって言われた。……イニシエーションって、言葉の意味、わかる?」
「イニシエーション……通過儀礼ってこと?」
「そう。子供から大人になるための儀式。私たちの恋愛なんてそんなもんだよって、彼は別れ際に私にそう言ったの」
概要
2004年、原書房の叢書〈ミステリー・リーグ〉から刊行。99%まで普通の恋愛小説だが、最後の最後でミステリーに変貌するという巧みな構造で、ミステリ界で大きな話題を呼ぶ。「このミス」12位、「本格ミステリ・ベスト10」6位と高い評価を得て、それまで『Jの神話』などのイメージでキワモノ作家扱いの多かった乾くるみの出世作となった。2012年の「東西ミステリーベスト100」では国内編74位にランクイン。
2007年に文春文庫から文庫化されると、じわじわと売上げを伸ばし、ある時期から爆発的に売れ出して100万部を超えるベストセラーとなった。寡作だった乾くるみは本書のヒット以降はコンスタントに本を出すようになっている。
その作品の性質から「必ず二度読みたくなる」という紹介のされ方をすることが多い。伏線は序盤から多数張られ、ヒントもそこかしこに隠されているが、最後の真相の明かし方があくまでさりげないため、最後まで読んでもミステリーとしての仕掛けに気付かず普通の恋愛小説として読み終えてしまう読者も結構いたという。細かい部分の答え合わせはネタバレ解説をしているサイトがあるので、そちらで確認されたい。
1987年が舞台であるため、80年代のトピックが作中に多数散りばめられており、章題も「君は1000%」「愛のメモリー」「夏をあきらめて」など、80年代のヒット曲から取られている。文庫版には作中の80年代トピックの解説もついているので、当時を知らない人も安心(ただし解説はトリック解明のヒントを与える目的で書かれているため、本文を読み終わってから読むのを推奨)。
ちなみに乾くるみには表紙にタロットカードをあしらった作品シリーズがあり、本作はその中の【恋人】カードの作品にあたる。このシリーズは話自体はそれぞれ独立しているが、天童太郎という人物が共通して登場する。また、本作の姉妹作に『セカンド・ラブ』(文春文庫)がある。
映画版
2015年5月23日公開。監督:堤幸彦、脚本:井上テテ、主演:松田翔太、前田敦子。
原作はその性質上、映像化は絶対に不可能だと言われており、映画化が発表されたときには「アレをいったいどうやって映像化するのか」と原作読者は誰もが首を傾げた。
が、この映画版はなんとびっくり、たったひとつ設定を追加するだけで原作をほぼ忠実に映画化することに成功している。ラストだけが原作から大きく改変されているが、これにより原作よりも非常にわかりやすくなっているため(丁寧な説明パートつき)、原作のラスト2行で「えっ???」となった人も安心。原作既読の人は、どうやって映画化したのか確かめるためだけでも見に行く価値はあるかもしれない。というか散々予告編などでどんでん返しの存在を煽られまくっているので、原作未読より原作を読んでからの方がかえって驚けるかもしれない。
また、原作の章題になっている80年代のヒット曲も(ジャニーズの1曲を除いて)要所で効果的に使われている。
関連項目
親記事
子記事
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兄弟記事
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